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弱虫の剣  作者: 望月 まーゆ
第4章: 銀翼の王者
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ユキヒメ③

「イデア…?」


「その地には太古から気候を操る不思議な力がありますわ」


ランプの橙色の光だけが頼りの薄暗い地下の岩壁の部屋。冷んやりとした空気が漂う。


研究室のような部屋の本棚には魔道書や見たこと無い文字の本が乱雑に並んでいる。

そこに紫の髪に黒ローブを頭から被り表情を伺えない男性と、金髪の長い髪の女性が向かい合って木製の椅子に座っている。


「魔法とは違うのか?」


「魔力とは違う【特異能力】です。魔力は尽きますが特異能力の為、力の根源が無いのです。

その力を上手く【人形】に利用出来れば、最強の兵器ができますわ」


「【人形に命を与え特異能力を植え付ける】

最強の兵器……悲願の達成か」


「ええ。あなたの野望を達成する近道ですわ」


女性は口元に手を当て悪戯に微笑む。

全て見透かされている……。

黒ローブの男もそれは分かっているが、今の自分の置かれている状況からしたら、この話に乗るしかなかった。

この目の前にいる女性も、十中八九断らないと踏んでこの話を持ち掛けて来たのだろう。

黒ローブの男の決断は早かった。


「ーー分かった。イデアに向かう!」


そうだと、ポンと手を叩き上目遣いに何かを思い出したように喋り始めた。


「イデアの中でも四人の人柱と呼ばれる者に、氷を扱う者がいます。この子の能力は他の者達とは段違いです。狙うならこの子を狙らってみては如何でしょう」


「人柱?」


「魔物を神と崇める風習がある国らしいです。

あなたの【今の研究】には【必要な材料】でしょ?」


「ああ、これで私の研究も完成が見えてきた」



コンコン…っと渇いた木の音が冷たい部屋に響き渡った。


「お父様、お客様のお連れ様がお見えです」


黒山羊の面を付けたどこか動きがぎこちない少女が顔を覗かせた。


「あら、もうこんな時間ね。ーーでは、博士これで」


立ち上がった女性の首元の七星のペンダントが揺れる。


女性は頭に修道服のフードを被ると部屋の外へと姿を消した。


黒ローブの男は女性が消えたのを確認した後、ゆっくりと立ち上がり、黒山羊の面に向けて

言い放った。


「ゴート、イデア国に向かう。準備するぞ」


「ハイ。お父様」



*********************



子供たちがキャッキャと楽しそうに声をあげて、お花畑を走り回っている。

歳は十歳には届いていないだろう。

暖かい日差しを浴びて元気いっぱいに、笑顔を振り撒いていた。

見ているだけで、こちらも笑顔になってしまう。


「いいなあ、楽しそう」


「うん…一緒に遊びたいな」


気狐と仙狐は羨ましそうに指を咥えて木の影からそっと、子供たちを覗いていた。


「ダメだよ。玉藻様に人間と関わって良いのはお祭りの時だけって言われてるでしょ」


「うん…」


「ねえ、ちょっとだけならいいんじゃない?」


「何でダメなの?」


「んーー、、何でだろうね。

私にも分からないけど玉藻様がダメって言うんだからダメだよ」


天狐は少し考えたが、やはり玉藻様の言うことには逆らえなかった。


「やっぱり楽しそう。一緒に遊びたいな」


「私が仲間に入れてもらえるよーに頼んでくる!」


「ああっっ!!ダメだよ」


気狐は天狐の静止を振り切り、お花畑へと駆け出して行ったーー。




「ねえ、私も仲間に入れて」


「うわっ!狐さまだ!」


「ねえ、いいでしょ?」


急な狐の登場に顔を見合わせて戸惑う子供たち。


「僕たちは良いんだけど……」


「大人の人たちが、お祭りの日以外で狐さまと一緒にいると、玉藻様に祟られるって」


地面に俯き、もじもじしながら答える子供たち。


「えっ、玉藻様はそんな事しないよ。凄く優しいよ。大丈夫だよ」


その言葉に目を丸くしながら、両手を前に出して手を左右に振って誤解だと弁解する気狐。


その言葉に子供たちが安堵の表情を浮かべ、胸を鍋おろしていた所へーー、


「コラー!オメエら何狐さまと喋ってるんだ!」


大きな怒鳴り声がお花畑を切り裂くように響いた。


「ひっ!!」


空から雷が落ちたかのように、思わず座り込み頭を抱える子供たち。


「駄目じゃねえか!玉藻様に祟られるぞ!」


「ご、、ごめんなさい」


「ほら、あっち行くぞ」


子供たちは大人に言われるがまま、背中を押されてお花畑から姿を消した。


「……玉藻様は優しいよ。人間を祟ったりなんかしないもん」



人と幻獣族には大きな見えない壁がある。

色んな噂があり、人間はそれを信じ恐れている。


昔は共存していた時代もあったらしいが、人の心というのは醜いものだ。


雨が降らず日照り続きで作物が育たなければ、神の呪いだと罵られ。

冬に大雪が何日も続けば石を投げられる。

山が噴火すれば神の怒りだと無視される。


幻獣族にそんな天変地異を操る力など無いのに。



玉藻もそれが分かっていた。

それだけに自分の分身であり子供みたいな狐たちには人間の醜い部分を見せたく無かったのだ。


特にイデアは他国との貿易を一切していない。

自分たち以外の種族を認めない風習がある。

例え、神であろうとも繋がりを深くもとうとしないのである。


ーーそんな人間にも変わり者は存在する。



「ユキヒメ様は私たちが怖くないの?」


「ん?何で?全然怖くないよ」


「私たちといると、玉藻様の呪いがかかるんだよ」


「そうなんだ。呪いがかかったら玉藻様に解いてもらうようにみんなから頼んでよ」


ユキヒメはいつもあっけらかんとしていた。

そして、イデアの子供たちと同じように眩しい笑顔をいつも狐たちに見せていた。


自然と狐たちもユキヒメと一緒にいる時は笑顔になった。


いつしか、ユキヒメが社を訪れる冬が待ち遠しくなっていた。


「ずっと冬だったら良いなあ。ユキヒメ様とずっと一緒にいられるのに」


「私もユキヒメ様大好き」


誰が言ったその言葉…

永遠に続く冬が訪れるとはこの時は誰も思っても見なかった。

不定期更新で申し訳ございません。

これからも変わらず応援して頂けたら幸いです。

また、感想やご意見頂けましたら今後の励みになりますので、是非宜しくお願いします。

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