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辺獄の黒騎士  作者: シベハス
第四部
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幕間 最後の遑

「ランスロットから報告があった。“ノリーム王国の八割を制圧完了、十字軍の駐留準備に入る。”だってさ」


 教皇庁本部ルーデリア大聖堂の執務室に入るのと同時に、パーシヴァルが言った。執務室では、ガイウス、トリスタン、ガラハッドの三人がテーブルを囲んで小さな会議を開いているところだった。


 ガイウスは会議の手を止め、パーシヴァルを見遣った。


「ランスロットと空中戦艦が戻るのは何日後だ?」

「一週間もあればこちらに戻せるはずだ。ランスロットを戻した後は、一万人の兵士があちらに残る」


 パーシヴァルが書類を手渡すと、ガイウスは斜め読みを始めた。間もなく書類をテーブルに置き、視線をパーシヴァルに戻す。


「多すぎる。その半分でいい」

「復興が大幅に遅れることになるけど?」

「復興させる必要がない。国民たちが大人しくなるなら、そのままでいい」

「一応、騎士団含めて世間には正常化させることを名目にしているけど、いいのかい?」

「構わない」


 パーシヴァルは肩を竦めた。

 彼がソファに座ると、ガイウスはテーブル上の書類を一枚手に取った。


「この件について訊きたい。ガリア軍が保有していた気象兵器の方はどうなっている?」


 パーシヴァルは書類を受け取り、内容を確認した。


「改修済みだよ。問題も発生していない。予定通り、時期を見計らえば、いつでも使うことができる」

「試運転はすませたのか?」

「もちろん。騎士団にも気付かれていない」


 そう言ってパーシヴァルは得意げに胸を張った。それには構わず、ガイウスが続ける。


「なら、例の人選結果の件は? ステラ女王には伝えたか?」

「伝えたよ。今は彼女からの回答を待っている。誰を世界に残すのか、よく考えている」

「回答が来たらすぐに俺に伝えろ。急いで確認する」

「了解」


 滞りのない進捗に、ガイウスは無表情ながらに満足した様子を見せた。

 それを見ながら、パーシヴァルは嬉々として足を組む。


「前準備も大詰めだね。創世の魔術と“騎士の聖痕”の研究も完了している。君がGOサインを出す日も近い」


 ガイウスは長い息を吐いた。深く目を瞑り、眉間を強く押さえる。


「お疲れのようだけど、気を抜くにはまだ早いよ。始めたら、すぐに騎士団が気づいて妨害してくる。本番はそれからだ」

「そうだな」


 ガイウスは気を引き締めるように目を見開いた。誰がどう見ても疲労がたまっている様子――それもそのはずで、彼はシオンたちとの面会が終わってから今この瞬間まで、まともな寝食をしていないのだ。


 当然、そのことはパーシヴァルたちも知っており、呆れたように微笑した。


「今のうちにゆっくり休んだらどうだい? これから先は、一度事態が動き出したらもう止められない」


 ガイウスは背もたれに身体を預けたあと、天井を仰いでまた長い息を吐いた。それから徐に立ち上がり、扉に向かって踵を返す。


「そうさせてもらう。何かあった時はすぐに呼べ」


 そう言い残してガイウスは退室し、扉が閉められた。

 パーシヴァルはトリスタンとガラハッドに視線を送る。


「トリスタン、ガラハッド、君たちも休める時に休んだ方がいい。それと、何かやり残したことがあれば早めに片付けておきな。仕事にしろ、プライベートにしろ。最後に会いたいヒトとかがいれば、今のうちに済ませておくように」


 言われて、トリスタンは小首を傾げた。


「そういうお前は?」

「先生くらいかな。会わなくてもいいけど」

「我々の計画内容を悟られるなよ」

「大丈夫。で、君はどうなんだい、トリスタン?」


 トリスタンは肩を竦める。


「私はいい。特に会いたいと思う者はいない」

「僕みたいに昔の師匠くらいには挨拶したら? 会ったらハンスも喜ぶんじゃない?」

「相手にされずに終わる」


 その回答に、パーシヴァルはつまらなさそうに鼻を鳴らした。次に、ガラハッドを見る。


「そう。じゃあ、ガラハッドは?」

「今このタイミングで総長に会おうと思って会えると思うか?」


 その冷めた態度にパーシヴァルは笑った。


「そりゃ無理だ。なら、弟子のアルバートは?」

「トリスタンと同じだ。碌に話すこともない」

「皆、孤独で寂しい人生を送ってるね。僕も含めてだけど」


 自嘲気味に言って、軽く首を横に振る。


「まあいいさ。今は時間に余裕がある。ガイウスが休んでいる間、やりたいことがあれば各々好きにしてよ」


 そう言って立ち上がり、執務室を後にしようとした。

その時、


「パーシヴァル」


 不意にガラハッドが呼び止めた。

 パーシヴァルは足を止め、振り返る。


「なんだい?」

「ガイウスは、聖王をどうするつもりだと思う?」

「また唐突に訊いてきたね。でも、僕にはわからない。ただ――僕が彼なら、新しい世界に残しておく道理はないと考えるけどね」

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