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奪ってくれてありがとう。結果的に、感謝しています。  作者: ごろごろみかん。
3.どちらに転んでも

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2話:トカゲの尻尾切り

「口を慎みなさい」


「嫌よ!!だって私は、お父様の言う通りに従ったわ。好きな人を夫にしていいってお父様が言うから、私はローガンに……あんなことをしたっていうのに!あんなことがあったせいで、ローガンは私を軽蔑するようになったわ。私はふしだらで、体を使って、男を騙す悪女になった!」


「黙りなさい、デライラ」


「それなのに、今になってキャロラインの方が大事?魔法使い?知らない知らない知らない。そんなの聞いてない!!!!」


もはや、王女殿下の声は悲鳴のようだった。

あまりに声が大きいので、通路を挟んだ向こうにも届いていそうだ。

そう思って、振り返ったところで、私は驚きに息を呑んだ。


この騒ぎに、城勤めの使用人たちが起きてきているのだ。

彼らたちは、コソコソと何か話し込んでいた。しっかり、私のことも見られている。


(最悪だわ……)


密かに陛下と取引を交わし、城を後にする──という案だったのに。

それは、適わなくなってしまった。

泣き叫ぶ王女殿下に、しばらく陛下は彼女を好きなようにさせていたが、やがてうんざりしたように言った。


「静かにしなさい!みな、お前のことを見ている」


「だから何!?私は、お父様が処刑を取りやめるまで、ここをひかないわ!」


「虚言も程々にしなさい」


「──」

「ハッ?」


王女殿下の息を呑む声と、私の声が重なった。

王女殿下は、薄い青色の瞳をこれでもかというほど見開いていた。

それから、震える声で彼女が言う。


「虚言……?虚言、ですって?私が?」


「ついに頭がおかしくなったのか?おい、これを部屋に連れ戻しなさい。これ以上恥を晒すわけにはいかん」


その言葉に、彼女は陛下に掴みかかるようにして怒鳴った。


「ふ、ふざけないでよ!!ふざけるな!!あなたが……お父様が言ったんでしょう!?ローガンを体で落とせって!!それなのに何よ今更!?全部無かったことにすると言うの!?最低!!さいっていだわ!!あなたなんか、地獄に落ちればいい!!死ね!!死んでしまえ……ンッ、ンムッ、ンンンンーー!」


それ以上、王女殿下の言葉は声にならなかった。近衛騎士によって、口を封じられたからだ。


それに、陛下がやれやれと肩をすくめる。


「全く。妄想癖が激しいのは知っていたが……まさか、私に責任を押し付けるとはな。やはり、デライラ。お前には王女の務めは果たせまい」


「ンンンンー!!」


王女殿下は何か言おうと暴れ回っているが、近衛騎士の手は振り切れない。布を噛ませられた彼女は、言葉を封じられていた。

陛下は憐れむように、王女殿下を見た。


「ちょうどいい機会だから、言っておこうか。デライラ。お前はな、私の子ではないんだよ」


(…………ハッ!?)


突然、この人は何を言い出すの。

そう思ったのは、私だけではなかったらしい。王女殿下もまた、ぎょっとしたように陛下を見る。

しかし陛下は、まるで『いつ言おうか迷っていた』とでも言いたげに、顎髭を撫でながら彼女に言った。


「時期がね、合わないのだよ。お前の母は奔放だろう?だからそういうことも有り得ると思っていた。しかし私は、彼女に癒しを求めていたからね。たかが愛人の火遊びを咎めるほど、狭量でもない」


この人は……この男は、一体何を言い出すのだろうか。


ふと、思い出す。

リュンガー伯爵の言葉を。


今の王は目的のためなら手段を選ばない、酷く残忍で、非道な人間だと。


彼の話で聞いてはいたけれど──。

その一端をまさに今、私は目の当たりにしている気がした。


「元々疑わしいとは思っていたが──もはや、こんな騒ぎを起こした以上、無罪放免というわけにもいかん。ちょうどいい機会だ。お前の身分は取り上げ、王族籍からも抜くこととする」


「──、──」


慈悲の欠片もない陛下の言葉に、王女殿下は零れんばかりに目を見開いた。

言葉も出ない王女殿下を、引きずるようにして近衛騎士が連れていく。


場には、気まずい静寂が漂った。


(一体……何が、どうなって)


王女殿下が、陛下の子供ではなかった?

つまり、愛人が裏切ったということだ。


ここには見物人がいる。

見物人には、行儀見習いで城に勤めている貴族令嬢もいる。

社交界の噂になるのは必至だろう。

もはやなかったことには出来ない。


愛人もろとも、王女殿下は地位を追われることになる。


目まぐるしい変化に、頭が追いつかなかった。


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