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奪ってくれてありがとう。結果的に、感謝しています。  作者: ごろごろみかん。
3.どちらに転んでも

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1話:あの日の真実

王女殿下の薄青の瞳が見開かれる。

そして彼女は、私が何か言うより先に、騒いだ。


「キャロライン!!やっぱりあなただったのね!あなたがローガンを貶めたのでしょう!?」


(しまった……)


見つかってしまった。

これでもう、隠れることは出来ない。近衛騎士の視線も、ばっちり私に向いている。

仕方なく、私は花瓶台の影から出ると、王女殿下に向き直った。

そして、彼女に言う。


「お言葉ですが、王女殿下。一方的な言いがかりはやめていただきたいですわね」


「違うって言うの!?今ここにあなたがいることが、何よりの証明じゃないの!」


「私は、陛下に嘆願のために来たのですわ。王女殿下の考えとは異なります」


「嘘よ!!お父様に頼み込んで、ローガンを殺させるつもりなのでしょう!?考えてみたら、おかしいのよ。婚約者がいても問題ない、なんて。なにか裏があるに決まっているわ!」


婚約者がいても、問題ない……?

それは、誰の言葉なのだろうか。

もしかして、陛下の?


あの夜の真相に、今なら踏み込めるかもしれない。

今更、あの夜、何があったかなんてどうでもいい。それを知ったところで、私の気持ちは変わらないからだ。

だけど、知らないままでいるのも気持ちが悪い。

私が尋ねようととしたところで、近衛騎士が阻むように私の前に立った。


「あなたたち……」


「魔法使い様ですね。お待ちしておりました。陛下は、こちらです」


「私が来るのが、分かっていたかのようですのね」


「…………」


近衛騎士は答えない。

しかし、それが答えだろう。


私はリュンガー伯爵の言葉が正しかったことを知った。

無視されたように感じたのだろう。王女殿下は、近衛騎士を押しのけようとしながら大声で言った。


「分かった。ようやく分かったわ!!あなたの狙いは、お兄様だったんだわ。王太子妃になりたくて、私にあんなことをさせたのね!」


「あんなこと、とは?」


「私に、ローガンを貶めるように言ったのでしょう!?お父様に!」


「何を……」


王女殿下の言葉は支離滅裂だ。

だけど、今、彼女は大事なことを言っているような気がした。


彼女はなぜ、私が王太子妃の座を求めていると思っているの?

それならまるで、私がローガンを邪魔に思っているかのよう──私がそう思ったところで、その場に第三者の声が響いた。


「随分訪問が遅いと思えば……それに捕まっていたのか。キャロライン」


「……………陛下」


この国を統べる王。

そして、恐らく──全ての発端であり、糸を引いている人物。

私が振り返ると、そこには予想通り、ルヒトゥルス国の国王が、そこにはいた。


「お父様……!!」


王女殿下が希望を見出したような声を出す。

そして、近衛騎士の制止を振り切って、彼女は縋るように陛下に頼み込んだ。


「お願い。ローガンの処刑を止めて!!キャロラインは生きてるじゃないの。だったらもう、良いでしょう!?」


王女殿下の声は絶叫に近かった。

嗚咽を零しながら、彼女が必死に言い募る。

しかし、陛下はちらりと王女殿下を見ただけで、答えない。

彼は控える近衛騎士に指示を出した。


「誰がこれを、ここまで入り込ませていいと言った?」


「ハッ。申し訳ありません」


「デライラ。部屋に戻りなさい。お前は全く、役に立たない娘だ」


「お父様……!!どうして!?どうしてなの!?」


一体、何が起きているというのだろう。

陛下と王女殿下の関係が読めない。

困惑していると、王女殿下の視線が私に向いた。

彼女は縋るように私を見たあと、何か思いついたように顔を上げた。彼女の顔は、涙でぐちゃぐちゃだ。


「私……私が、代わりの魔法使いになるわ!!ねえ、それでいいでしょう!?キャロラインなんかいらないじゃない。放逐してしまえばいいわ!」


王女殿下の突拍子の無い言葉に、面食らう。

魔法使いになる、という発言自体もそうだけど、突然でてきた放逐という単語にも驚いた。

魔法使いは、なろうと思ってなれるものではない。

魔力量によって嵌められる枠組みだからだ。

そして、魔力量というのは幼少期から10代にかけてが一番伸びる。

王女殿下は、十六なので、既に成長期はおえているはずだ。

文官や騎士を目指すのとは訳が違う。


王女殿下の言葉に、陛下は白けた目を向けた。

その後、彼は、ポケットからあるものを取り出した。

それは、水晶玉のようだった。

魔力量測定の際、使用するものだ。


「ならば、ここに魔力を込めてみるがいい。お前が真に魔法使いなら、それが応えるはずだ」


王女殿下は、一縷の望みをかけて、なのか、水晶玉を受け取った。

一体私は、何を見せられているというのだろう。

唖然としていると、その場に淡い光が迸った。魔力測定器──つまり、水晶玉が王女殿下の魔力に反応したのだ。


それは、橙色だった。

魔力には、ランクというものがある。


下から、黒、青、黄、緑、橙、桃、銀、金の、8段階だ。

魔法使いの場合、水晶は光り輝く。

つまり、橙というのは中の上レベルなのだった。

それでも、王女殿下は泣きながら魔力を込める。もはやその姿は痛々しい。


「陛下。これは何を──」


見せられているのですか?という言葉は、最後まで音にならなかった。

王女殿下が、泣きながら水晶玉を放り投げたからだ。


ガシャアアン!と音を立てて、水晶玉が割れる。


彼女は地団駄を踏んで、嘆いた。


「どうして!?どうしてなの!!お父様は、私にローガンをくれると言ったじゃない!!それなのにどうして、私から彼を取り上げようとするの!!」


とんでもない告白に、絶句した。


今、王女殿下は、重大な秘密を口にしている自覚が、ないのだろうか。


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