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出港

頂上から見えていた北の浜までなんとか下りてきた。

この北の浜を船出の場所と決めていたので、山を下る道中で山菜や木の芽も採取済みだ。野菜類は海に生えてないからね。確保しておくに越したことはない。



父親のボートを海に浮かべ、ボートの半分には布を張って日陰をつくった。

この布はライシャの特産品で、高級品の部類に入る。故郷に持ち帰って売るつもりだったが、背に腹は代えられない。

けれど布の端に針金を通して穴をあけたときは、涙がちょちょぎれそうになった。


ひぇー、もったいない。


でもこれも命の代金だ。海の上で日差しや雨から身を守るものが必要だろう。



「これでよし。行くよ!」


気合を入れて、オールを操り海へと漕ぎだした。最初は寄せてくる波に岸へ戻されそうになって苦労したが、ある程度沖へ出ると、やっと大海に出る潮流に乗ることができた。


「ふぃ~、つ、疲れたぁー」


腕と肩がパンパンだ。腰も痛い。

子どもの頃は父親にオールを漕いでもらっていたし、ここ何年かはケビンやベックが漕いでいた。

これは女の力では厳しいものがある。船の水夫さんたちがみんな筋肉マンなはずだよ。



羅針盤は持っていないが、父親が森で使っていた携帯用のコンパスがある。

針は北を指していたので、この潮流に乗っていればしばらくは安心だろう。


クリスは布でつくった日陰に入り、少し休憩することにした。


水を飲み、はじまりの草原を離れる前に西の原で採っておいた野イチゴを食べる。


「甘い、酸っぱい、美味しい~」


前の日に大風が吹いたときに熟れた実がほとんど落ちてしまっていたが、食べられそうなものを拾ったり、若い実も根こそぎ採ってきた。

貴重な甘みだ。大事に食べよう。


その後は、たまにオールで漕いだり休んだりということを繰り返した。

山を下りるのに時間がかかったので、もう日が落ちてきている。

西の空が真っ赤に燃えている。海も空の赤を写してユラユラと輝いていた。


「うわー、きれいねぇ。こうやって海の上の低い位置から夕焼けを見るのって初めてかも」



まだ空が明るいうちに、ランプを灯しておきましょうか。

今日は一日よく動いた。

朝、作っておいたおにぎりを食べて、早めに寝ることにしよう。


寝ている間は、運を天に任せて、進路は船と海の思うままだ。

大きな石とロープを使って、錨を作ることも考えたが、ここは波が穏やかな内海ではない。どうせ流されるだろうし、無駄なことはしないことにした。



ずっと大波に揺られているので酔いそうなものなのだが、海の真ん中にいる緊張感が、辛うじてクリスの身体を支えていた。

まだどこにも陸は見えない。

船底に敷いた毛布に潜り込み、クリスはすべてを忘れて眠ることにした。

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