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西の沢

何日か前に来た時と同じ、湿った空気に迎えられた。


西の林にある湿地帯を抜け、奥にある階段状の沢までやってきた。

チョロチョロと流れる水の音が絶え間なく林の中に響いている。

小鳥がピチチチとさえずる声が聞こえてくるが、ほかの生き物の気配はない。


やっぱりね。


クリスは、父親に連れられてよく森に行っていた。クリスの父親は商売よりも野遊びが好きな男だった。「大勢の人と関わるのもたまにはいいが、ずっとだと疲れるんだよ」とクリスに愚痴を言うこともあった。

そんな父に森での知識をたくさん教わっていたので、この林には違和感を感じる。


鳥以外の動物の痕跡がないのだ。


由香里は異世界の魔物や野生の熊を恐れていたが、クリスが林に入るとその考えは杞憂だということがすぐにわかった。


この島は、動物が流れ着くほど大陸に近くない。

けれど何種類もの鳥がいる。渡り鳥の鴨もいた。


そこから推測できるのは、鳥が飛べる距離に地面がある可能性はある、ということだ。

ま、それがどの方向なのかわからないんだけどね。


とにかく高台を探してみるしかないでしょう。



何時間も沢を登っていくうちに、大きな滝の音が聞こえ始めた。

最初は、この沢に落ちる滝の音だと思っていたのだが、水量が違うような大きな音がしている。


もしかして由香里を助けてくれたあの川へ流れ込んでいるのかも。


クリスは沢をまたいで西の岸に移ると、音が聞こえる方へ近づいて行った。


急に視界が開けた小高い丘の上から、大量の水が下の林に向かって落ちていっている。

クリスが登ってきた沢はこの本流から分かれた支流だったようだ。


丘の南側から南東方向、つまりクリスがずっと歩いてきた林はなだらかに下っているが、丘の北側から北東方向は、切り立った崖になっていて、崖の下には原生林が広がっている。


やっぱり川の上流を目指すより、沢を登ってきたのは正解だったね。

源泉を探すのは、川か沢、どちらにしようか迷ったが、あの川を遡っていたら、この崖の下で途方に暮れていたかもしれない。



「ここからは東の海が見える」


クリスは原生林の向こうに広がる大海原を眺めた。

もう少し南東方向へ下るのかもしれないが、あの海の向こうにはケビンやアイミがいる。


キラキラと太陽の光を受けて輝く遠くの海をクリスはじっと見つめた。

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