第二章 魂を鬻ぐ者Ⅷ
ノリーム王国の修道院は国土の南西部に位置する小さな山の中に存在していた。この国の修道院は男子と女子で二つに建物が分けられ、それぞれが別の場所に建てられており、二人の目指す目的地は前者であった。女子修道院は山の麓付近――都市機能を利用しやすい人通りの目につく場所にある一方で、男子修道院は碌に舗装されていない山道を数時間ばかり歩いた所にある。一般人であれば、まず車がなければ目指すこともない場所だ。
そんな立地ゆえ、シオンとイグナーツが件の建物を見つけた時には、太陽はすでに頂点を過ぎていた。
男子修道院は敷地全体がレンガ造りの外壁で囲われており、正面の門を抜けた先にはまず庭園が広がっている。花壇などはほぼ手入れがされておらず、枯れ木や落ち葉が一面に散乱している状態だ。それらを踏みしめて進んだ先にあるのは、本堂と思しき立派な建物である。修道院はこの本堂を起点にするようにして、周囲の他の建築物と短い連絡通路で繋がる構造だった。
二人は、正面の本堂から右に回り込むように庭園を歩き進む。修道士たちの生活区域とされる所に向かっていき、干されている洗濯物を根拠に寮らしき建物を見つけた。
イグナーツが、木製の扉に備え付けられたドアノッカーを勢いよく鳴らす。すぐに反応がなかったため、さらにもう一回――しかし、どれだけ待っても、扉の奥から人の気配はなかった。
「留守ですかね?」
まったく誰も来ない雰囲気に、イグナーツが怪訝に言った。もしかすると、すでにここの修道士たちもガリア軍によって強制連行されてしまったのかもしれない――と、そう思った矢先だった。
「いや、誰か来る」
シオンが言った通り、扉の奥から微かな足音が聞こえてきた。慌てた様子もなく、心なしか妙に弱々しい足取りだった。
シオンとイグナーツは顔を見合わせ、互いに違和感を覚えたことを確認していると――扉が動いた。
だが、すぐに全開とはならず、まずはネズミ一匹が通れるほどの隙間が開けられる。それから数秒おいて、恐る恐るといった形で、徐に広げられた。
扉を盾にするように姿を現したのは、一人のシスターだった。歳はまだ若く、二十代中盤ほどに見える。顔色は悪く、生気のない目の下には病人のような隈を作っていた。
そして、シオンとイグナーツは気付いた。このシスターこそが、駅でガリア兵から逃げていた女であることを。
シスターと目が合ったところで、イグナーツは数歩後ろに下がった。シオンもそれに倣い退いたタイミングで、二人は同時に会釈をする。
「どうも、初めまして」
シスターはまず、二人の事をつま先から頭のてっぺんまでを怪訝に見た。胡乱げな瞳を重たそうに動かしたあと、一歩、扉の陰から足を踏み出す。
「……神父、様、でしょうか?」
ぼそぼそとか細い声で言いながら、疑いの眼差しを交互に向けた。
イグナーツは距離を保ったまま、ゆっくりと頷く。
「ええ。本日付けでここに派遣された司祭です。私は、イグナーツ・フォン・マンシュタイン。隣の彼はシオン・クルス神父です」
そこでようやく、シスターの警戒が少しだけ解かれた。最後の頼み綱のように左手で握っていたドアノブが、弱々しく離される。
「……ようこそおいで下さいました。私はここのシスターで、ヒルデ・キールと申します」
しかし、依然として亡者のような雰囲気は消えず、その名乗りも風の音にかき消されそうなほど覇気がなかった。
「……本当なら、車でお迎えにあがりたかったのですが――」
「お気になさらず。色々と事情がおありでしょう。ところで、なのですが――」
やはり、迎えの車の主はこのヒルデだった。二人の予想通り、駅に迎えに来たばかりに、ガリア兵に襲われてしまったのだろう。
その先の言葉は彼女を苦しめるだけだと、イグナーツは遮るようにして話題を変えた。
「ここは男子修道院と伺っていたのですが、女子修道院と入れ替わりました?」
イグナーツの問いに、ヒルデは視線を落とした。数秒、妙な沈黙を作り出し、
「……まずは、中へお入りください。長旅でお疲れのところ申し訳ありませんが、その件も含めて色々お話させていただければと」
扉を全開にして、二人を中へ招き入れた。
案内された先は応接室で、四人掛けのテーブルと椅子がある粗末な部屋だった。ヒルデに促され、シオンとイグナーツは隣り合わせで椅子に着席する。
「狭く汚い場所で申し訳ありません。何かお飲みに――」
「お気遣いなく。先ほどの反応を見た限り、何か急ぎでお話ししたいことがありそうですね。まずはそちらからどうぞ」
イグナーツが断ると、ヒルデはさらに沈痛な面持ちになった。椅子に座りもせず、部屋の扉の前で陰鬱な顔をしたまま佇む。
「……神父様たちは、すでにこの国の惨状をご覧になりましたか?」
「ええ。事前に教皇庁から文面で状況は把握していましたが、実際に目の当たりにすると穏やかな心情ではいられませんでしたね」
「先ほど、ここは男子修道院ではないかと、お聞きになられましたよね。仰る通り、ここは数ヶ月前まで男子修道院でした。ですが……」
一瞬、ヒルデは喉が痞えたように言葉を詰まらせたが、呼吸を整え、続ける。
「数ヶ月前から国全体がガリア軍によって統治されるようになり、もともとあった国中の施設や家屋などが、半ば財産没収という形で軍に管理されるようになりました」
「なるほど。では、ガリア軍からのお達しで引っ越しをさせられたと?」
「それは、少し違います」
イグナーツは眉を顰めた。
「と、仰るのは?」
「ガリア軍は占領後、労働力と資源の確保に当たりました。亜人は当然として、人間の男性にも強制労働を命じました。占領直後は、教会の権威があるおかげで私たち修道士も見逃されていたのですが――数ヶ月前にガリアが粛清され、ノリーム王国が独立したことで駐在する軍が暴走し、我々も狙われるようになったのです。ここにいた男性の修道士たちも例外ではなく、全員が奴らの労働施設に連れていかれることに……」
「それで男子修道院が空き家になったと」
「はい。教会を恐れなくなったガリア軍は、慰安要員として若い女性を連れ去るようにもなりました。国中の女性が女子修道院に助けを求め、駆け込んできました。始めは我々も、人間、亜人を問わず、彼女たちを匿うように動いていたのですが、限られた人員で全員の面倒を見ることは難しく、受け入れる数にも限界が来てしまい……」
「来てしまい?」
「限界が来た私たちは、ある日を境に受け入れを拒否するようにしたのです。ですが、それを快く思わなかった一部の層が、大勢の女性が女子修道院に匿われていることを軍に密告してしまい……」
ヒルデは言い辛そうに声を小さくした。
「当然そのあと、軍は女子修道院を襲撃しに来ました。本来なら私たち修道女もその時に一緒に連行されるはずだったのですが――少しでも修道院で女性を匿えるように、私たちは生活の拠点を空き家になっていたここに移していました。そのおかげで、強制連行から逃れることができた形です……」
「しかし、匿っていた女性たちは助からなかった、と」
ヒルデは頷いた。
「それだけではなく、今は女子修道院そのものが慰安所として扱われています。軍にとっては、生活施設のある場所はとても好都合だったようで……」
ヒルデの話を聞いたあと、イグナーツはやるせない思いを孕んだため息を吐いた。
「シスターたちがこの男子修道院にいる理由はわかりました。それにしても、よく今まで貴女たちは無事でいられましたね? この建物の存在は軍も認識しているのでしょう?」
「おそらく、軍はここを無人のままだと思っているのでしょう。ですが、それも結局、たまたまというだけで、バレるのも時間の問題かと……」
「国がこのありさまだと、食料含めた生活必需品を揃えるのも命がけでしょう。山から出て街で調達しようとすれば、女というだけで軍人たちに目を付けられる。貴女の仰る通り、まだここにいられることが奇跡に近い状態だと思いますよ。これからどうやって生き延びるか、策はおありですか?」
しかし、ヒルデは暗い顔を下に向けたまま、何も発さなかった。今までの行動がすべてその場しのぎでしかなかったのだろう。先々をどうするか、長期的な計画は何も考えていないようだった。もっとも、だからこそ教皇庁に救難を要請したのだろうが。
沈黙するヒルデを尻目に、イグナーツは静かに椅子から立ち上がった。
「ちょっと電話をお借りしてもよろしいですか?」
突拍子もない申し入れに、ヒルデは驚いた顔を上げる。
「え、ええ。ですが、この国の電話はすべて軍の通信網を経由しておりまして、発信してしまうとこの場所が――」
「問題ありません」
言い切ったイグナーツに気圧される形で、ヒルデは部屋の隅を指し示した。
「で、電話はそこに」
部屋の隅に置かれた脇机の上に、埃を被った電話があった。イグナーツは受話器を持つと、手早くダイヤルを回す。だが、受話器を耳に当てることはしなかった。一定の間隔でダイヤルを回し続けるだけで、通話は一切しない。
その様子をヒルデが訝しげに見ていると――およそ一分後に、イグナーツは受話器を静かに置いた。
「ありがとうございます。これでもう大丈夫です」
「大丈夫、とは……?」
イグナーツが繋いだのは、騎士団の緊急連絡先――予め想定した非常パターンにおける騎士団への協力要請だ。通話で会話することなく、騎士団が秘密裏に管理する連絡先に特定の間隔で呼び出し発信をすることで、待機する騎士たちに外部から働きかけてもらうことができる簡易的な秘匿連絡方法である。今回の任務では非常パターンの一つとして、教会関係者の救助、および国外脱出が考えられていた。イグナーツの通信はまさにそれに対応するものであり、今頃は騎士団が通知を受けて動き始めたことだろう。騎士団はこのあと、ノリーム王国の隣国であるグリンシュタット共和国に協力を求め、亡命の受け入れ要請を出す段取りだ。
「貴女たちの身の安全が保障されるということです」
「どういうことですか?」
「我々は、貴女たちをこのままこの国に置いておくことは得策ではないと判断しました。この後すぐ、シスター全員、国外へ――隣のグリンシュタットに亡命してもらいます」
突然の指示に、ヒルデは当然驚く。
「え!? そ、そんな急に――」
「すぐに準備を整えてください。できるだけ身軽だと助かります。準備が終わったら、そこのクルス神父の指示に従って西の国境に向かってください。明日の朝までにはグリンシュタット政府からの迎えが来ます」
淡々と説明するイグナーツだが、ヒルデはまだ頭の整理が追い付いていない様子だった。
「と、突然そんなことを言われても!」
「では、ここでガリア軍の食い物にされるのを待ちますか?」
ぴしゃりと言われ、ヒルデは押し黙る。イグナーツは彼女の返事を待たずに続けた。
「貴女たちには生き証人になってもらいます。この国の惨状を伝えるためのね」
「生き証人……?」
「今、この国は教皇庁で結構な問題になっていましてね。どうにかして正常化させたいのですが、色々あって外部から直接的な圧力をかけることが難しい状況です。ですが、この国の実状を知り、ガリア軍残党からの被害を知る貴女たちの証言があれば、世論をいい方向に動かすことができるかもしれない。グリンシュタット政府を経由してこの国の今を大々的に報道してもらい、教会を動きやすくしてもらいます。貴女も神に仕える身なら、本望と言える役割でしょう」
イグナーツの説明を聞いて、いよいよヒルデは混乱を隠さなくなった。どう反応すればよいのか、視線を泳がせ、おろおろと体を小さく揺らす。
「し、神父様。貴方たちはいったい――」
その時だった。
突如として、寮の出入り口の扉が激しく叩かれる。次に起こったのは――
「おい! ここにヒトがいるのはわかってんだ! さっさと開けろ!」
扉越しに聞こえる男の大声だった。
ヒルデは顔を真っ青にし、部屋のガラス窓から外の様子を伺う。シオンとイグナーツも後に続くと、寮の前にガリア軍の兵士たちが集まっている姿があった。
「が、ガリア軍が!」
ヒルデはその場で尻もちを搗くように後ろに倒れた。兵士に暴行された時のことを思い出したのか、全身を震わせ、今にでも正気を失いそうな顔をしていた。
シオンはイグナーツに目配せをした。
「始末するか?」
しかし、イグナーツは首を横に振る。
「いいえ。うまくいけば彼らの懐に潜り込めるかもしれません。あれは私に任せてください。シオンは彼女たちを」
それだけを言い残し、部屋を出ようとした。
その背中を、ヒルデが手を伸ばして止めようとする。
「し、神父様――」
「私のことは気になさらず。それより、先ほど言ったように貴女は亡命の準備を。他のシスターたちにも伝えてください」
そう言ってイグナーツは部屋の扉を開けるが、ふと忘れ物を思い出したようにシオンに振り返る。
「シオン、彼女たちを頼みました。国境に向かう準備ができたら、出遭う障害はすべて排除して問題ありません。時を見計らって、彼女たちに我々の正体を明かしてください。その方が動きやすくなるタイミングがあるでしょう」
「アンタ、何を企んでる?」
シオンが訊くと、イグナーツは肩を竦めた。
「さっき言った通りです。ガリア軍の懐に潜り込んで、知りたいことを持って帰ろうかと」
「なら、ここからは一時的に別行動か」
「そういうことになりますね。お互い、やるべきことをやったらトレイニア聖国で落ち合いましょう。場所は聖都の中央駅、正面玄関で。明日の十八時を目途にしてください。離れての行動になりますが、行動は慎重かつ冷静にお願いします」
「了解」
シオンの返事を後に、イグナーツは寮の出入り口に向かった。
未だに扉からは激しいノック音が鳴り響き、追随して怒号にも似た男の呼び出しが聞こえる。あと一発、扉を叩かれたら蝶番が外れるのではないかというタイミングで、イグナーツが扉を開けた。
「はいはい、何か御用でしょうか?」
イグナーツが姿を見せると、ガリア兵たちは面食らったような顔で固まった。男子修道院に司祭がおり、ましてそれが見かけたことのない男であったことに、驚いているのだろう。
「……なんでここに司祭がいる?」
外にいたガリア兵の数は八人。先頭に立つのは、熊のように大柄な男だった。背丈は百九十センチあるイグナーツより頭一つ分高く、肩幅は寮の扉にぎりぎり収まるくらいの大きさだ。
そんな大男を前に、イグナーツは飄々とした態度で立つ。
「なんでって、ここは男子修道院ですよ」
途端、大男が扉を勢いよく腕で叩いた。蝶番が壊れ、扉は壁から勢いよく外れてしまう。
「んな事訊いてんじゃねぇよ! ここにいた男は全員連行したはずだ! てめぇ誰だ!」
「本日付で新しく赴任した司祭です。どうぞ、よろしく」
イグナーツは一切動じた様子を見せず、穏やかな顔のまま軽く一礼して見せた。
「ウチに何か用で? 勝手に入られると困るのですが――」
その余裕のある振る舞いが気に食わなかったのか、大男はイグナーツの眉間に拳銃を突き付けてきた。
「東の駅で兵士二人の死体が見つかった。その二人が直前にシスターらしき女と一緒にいたって話を住民の聞き込みで耳にしてな」
「はあ。でもなんでシスターが軍人さんと一緒に――」
とぼけようとしたイグナーツだが、そんなことは許さないと、拳銃が空に向かって威嚇発砲される。
「くだらねぇシラきってんじゃねぇぞ! 逃げた尼が車でこの場所に向かって行ったってことはわかってんだ!」
「あのぅ、ちょっと待ってもらっていいですか?」
「黙ってろ! さもなきゃてめぇも――」
「その死んだ兵士二人、駅の事務室で見つかりました?」
イグナーツの言葉に、いきり立っていた大男が静かになる。
「……なんでてめぇがそれを知ってる?」
「いえね。私、ほんの数時間前にこの国に来たばかりなんですけど、その時に駅でちょっとした騒動を見まして」
大男が拳銃を下ろしたのを確認して、イグナーツは続けた。
「改札に駅員さんがいなかったので、切符を処理してもらおうと事務室に向かったんですよ。そしたら、二人の兵士がそこで何やら言い争っていたんですよね。女を逃がしたのなんだのって」
大男の顔が顰められた。
「……てめぇはその時どうした?」
「とりあえず連れと一緒に切符だけ置いて失礼しましたよ。ああ、その後すぐに銃声のような音が聞こえた気もしますね。かなり激しく言い争っていたので、もしかすると……」
含みのある言い方をしたイグナーツの肩を大男が掴んだ。大男はそのまま隣にいた兵士にイグナーツの体を力任せに投げつける。
「おい、この神父を連れていけ。重要参考人だ」
「は!」
一番位が低いと思われる二人の兵士が敬礼をして、イグナーツの背を強く押す。
小銃の先で小突かれながら、イグナーツは大男に向かって小首を傾げた。大男と、残った五人の兵士が、その場から動こうとしていなかったのだ。
「おや? 貴方は一緒に来ないので?」
既に大男の興味はイグナーツから修道院の方に移っていたが、最後に視線だけを向けてきた。
「まだここに仕事があるんでな。ま、てめぇはゆっくり絞られてこいや」
大男はそう言って、にやりと厭らしい笑みを浮かばせる。
「さようでございますか。仕事熱心なのも、ほどほどに」
イグナーツは、心底気の毒そうな面持ちで溜息を吐いた。
※
イグナーツがガリア兵の相手をしている間、シオンはヒルデと他のシスターたちに亡命の準備を指示した。当然、シスターたちはヒルデと同様、突然の話に戸惑いを隠せないでいた。すぐに動き出すことができず、互いに顔を見合わせて不安を共有するばかりだった。
しかし、そんな余裕はもうないとばかりに、寮内の床が慌ただしく無数の靴音に鳴らされる。
「おうおう、やっぱりわんさかいるじゃねぇか。若い女がこんなによぉ」
そう言って笑い声をあげたのは、大柄なガリア兵だった。シスターたちが控える部屋の扉を乱暴に蹴り開け、歓喜に口笛を鳴らす。
「ラングレー大尉、どうします?」
大柄なガリア兵は部下たちにラングレーと呼ばれた。ラングレーは、財宝の山を見つけたように高笑いする。
「んなもん決まってる。全員、強制連行だ。だがその前に、ちょっとばかしつまみ食いしておくか。お前らも新しい女で遊びたいだろ?」
ラングレーの提案に、他のガリア兵たちから歓喜の声が上がった。
「さすが大尉、部下想いでいらっしゃる。さて、どいつから行こうか――」
ラングレーたちがシスターたちに襲い掛かろうとした直前――不意に、何かが倒れる音が響いた。
「なんだ?」
不穏な空気が漂うなか、寮の廊下の奥から、シオンが姿を現した。その足元には、ガリア兵が人形のように転がっている。
ラングレーたちは一斉に銃口の先をシオンに突き付けた。
「なんだてめぇ。俺の部下になにしや――」
それから先は一瞬の出来事だった。
瞬きする間もなくガリア兵たちに肉薄するシオン――次の瞬間には、ラングレーを含めたガリア兵全員が血の海に沈められていた。
血に塗れたテーブルナイフを片手に佇むシオンを、ヒルデは驚愕と怯えの表情で部屋の扉の陰から見遣る。
「あ、貴方は……貴方たちは、いったい何者ですか……!? し、神父様では――」
シオンはナイフを床に捨てたあと、自身の懐に手を入れた。
そして、
「俺たちは聖王騎士団の騎士だ。それだけ言えば、さっきの指示も納得できるな」
騎士の証である“剣のペンダント”を取り出し、騎士であることを明かした。




