表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奪ってくれてありがとう。結果的に、感謝しています。  作者: ごろごろみかん。
5.結果的に感謝しています

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/33

2話:罪の告白

「そういうわけで、つまり、私はあなたを利用したのです」


「……でも、私はあなたに助けられたわ」


いつの間にか、丁寧な言葉は抜け落ちていた。


どこか、リュンガー伯爵には納得した様子があった。やり切った、というか、達成感のようなものすら感じたのだ。


おそらく彼は、このまま本気で、聖職者になろうとしている。伯爵の立場を捨て、社交界を去ろうとしている。


それが、彼のやりたいことなら私も止めはしない。

だけどきっと、彼は──


まだ、やりたいことが残っているはずだ、と思った。

こんな形で聖職者の道を進むことは彼だって望んでいないはず。


私は、ため息を吐くと、王城での王との会話を思い出した。


「……陛下は、あなたと共謀しているかのような言い方をしていたわ。あなたが私を助けたのは、私の好意を得るためだった、というようなことを」


「──」


リュンガー伯爵が薄緑の瞳を見開くので、私は彼が何か言うより早く、彼に言った。


「一瞬、あなたを疑った。裏切られた、とも思ってしまった。……だけど、思ったの。私の知るあなたはそんな人ではない、と。……いいえ、ごめんなさい。実は、そんな感情的なな理由からではないの。もっと、現実的なものだわ」


私は苦笑を浮かべて、肩を竦めた。

戸惑いを見せるリュンガー伯爵に、答える。


「あなたの行動が全て陛下の指示によるものだとしたら……おかしいのよ。陛下の、行動が」


「どういうことですか?」


尋ねるリュンガー伯爵に、私は人差し指を立てて答えた。


「まず一つ目。あなたが私を保護した時に陛下が報告を受けていたなら、ローガンの処刑を発表する必要はなかった。魔法使いの存在を明るみにするのは、リスクが高いもの。それなのに、彼はそれを選択した。まずおかしいのはこの点よ」


リュンガー伯爵は答えなかった。

ただ、難しい顔をしている。

続けて私は、二本目の指を立てた。


「それから、二つ目。陛下は私の魔力封じが外されたことを知らないようだったわ。そして、その後の発言──彼の『なるほど』が、あなたの存在を察したことによるものなら……納得がいくわ」


陛下なら、リュンガー伯爵が聖職者の道に進んだことも当然、知っている。

関係が悪いなら、魔法使いの魔力封じを外す可能性も考えられる、と思ったことだろう。

すぐに、陛下はリュンガー伯爵の存在に行き着いたはずだ。


「総合的に考えて、あなたと陛下が共謀しているとは考えられなかったの。……リュンガー伯爵。私の目的は、陛下の退位だった。それが叶えられた以上、私はほかに求めることは無いわ」


「…………」


尚も、リュンガー伯爵は答えない。

だから私は笑って言った。


「あなたには感謝しているの。グレースを連れて帰るかあなたが尋ねた時、すごく嬉しかったわ。リディアに会わせてくれて、ありがとう」


「それは」


「それに私、あなたの依頼をまだこなしていないわ。手編みコースター、作っている途中なの」


言外に、今リュンガー伯爵が居なくなったら困る、と伝える。予想通り、彼は困惑した様子だった。

それから、彼は視線を彷徨わせ──諦めたようにまつ毛を伏せた。


「……嘘をつきました」


「えっ?」


「あなたの存在のことは……もっと前。あのの夜の前から、気にしていた。あなたが、魔法使いであったから」


彼の告白に、私は目を瞬いた。


「魔法使いの存在は、早くから聞いてたんだ。前代の魔法使いが自死だと知った時から……おそらく私は、あなたと母を重ねてみるようになったのだと思う」


いつの間にか、リュンガー伯爵の敬語も、取れていた。

互いに、自然に、言葉を交わしていた。


(前代の魔法使いが……自死?)


それは知らないことだった。

私と、亡くなったお母様を重ねて──それで、心配していた、ということなのだろうか。


「あなたがしていた魔力封じには、自死防止の呪いがかけられています」


「な……」


死ぬつもりは無い。


だけど、それを防止する呪い──とは。

想像以上の管理体制に、もはや何を言っていいのか分からない。


絶句する私に、リュンガー伯爵は淡々と言った。まるで、罪を告白するように。


「母のこともそうだ。非人道的なことをなんとも思わずに行う陛下を軽蔑したし、あんな血が私にも流れていることに絶望した」


「……リュンガー伯爵」


私の声に、リュンガー伯爵は顔を上げた。

そして、何かを訴えかけるように、強い眼差しで私を見た。


「婚約は、断ってください。あなたを、不幸にするだけだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ