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釣り

この反重力ボードのグラビテくん、すぎょい!


朝ご飯のスープが口から飛び出しそうになるくらい、ヤバいスピードが出ている。

もったいないって言いながら、昨晩の鴨スープの残りを全部飲んじゃうからだよねぇ。食べ過ぎだよ。


ゲップゲップ言いながら由香里が魔力を緩めると、グラビテはヒュイーンと音を立てながら無事、砂浜に着陸した。


ビビったぁ。


思ったより地面から高い所を飛ぶので、つい力を入れてハンドルを握ってしまった。すると、魔力が余計に流れてスピードが出るというね。

完全なる自業自得でござる。



あっという間に海に着いちゃった。


今日は穏やかに晴れている。あの嵐の海のようなおどろおどろしさはない。


ん、大丈夫。怖くない。


海で溺れたことがトラウマになっているかと思っていたけど、大丈夫そうだ。

これには安心した。

ここがどこなのかわからないが、ポートフォリオまで帰るためにはまた船に乗らなければならないかもしれない。いや実際、船に乗っていたんだから、船でしか行けない場所に用事があったんだよね。

必ず船に乗る時が来る。

そうなった時に、船どころか海にさえ近寄れないんじゃどうしようもないもんね。



さて、最初に貝拾いでもしてみますか。


由香里はポケットからバケツを出して、海水を汲んでおいた。


魚が釣れなかった時の救済措置は必要ですよ。

クリスはどうか知らないけど、由香里としては今日、初めて釣りに挑みます。

そう、完璧なる初心者。ピッカピカのビギナーです。

針先にミミズみたいなものを付けて糸を垂らせば、魚が釣れるんじゃね?ぐらいの知識しかありません。

ポケットに練った餌のようなものがあったので、今日はそれを使ってみるつもりなんですわ。



熊手を持って砂浜をあちこち掘り返してみた結果、そこそこの数のアサリが獲れました。たまに知らない形の貝が獲れたけど、料理方法がわからないので、そのまま砂に埋めさせていただきました。

アサリはこのまま海水に浸けておいたら、ある程度は砂を吐いてくれるんじゃないかな。


よし、じゃあ、いよいよ釣りをしてみよう!


由香里が倒れていた、あの大岩の向こうが釣りのポイントに良いのではないでしょうか。

なんか筋の付いたゴツゴツした岩場がずっと西の方に続いているんですよ。

車で海辺を走っていた時に、似たような場所によく釣り人がいたので、あの辺りならなんとなく釣れる気がする。


そんな根拠があるのかないのかよくわからない由香里の勘は、どうやら当たったようだ。


ビクッとした針の動きに反応すれば、今度は強い力でグイグイと竿が持っていかれそうになる。


あ……………………こんなこと、前にもあった。


由香里の脳裏に釣り糸を垂れている男性の姿が見えた。

えらい男前のあんちゃんだ。

その男前さんが、こっちを見て焦っている。


「クリス、引いてるよ! ああっ、そんなに力任せに引っ張っちゃダメだ。魚が弱るまで待つんだ。そう、そう。糸を緩めないように慎重に。いいぞー、俺がタモを出すから、そこに寄せてきて」


脳内のあんちゃんの指示に従って釣り竿を操っていたら、針にかかった魚が海の上をすべるようにやってきて、由香里のわきにある岩棚に乗ってきた。


「つ、釣れた! 釣れたよ、ケビン!」



?? ケビンって、誰?


思わず口から出たけど、誰のことだかわからない。


「痛っ」


頭の中がガンガンする。


ピチピチ跳ねる魚を針につけたまま、由香里は岩の上にしゃがみこんだ。

吐きそうになるのを(こら)え、じっとしていると、ようやく頭痛が収まってきた。



あーぁ、こんなに魚を放っておいたら、身焼けしちゃうよね。早く絞めなくっちゃ。

ねぇ、ケビン。


ケビン…………………なんで忘れてたのよ。バカバカバカ。

一番大切な人の名前じゃない。



「カサゴだ。私が最初に釣った魚と同じだね」


あの時ケビンは、「ゴーシュは夜釣りの方がよく釣れる魚だよ。こんな朝早くに釣れるなんて、こいつはクリスと同じで宵っ張りの朝寝坊なのかな」って言って笑ってた。



ケビン、心配してるだろうな。

そういえば、ライシャから手紙を送ったんだ。いや、送らなかったっけ?


私も変に意固地になってたからなぁ。

でもケビンも頑固なのよ。見送りにも来てくれないなんて……。



魚の処理をした後、ポケットの中を確かめてみると、ケビンへの手紙は出されることなくポケットの中で眠っていた。

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