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やっちまったか

夜中に酷い寒さで目を覚ました。


ガタガタと震えながら起き上がった由香里は、すぐにポケットを開いて毛布を取り出した。


「あったかい。世の中にこんなに温かいものがあったとは……」


毛布にくるまり、葦の葉の中に身を縮めた由香里の頭の上を、風がゴウゴウと轟きながら吹きすさんでいく。海の上を渡ってきたのか、体の芯まで凍るような風だった。


身体を丸めてじっと息を凝らしていると、冷たかった顔や手も元のぬくもりを取り戻してきた。


ほっ、やっと人心地がついてきた。


でも、やっちゃったか?

今日のポケットスキルを早くも消費しちゃったよ。


冷静になって思い返してみると、物凄くもったいないことをしてしまったような気がする。昨夜、寝る前には、次にポケットから出すのは「短剣」にしようと思っていた。

それが真夜中に、さらにこんな風に衝動的に「毛布」を取り出してしまうとは思ってもみなかった。


……………………


でも毛布を出さなかったら、朝には凍死体になってたかも。

必要な時が使い時。もうそう思うしかないな。

由香里は開き直って、もう一度眠ることにした。




毛布のおかげで死体になることなく、無事に朝を迎えられた由香里は、川で顔を洗っている時に奇妙な感覚を覚えた。


あれ?

スキルが成長した?


まだ何度かポケットを開けるような気がする。


「よしっ、ものは試しだ。やってみよう!」


もう今日はポケットを使えないと思っていたので、どういうことになろうが構わない。



「グロポケ!」


よし、まずは予定通り「短剣」だな。

<武器>のインデックスを探し、一番上に収められている「短剣」を取り出してみる。


ポケットから出てきた短剣は、曇りが一切ないピカピカの剣だった。


「わぁ、カッコイイ~。これ、新品じゃない?」


クリスが旅に出るにあたって用意したものなのか、それとも旅の出先で買い求めたものなのかはわからないが、由香里が想像した通り、両側に用途別に使えるそれぞれの刃が付いているサバイバルナイフのようなものだった。


これは使いやすそうね。


早速、ノコギリ刃の方で硬い葦の茎を切ってみる。


「えっ? なんなの、この切れ味は!」


ノコギリ刃が付いた鎌のように、草の繊維を引っ掛けながらゴシゴシ引くように切るものだと思っていたが、刃が茎に触れた途端、長い葉がパラりと落ちていた。


…………もしかして、魔法、なの?



よく見ると、短剣の持ち手の部分が銀色に光っている。手を添えた時に、前に魔道具を使った時と同じような魔力の動きを感じる。


ハハ、ミスリル、だったりして。


魔力を通しやすいミスリル銀は、ファンタジー金属の定番だ。でも希少金属で、お高いのも定番だ。


もしかして、私はお金持ちだったりするのかなぁ?

ま、ここにいる限り、金持ちでも貧乏でも同じなんだけどさ。



まだスキルが使えそうなので、今度は草原に歩いて行き、よさそうな場所に「テント」を取り出してみた。<家具>ではなく、<旅行用品>の枠の中にあったので、移動中、ホテルに泊まれないときに使うのかな、と想像していた。


でも出てきたテントを見て、息をのんだ。


「これって、私の知ってるテントじゃない」


由香里がソロキャンプで使っていたペラペラのテントとは全く違うものがそこにあった。


こういうのは、ゲルっていうのよ。モンゴルの遊牧民が使うような立派なテント。

でもゲルは男たちが何人かで木の枠組みを組み建てて、そこにぶ厚い帆布みたいなものを重ねて張って家のようにしていくのだが、このテントはワンタッチテントのように、ポケットから出てきた途端に一人で自立した。


ほぇ~、異世界マジックだ。



「おじゃましまーす」


革靴を脱いでテントの中に入ると、分厚いペルシャ絨毯が床に敷いてあった。渋い赤色で彩られた模様が、暖かみのある雰囲気をつくっている。

壁際にはベージュ色の布が巻かれているソファがあって、これがベッドにもなるのだろう。中央の床は丸く空けられていて、むき出しの地面に直接、調理用ストーブが置いてある。ストーブからは煙突が天井に伸びていた。その天井はといえば、ぽっかりと小さな穴が開いていて、煙突を通すための穴というだけではなく、通気口にもなっているようだ。


「家だ。住むところがある……」


震える声でそう言った由香里の頬に、ポロリと涙が零れ落ちてきた。


漂着した砂浜で目覚めた時から、由香里は気を張り詰めて過ごしてきた。

夜には寒さで目を覚まし、獣の襲撃を警戒し、カラ元気を出すために歌を歌いながらも、心の底から落ち着けることはなかった。


けれどこの場所には安心がある。


「家って、安心できる場所のことなんだぁ」


今まで考えてみたこともなかったけれど、人が住処を整えるのは自分の心を癒し、しっかりと立つための足場を築くためだったんだね。



クゥキュルルルル


あ、そういえば朝ご飯がまだだった。


由香里はポケットからランチの袋を取り出すと、床に座ってサンドイッチを食べ始めた。


「美味し~、まともなご飯を食べたのって、いつ以来なんだろう」


……………………あ。


何の気なしにランチバッグを取り出したけど、ポケットに接続制限がかかってたことを忘れてたよーーーーーーーーーー!!


あと何回使えるの?

え? あと一回?!


やっちまった。

「塩」と「手袋」が緊急で欲しかったのにぃ。


あと一回かぁ。どっちにすりゃあいいんだ?

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