あの日のカンバーランド
要塞都市ミッドガルドの司令官室に招かれているエル達。
衝撃的な話を聞かされたばかりだった。
寝不足を言い訳にして聞かなかった事にしたい気持ちのエルだった。
「ーーでは、そちらの質問を受け付けよう。何が聞きたい?」
司令官長は目の前に座るエルに向かって問いかけた。
「……カンバーランドは……なぜ、壊滅してしまったのか?」
エルが言い切った所で、可愛らしい声が続けた。
「ーーそ、それとフィル……フィル・レイ・クライストについて何か知ってますか⁉︎」
先程まで寝ていたと思われていたミレアが身を乗り出すようにして叫んだ。
「……フィル……あの勇者パーティーの英雄……」
フィルの名にざわざわと兵士たちが驚く。
「私は……フィルの娘です。父は亡くなったと母から聞かされています。しかし、父の遺体は帰って来ていません……父は最期に故郷であるカンバーランドに向かったのは分かっています。私は父の死の真相が知りたいのです!」
ミレアの魂の叫びに兵士達は静まり返る。
「……フィルについては存じませんが、カンバーランドについては、私から説明させていただきましょう。私は……あの日の生き残りですから……」
カンバーランド出身者の何名かは知っていたようだったが、他の兵士達は驚きの余り口を開けたままだった。
エルは座っていた黒革のソファーから立ち上がった。
「あの日……何があったんですか?」
司令官はエルの真っ直ぐな視線を受け止めたーー。
* * * * * * * * * * * * *
あの日ーー、それは突然やって来た。
街の住人の一人が突然苦しそうに倒れると、それを合図に次々と街の住人は倒れていった。
それはドミノを倒すように次々に連鎖して倒れていった。倒れた住人は氷のように一瞬で冷たくなっていた。
まるで……魂を抜き取られたように……
その負連鎖は止まることを知らず、どこに隠れていようが容赦無く、魂を奪っていく。
老若男女問わず、無差別に人間を死に至らしめた。
時間にして一時間も経たないうちに、街の住人ほぼ全員が死に追いやられたのだった。
死亡した女性の亡骸は烏の面をした人物により選定され、選ばれた者はアンデット〈ハーピー〉になり望まない新たな人生を与えられた。
男性はハーピーの餌となり、食べ残しは〈ゾンビ〉として烏の面の〈不死の兵隊〉となり永遠にその下で働くこととなった。
その数時間後にこの街に魔物の大群が押し寄せた。
まるで何かの痕跡を隠すように、ただ無作為に破壊だけを繰り返していた。
有りとあらゆる物を破壊し、立ち去ったその後にはただ瓦礫の山だけが残った。
この時は兎の面の人物も目撃されていた。
その後、カンバーランドは次々に人々の死と魔物による破壊が繰り返され壊滅に至った。
* * * * * * * * * * * * *
「カンバーランドが壊滅した一番の理由は、間違った情報が出回った事だ」
「間違った情報?」
「魔物の大群が押し寄せて来て、人々を死に追いやっているんだとばかり思っていた。しかし実際は、魔物が襲ってくる前に人々を殺し、死体を操作しその証拠を消すために魔物を操っていたのだ」
司令官長は、テーブルに置かれた冷めてしまったコーヒーを一気に飲み干すと話を続けた。
「その事に気付いた時には、もう手遅れだった。生き残った僅かな住人はカンバーランドを棄てこのミッドガルドへと逃げてきたのだ」
「面を被っていた人物ってーー」
「ああ、昨夜屋上にいた奴等で間違えないだろう」
「兎の面と烏の面……」
「確証はないが、恐らくデマの情報を流したのも面の奴らかもしれない」
「どうしてそう思うんですか?」
「誰が俺に化けて、情報をカンバーランド城へ伝えたらしい。俺はその時間帯に別の場所にいたのにも関わらず、カンバーランド城には俺自ら訪れて、情報を伝えに来たらしい」
「同じ時間帯に別の場所に……」
「変身出来る能力を持った仲間がいるのも確かだ」
「……コイツらは一体何者なんですか?」
エルの問いに、間を置いて重い口を開く。
「ーーーーーーーーーーーーーー」
* * * * * * * * * * * * *
「あのーー、ちょっとお話したい事があるんですが……」
司令官室を後にしたエル達に背後から声をかける兵士の男性。
「話……ですか?」
エルがキョトンとしてる間に、兵士は勝手に話始めた。
「実は……私は元カンバーランドの出身です。他にも何名かカンバーランド出身者が兵士の中にはいるんですよ」
「そうなんですか⁉︎」
エルも先ほどの司令官長の話の反応からして、何名かカンバーランド出身者はいるとは思っていたが、これで疑問は解決した。
「はい、事情は様々ですが私の場合は妻がノイシュバンシュタイン出身者だったので、私がカンバーランドからノイシュバンシュタインに移り住んだのがきっかけです。元々、カンバーランドで兵士をしていたので、ここでもまた縁あって兵士をやっています」
兵士は苦笑いを浮かべながら話していた。
「……実は、私フィルさんをお見かけしたんですよ」
「えっ! 父を、父を見たんですか? いつですか? どこで見たんですか?」
ミレアは食いつく様に兵士に詰め寄った。
「え、ええ。 カンバーランドに例の事件があった翌日だと思います。私の両親もカンバーランドに居たので気が気じゃなかったですから。そんな中、私はカンバーランドへの通行ゲートの監視員の仕事をしていました。基本的にゲートを封鎖し『誰もカンバーランド側へは通すな』と命令されていました。そこへ一人の男性がカンバーランドへ行きたいと言ってきたのです。それがフィルさんでした」
「お……お父さんはやっぱりカンバーランドへ」
「はい……間違いありません。彼自身が素性を明かしどうしてもカンバーランドへ行かなければならないと、当時の上官と掛け合って、カンバーランドへと向かって行きました……そしてーーその後帰って来たという話は聞いていません……」
「……おとうさん……」
ミレアとクレアの悲しそうな佇まいに、兵士は申し訳無さそうに肩を落として、下を俯いていた。
「おじさんありがとう。貴重な話をしてくれて、これでカンバーランドへ行くのが無駄足ではなくなりそうです」
クレアはにっこりと微笑んだ。
「お嬢ちゃん……」
「クレアの言う通りです。ありがとうございます。カンバーランドへはどうしても行かなければならないから……」
「……お嬢ちゃん達はカンバーランドへ行く理由は分かるが、他に何が目的なんだい?」
「英雄碑……第1勇者の英雄碑が見たいんですよ」
兵士の顔が口を大きく開け固まり、徐々に顔色が悪くなった。
「おじさん?」
クレアが顔を覗き込む。
「ーー第1勇者の英雄碑はもう無い」
えっ!
「ーーーーーーーーーーーー‼︎」
「例の事件の際に崩れ落ちてしまって今は粉々になってしまっている筈だ」
「そ、そんな……なら一体どうしたら……」
エルは膝に手をつき落胆する。
そのエルの背中にポンと手を置くエリーナ。
「結局はカンバーランドへは行かなきゃならないでしょ。あの子達のお父さんへの道は繋がったんだから。それに、狐たちは崩れ落ちてしまった英雄碑の事を知っていて尚、行けば分かると言っていたのかも知れないじゃない?」
「そ、そうだけど……」
「きっと何か理由がある。私たちに伝えたい事があるんだよ!」
「うん。 行こうカンバーランドへ」
☆★☆★☆★
「本当に良いのだな? このゲートを通過すれば明日の朝までは帰って来る事は出来ない」
「はい。覚悟の上です!」
封鎖されていたゲートの壁が音を立てて上がり、カンバーランドの大地が目の前に広がる。
「……気を付けろよ!」
司令官長がエルに声をかける。
「はい! 行ってきます‼︎」
エルはティーガーの横腹をポンと歩く蹴ると、ティーガーは荷車を引き、勢い良く走り出した。
エル達が立ち去ると、再びカンバーランドへ続くゲートは音を立てて封鎖された。
「官長……本当に良かったんですか?」
カンバーランド出身者の兵士が、官長に声をかけた。
「……ああ……」
司令官長は兵士に背を向け、歩き出した。
司令官はポケットから通信用の水晶を取り出す。蒼白くぼんやりと輝く水晶。
「……カンバーランドへ送り込んだ。今度は失敗するなよ」
『今度こそは成功させるカナ。 ノイシュバンシュタインの姫を確保してお父様に届けるカナ』
「ふんっ! 期待しておくわよ」
通信用の水晶を遮断すると、司令官の服装のまま猫の面を被る。
黒猫はそのまま闇へ溶け込むように消えて行ったーーーー。
更新ペースが落ちてしまい申し訳ございません。
先日、レビューを頂き弱虫の剣の過去最高PVを更新しました!凄く嬉しかったです。これからも頑張って書いていきたいと思いますので、応援して下さい。ブクマ、感想、下記の☆☆☆☆☆より評価頂けたら作者の励みになりますので、どうか宜しくお願いします!




