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辺獄の黒騎士  作者: シベハス
第四部
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第三章 賽は投げられたⅧ

 ガイウスがマリアに保護されてから一週間が経過した。まったく動かなかった体も次第に回復し、今では自分の足で立ち上がれるくらいにはなっている。しかし、それでもまだ日常生活を介助なく送ることはできなかった。“帰天”も使うことができず、欠損した左腕も未だに再生できていない。


「どうしたの? また脱走?」


 昼前、マリアの自宅前の野菜畑にて、彼女がガイウスを見て小首を傾げた。マリアはちょうど野菜を収穫している最中で、周りにはすでに取ったばかりの野菜で一杯になった籠が幾つもあった。


「まあ、動けるなら好きな時に出ていけばいいよ。ただ、この近くでまた倒れるのはやめてね」


 マリアは、家の玄関前で佇むガイウスを一瞥したあと、また収穫作業に戻った。


「どうして俺を助けた?」

「どうしてって……死にそうだったから。家の近所で重傷者が転がっていて、気分良くなるヒトなんて普通いないでしょ」


 収穫の手を止めずにマリアが答えると、ガイウスは怪訝に眉を顰めた。


「俺が悪党だったらどうするつもりだった?」

「アタシ、エルフなんで。死にかけの人間の男に襲われたところで返り討ちにして終わり。それに、アンタの背中見て騎士ってわかったし。高潔な騎士様は、一般人に暴力なんて振るわないでしょ」

「こんなところに一人で暮らしているのか?」


 立て続けに質問するガイウス――マリアは見かねたように溜め息を吐いて立ち上がり、詰め寄った。


「先に何か言うことあるんじゃないの、命の恩人に? それとも、騎士って礼儀作法は教わらないの?」


 腰に両手を当てて眉先を吊り上げるマリアを見て、ガイウスは咄嗟に視線を落とし、目を逸らした。


「……迷惑をかけた、すまない」

「ありがとう、でしょう、そこは。それと、そろそろ名前くらいは教えてくれてもいいんじゃない? もう一週間も“アンタ”じゃ締まらないでしょ」

「……ガイウス」


 小声でガイウスが名乗ると、マリアは力なく笑った。やれやれとため息を吐きつつ、右手を差し出す。


「改めてよろしく、ガイウス」


 ガイウスが徐に手を握り返そうとすると、先にマリアの方から手を握ってきた。

 仕切り直しの挨拶を終えると、


「で、さっきの質問だけど、ここには一人で暮らしてる。わけあって、エルフたちとは一緒に住めなくなったから。だからって人間と一緒に生活するのも面倒でね。長命種だと、色々あんのよ」


 マリアはガイウスの質問に答えてくれた。次に彼女は、ガイウスの額に手を当てる。


「まだ熱あるね。こんなところで突っ立ってないで、怪我人は大人しく寝ときなよ」


 そうして二人は家の中に戻った。マリアは半ば強制的にガイウスをベッドに座らせると、何も言わずに彼の上半身の包帯を取っていった。

 打撲や火傷、加えて凍傷などの怪我が生々しく至る箇所に残っており、完治したところはまだなかった。本来、騎士の身体であれば数日のうちに治癒してしまうのだが、ガイウスの身体は相当弱っているようで、普通の人間以上に治りが遅かった。


「騎士なのにだいぶ怪我の治りが良くないね。やっぱり、街で薬とかもらった方がいいかな」

「余計なことはしないでいい」


 マリアの提案に、ガイウスは首を横に振った。すると、彼女はムッとして顔を顰めた。


「勝手に治療したのはアタシだけど、そんな言い方はないでしょうに。明日、街に野菜売りに行くついでに薬買ってくるから、留守番お願いね」


 そう言ってマリアは、ガイウスの身体に包帯を巻き直した。最後にベッドに寝かせ、毛布を被せてくる。


「あ、そうだ。その時にアンタのこと教会に伝えとく? 重傷の騎士がこんなところでいつまでも音信不通状態だったらまずいでしょ」


 その問いに、ガイウスは竦むような思いになった。体の傷以上に痛いところを突かれたような感覚が胸に走る。


「いや、いい」

「いいの?」


 マリアが小首を傾げると、ガイウスは横向きに寝て背を向けた。


「……もう、騎士団には戻りたくない」

「それさ、ヤバいことになるんじゃないの? 騎士が勝手に逃げ出すのは重罪でしょ? 最悪、破門にされて黒騎士に認定されるよ? 教会に殺されるよ?」

「それならそれでいい」


 ガイウスはそれきり、不貞寝するように黙り込んだ。


「まあいいや。そうなった時は、アタシのことは巻き込まないでよ」


 これ以上は何をどうやってもお手上げだと、マリアは諦めた顔で踵を返した。







 ガイウスとマリアが出会ってから一ヶ月――ガイウスは辛うじて自分のことは自力でできるまでに回復した。マリアが提案した薬の使用が効果を出したようで、体力を回復しつつ、体に巻く包帯の面積を減らせる程度に傷を治癒させることができていた。


「ただいまー」


 今日も、マリアが人里の街から半日をかけての買い出しを終えて帰宅した。ここから最寄りの街までは成人が徒歩で四時間はかかる距離にあった。マリアは家から街までを荷車を引いて移動しており、行きは売り物の野菜を、帰りは街で買った日用品を乗せて戻る。たかが買い物と言っても、エルフとはいえ、重労働であることに変わりはなかった。


「ちょっと買いすぎたか」


 マリアはすぐに家には入らず、家の扉を開けてすぐにまた外に出て行った。怪訝に思ったガイウスが釣られて外に出ると、そこにはいつも以上に山積みにされた買い物の品が荷車に乗せられていた。


「いつもより多いな。何を買った?」


 ガイウスが呆気に取られて言うと、マリアは荷車から荷物を一つ手に取った。そして、ガイウスに投げつける。それは、男物の衣服だった。


「アンタの着替えとかご飯とか。この家、買い物しないと食べ物は基本的に野菜しかないし、男物の服もないからね。それとも、また余計な事って思ってる? だったら野菜しか食べさせないし、アタシのワンピース着せるけど。断っておくけど、服はちゃんと着替えてもらうからね。臭いの嫌だし」


 ガイウスの他人事な態度に腹を立てたのか、マリアはどこか刺々しく答えた。これには思わず、ガイウスも畏縮したようになる。


「いや……」


 ガイウスは頭に乗った服を腕で取った。


「自給自足の生活で金を稼げるのか?」

「野菜が売れるからね。エルフが作って直接売るだけで、飛ぶように売れんのよ。人間さんたち、何を勘違いしているのか知らないけど。ただの野菜なのに」


 咄嗟に出てしまった素朴な疑問に答えたマリアは、胸を張って笑った。


「こう見えて、結構繫盛してんのよ」


 この時のマリアの笑顔は、ガイウスの頭に一生焼きつけられることになった。







 ガイウスの身体は、一年が経ってようやく人並の生活を送れるまでに回復した。体の傷は左腕の欠損以外すべて癒え、体力も充分に戻っている。力も入るようになり、騎士の身体能力を取り戻しつつあった。


「もうだいぶ動けるようになった。体に力も入る。次から、俺が買い物に行く」


 マリアが夕食の準備をしている時、不意にガイウスがそう申し入れた。マリアは肉を焼く手を止め、呆けた顔で振り返る。


「どうしたの、急に?」

「いつまでもタダ飯で世話になっていられない」


 マリアは少し間を置いて考えたあと、何かを思い付いたように顔を明るくした。


「じゃあさ、買い物はいいから畑仕事手伝ってよ」


 予想しなかった回答に、ガイウスは小首を傾げた。


「行きも帰りも大荷物で大変だろ。今なら俺の方が力仕事ができる」

「人前に出たら教会にバレやすくなるんじゃないの? だったらここで引きこもってた方がいいでしょ」


 そう言って、マリアはまた料理の手を再開した。

 しかし、ガイウスは困った顔で俯く。


「……畑仕事のやり方を知らない」

「それはちゃんと教えるから。ていうか、騎士でも知らない事ってあるんだ。何でもできるスーパーマンだと思ってた」


 揶揄するように言ったマリアだったが、対するガイウスはさらに顔を暗くした。

 その脳裏によぎるのは、騎士としての初任務で、何一つ守りたいものを守れなかった記憶――戦場で散った恩師と、犠牲になった子供たちの顔が強く思い出された。


「……できることなんて何もない」


 ぼそりと言ったガイウス――そんな彼の肩を、マリアは気さくに軽く叩いた。


「じゃあ、なおのこと畑仕事覚えないとね。ほら、さっさと料理テーブルに運んで」







 季節が一巡し、さらに三ヶ月が過ぎた頃には、ガイウスの体力は完全に戻っていた。かつての身体能力を完全に取り戻し、“帰天”を使えるまでになっている。


 それを確信した時、ガイウスは毎朝の日課の畑仕事を始める前に、欠損した左腕の再生を試みた。


 家の少し広いスペースの中央で、意識を集中して“帰天”を発動させる。一瞬の淡く青い光に包まれたのち、ガイウスの頭上に光輪が現れた。それから間もなくして、左腕が完全に再生される。


「おお、凄いね。本当に腕が生えた」


 朝食の後片付けを片手間に見ていたマリアが、目を丸くして驚く。

 ガイウスはその反応をどこか得意げに見遣り、嬉しさに顔を綻ばした。


「もう完全に治った。マリアのおかげだ、ありがとう」

「どういたしまして。これで次の収穫スピードが上がるね」


 現金な事を言ってきたマリアに、これは敵わないと、ガイウスは小さく笑った。そこでふと、あることを思い出す。

 ガイウスは家の扉の近くに置いてあった封筒を一つ手に取り、マリアに差し出した。


「そういえば、さっきお前が家の裏で作業していた時、これが届けられた」

「お、どうもね」


 マリアは皿洗いで濡れた手を手早く拭いたあと、駆け足で近づいて封筒を受け取った。


「こんなところでも郵便物は届けられるんだな」

「住み着いてからそれなりの年月経ってるからね。ちなみにアタシ、こんな若々しい見た目してるけど、アンタからしたら結構なお婆ちゃんなんだからね。ちゃんと敬ってよ」

「八十くらいか?」

「大体あってるけど、そんなストレートに聞かない」


 ガイウスの揶揄いに、マリアは露骨に顔を顰めて叱った。

 それから彼女は封筒の中身を開けた。入っていたのは複数枚に分かれた手紙だ。ガイウスの位置からは何が書かれているのか見ることができないが、かなりの長文が書かれていることが日光を受けた紙の透け具合でわかる。


「……たまに封筒が届けられているが、誰かとやり取りしているのか?」


 あまりにも楽しそうに読むマリアの表情が気になってしまい、ガイウスは思わず訊いてしまった。彼女と出会ってから今までは、ただの居候の身でもあるため、プライベートに深く係ることは敢えて訊かなかった。だが、彼女はいつも、不定期に送られてくる封筒を受け取っては楽しそうにしており、ガイウスは次第にそのことが頭にチラつくようになっていた。


 興味津々の眼差しを送るガイウスに、マリアは一瞬だけ警戒した顔になった。

 しかし、


「……まあ、ガイウスなら言ってもいいか」


 手紙を読む手を下ろした。

 そして、手紙の最後の一行を見せてくる。


「手紙の相手はアタシの妹、つまりシスター・リディア。こうやってたまにお互い生存確認してんの、近況報告も兼ねて」


 確かにそこには、リディア、と記されていた。


「そうか……」


 リディアと聞いて、ガイウスは非常に複雑な気分になった。幼いころに暮らした孤児院の育ての親であるリディア――その姉が、このマリアであることに、どこか運命的な親近感と共に、羞恥心にも似た居たたまれない思いが燻った。


「ちなみに、ガイウスのことはアタシからは何も伝えてないよ。ただ、あっちの方は結構な大事になってるみたい」

「その手紙、読んでもいいか?」

「読めないと思うよ。古代エルフ語でやり取りしているから。それに、騎士が行方不明になって騒ぎになってるって教えてくれたのは、もう一年以上前かな。アンタを拾って少ししてから」

「そんなに前か。俺のこと、リディアを通じてさっさと伝えることもできたのに。そうすれば、厄介払いができただろ」


 ガイウスの言葉に、マリアは肩を竦めた。


「だって、騎士団に戻りたくないんでしょ? 死にかけだったくせに、何今さらカッコつけたこと言ってんの」


 そう煽りながら、マリアは手紙をひらひらと揺らした。

 弱いところを指摘され、苦虫を嚙み潰したような顔になるガイウス――その一瞬だった。騎士の動体視力が、意図せずに、マリアの手元で揺れる手紙の文章を読み取ってしまった。彼女の言う通り、文章はすべて古代エルフ語で書かれていたが――幸か不幸か、ガイウスにはそれなりの翻訳知識があった。


「――“私たちの秘密”?」


 思わず、読んでしまった一文を声に出してしまった。

 刹那、マリアの表情が、凍てつくように強張った。


「ちょっと、手紙勝手に読まないでよ。ていうか、古代エルフ語読めるんだ」


 今までに見たことがない鬼気迫るマリアの顔に、ガイウスは背筋を伸ばす。咄嗟に視線を彼女と手紙から外し、面目なく、しおらしくした。


「す、すまない。古代エルフ語は、魔術に使う程度で少しだけ……」


 謝罪したものの、両者の間に、嫌な沈黙と空気が流れる。

 ここからどう彼女の機嫌を取り戻すか、ガイウスが必死になって思考を巡らせていたが――


「まあいいや。さっさと今日の作業やっちゃお」


 すぐにマリアはいつもの調子に戻ってくれた。

 ガイウスは、彼女が部屋の戸棚に封筒を大事そうにしまうのを見たあとで、外に出た。







 二年という月日は、ガイウスがマリアに想いを寄せるのに充分すぎる時間だった。見ず知らずの瀕死状態だった自分を保護し、長い期間、献身的に看病をしてくれたばかりか、騎士であることを教会に伝えず、詮索することなく自分の希望を優先的に叶えてくれた。

 何より、彼女の生き方に強い憧れを抱いた。決して裕福な生活ではなくとも、逞しく気丈に生きる姿は、ガイウスの瞳にはこの上なく魅力的で、眩しく映った。


 もっと彼女と一緒にいたい、あわよくば、この先、一生――きっかけは、そんな卑俗な恋情だった。


 マリアは、その生い立ちなどを含め、ほとんど自分のことを話さなかった。だからこそガイウスは自らのことを詳しく話し、彼女にもっと知ってほしいと思ったが――騎士の身分であるがゆえに、それは許されなかった。マリアもそのことは承知しているのか、日常会話の中でガイウスが過去のことに答え辛そうにしていると、すぐに話を切り上げてくれた。


 互いに互いのことを知りたくても知れない――そんなもどかしい思いが暫く続き、ついにそれがガイウスを動かした。


 ガイウスは、マリアが買い物で留守の間に、彼女が大切に保管しているリディアとの手紙と、一緒にあった日記を盗み見てしまった。


 そして、彼女たち姉妹の生い立ちを知り、頭を真っ白にさせた。


 まず始めに驚いたのは――彼女たちが、娼婦だったエルフの女と人間の男との間に身籠った双子であること。それはつまり、二人がハーフエルフ――教会が禁忌として定めている混血であることだった。


 その後は、過去に二人が体を売って生き抜いていたこと、教会の枢機卿に取り入ったこと、当時の教皇にすら体を許していたこと――そして、その時に“写本”と、人類を人為的に進化させる創世の魔術なるものの存在を知り、自分たち狭間の者に居場所など存在しないと見限った際に、それを実行する誓いを立てていたこと――それらをガイウスは知った。


 早朝にマリアが街に出て行ってから日が暮れる時まで、ガイウスは一心不乱に読み耽った。慣れない古代エルフ語を地道に翻訳しながら、次々に出てくる衝撃的な内容に、息を呑んだ。


 そのせいで、ついにガイウスは、家の扉が開けられるまで、マリアが帰ってきたことに気づけなかった。


「ま、マリア……」


 月明りを後ろに家の出入り口に立つマリアは、手紙と日記をテーブルに広げて読むガイウスを、無表情に見つめていた。


「すまない、どうしてもお前のことが気になって――」


 ガイウスが弁明しようと近づいた時、マリアは突然部屋の隅に速足で移動した。彼女はそこにあった棚から小さな革袋を取り出すと、叩きつけるようにガイウスに押し付けた。


「な、なんだ、これ?」

「それなりのお金入ってるから。それ持って出て行って」


 マリアの声は今までに聞いたことがないほどに冷たかった。


「待ってくれ! 勝手に手紙と日記を見たのは悪かった! だけど――」

「出て行って」


 まるで氷像のようになってしまったマリア――ガイウスは、ただただ自分の愚行を後悔し、項垂れることしかできなかった。


「本当に、悪かった……」


 覇気のない声で謝るガイウスに、マリアは背を向ける。


「アタシとリディアがハーフエルフだってことは、黙ってて。看病代と思えば、安いもんでしょ」


 もはや、怒りを通り越して、敵意や殺意に似た感情を抱いているようだった。どんな言葉をかけても、彼女はその態度を軟化させることはないだろう。


 裏切ってしまったのは自分だ――己を責め立てるガイウスの心は、親に叱られた子供のそれよりも遥かに脆く、弱ってしまった。


 どうすればいい、どうすればまだ彼女と一緒にいられるのかと、焦燥感と恐怖に殺されそうだった。


「今なら人目につかないで移動できるから、今すぐここから――」


 追い詰められたガイウスは、マリアを後ろから抱き締めていた。


「ちょ、な、なに!?」


 咄嗟の出来事に、マリアが声を上ずらせて抵抗する。

 しかし、


「……ここに――お前と一緒にずっといたい」


 ガイウスは、縋るような思いで彼女を抱き寄せた。


「何寝ぼけたこと言ってんの、できるわけないでしょ」


 それでもなお拒絶するマリア――次第に、語気が荒くなっていく。


「アタシがアンタみたいなガキに何か想ってるわけないでしょ!」


 体を揺さぶり、どうにかしてガイウスを振り払おうとしていた。


「日記見たなら、アタシが今までどんな風に生きてきたのかも知ったんでしょ!? 体だって売ったし、悪いこともしてきた! だから……」


 だが、それも長く続かず、力を失うように大人しくなる。

 そして――


「この世界で生きてちゃいけない存在なんだよ、アタシたち姉妹は……」


 達観したような、諦めたような口ぶりで、そう言った。


「お願い、放して……」


 やんわりと腕を払おうとするマリアだったが、ガイウスは一切の力を緩めなかった。


「俺はお前のために生きたい。だから、お前も俺のために生きてほしい」

「だから、アタシはハーフエルフで、アンタは騎士で! どうあっても一緒には――」


 その事実を否定するように、ガイウスはマリアに唇を重ねた。


 一秒、また一秒と経ち――マリアの両腕はガイウスの身体に回され、閉じた目から零れた涙が頬に軌跡を残していた。

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