ユキヒメ①
僕らは、ここからずっと東の島国イデアで生まれた。
四季折々の色んな表情を見せてくれる自然豊かな国だ。山で果物を取り、田畑で野菜を育てて、海から魚を恵んで貰う。そんな平凡なのんびりとした生活を送っていた。
イデアは人と幻獣族が共存して暮らす国。
僕と狐の娘達も同じ村で育ったそんな話ーー。
ハルトは、懐かしむように何かを思い出すように、斜め上を見つめながらゆっくりと口を開いた。
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ふふふん、ふふふん、ふん
銀色に煌めく雪原に、陽気な鼻歌が響き渡る。
それに合わせるように光り輝く宝石のような煌めき。
「相変わらず好きだな、その歌」
純白に染まった地面が黒く染まり、聞き覚えのある声が頭の上から聞こえる。
「えへへ、この歌大好き」
少女は声の主を確かめる事なく、膝を折りしゃがみ込んだまま、せっせと何かを作っているようだ。
「さっきから何作ってるんだ?」
「あっ、これえ?」
少女は嬉しそうな笑みで振り返りながら、それを少年に見せた。
「……うさぎ?」
「そう! 雪うさぎだよ。かわいいでしょ?」
そう少年に尋ねながら立ち上がり、両手で大事そうに支えながら、太陽に雪うさぎを重ねた。
陽の光を浴びた白銀の兎は時折、透明な氷の結晶の身体からキラキラと七色の光を放つ。
「きらきら、スゴく綺麗」
ただ、ただ見つめていた。
吐く白い息だけが、一定の間隔で繰り返している。純白の世界の真ん中で煌めく雪の結晶の装飾が揺れる。
その中に、少女と自分の二人だけ。
静寂の静けさと寒さで耳が痛かった。
驚くほどゆっくりと流れる時間。
少年と少女はごく自然にお互いの体温を確かめるように手を握って歩く。
ギュッギュッと雪が締まる足音だけが静寂の世界に響く。
「ーーもっと長く冬だったらいいのになあ」
「僕も冬は嫌いじゃないよ。真っ白に染まった幻想的な景色。山々もありのままの太古の景色を見せてくれる」
「だったら、ハルトは私を迎えに来なくていいかも」
「ユキヒメが良くても、イデアの人々は春が来ないとみんな困ってしまうよ。食べる物も無くなってしまうし、雪で他国との貿易も出来なくなってしまう。人間だけでなく動物も食べる物がなくなって死んでしまうよ」
「ふんっ、分かってるわよ!
ハルトは冗談が通じないんだから」
少女はくるくると飛び跳ねるように二、三歩前に進むと、振り返り微笑んだ。
そして、少し躊躇いながら続けた。
「ねえ、ハルト。どこに私がいてもちゃんと見つけて迎えに来てよね!」
この時、ユキヒメは何かに気づいていたのだろうか。その声はどこか寂しげで不安を押し殺したようなそんな切ない声だった。
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僕らの国には四季がある代わりに不思議な風習がある。
それぞれの季節にそれぞれの神が宿る。
代々その神を四人の家系が【ヒトガミ】として護ってきた。
現在のヒトガミは、春の季節はハルト。
夏の季節はナツメ。
秋の季節はアキヒト。
冬の季節はユキヒメ。
そして、4匹の四季神を宿している。
天・空・仙・気の幻獣である。
その季節の幻獣と共にイデアの守り神として、讃えられているのが【雷狐九尾玉藻前】である。
幻獣たちは普段は人里離れた神社で暮らしている。月に一回の【祈りの日】と、四季が移り変わる【祈願祭】の時には人間と一緒に祭りを楽しむのである。
人間と幻獣の狐娘たちは共に寄り添ってイデアの伝統と国を守ってきたのだ。
あの日が来るまではーーーー。




