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弱虫の剣  作者: 望月 まーゆ
第2章: 黒い森の蟲王
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君と同じ道へ

どれくらい眠っていたのだろうか?

目を開けて最初に目に入ったのは、見知らぬ天井だった。


寝返りをうちながら、周りを確かめてみる。

やはり見覚えのない部屋である。どこかの宿屋なのだろう。だいたいどこの宿屋も同じような作りなので、それだけはエルも分かった。


エルが覚えている最後の記憶は〈人型の蝿〉を貫く、アイナの剣での一撃だった。〈蝿〉が灰になり、消え去るのを確認して記憶がなくなったのである。


「……みんな無事だったのかな?」


エルはベットの上で上体だけ起こす。

窓の外は既に薄暗くなっていた。

部屋のドアに掛けられているランプの炎がユラユラと揺れ、オレンジに染められた部屋を落ち着いた雰囲気に演出していた。


ベットを下りたエルは、軽く伸びをしながら、体の節々を動かし体調の確認をする。


「ふう……特に問題ないみたいだ」


部屋の中は、ベットと小さな木製のテーブルが一つ置かれていて、そのテーブルの上にエルの装備品が全て、几帳面に並べられている。

テーブルの前には、少しくたびれた年季の入った二人がけのソファーがあるだけで、あとは何も無い部屋だ。


エルが、部屋の外に出ようとドアに近づいた時、廊下が騒がしい事に気づく。


「私が先に行くわ」

「何で? お姉ちゃんズルい!」

「いや、ボクが先に行くよ! 」


聞き覚えのある声が、ドア向こう側で何やら争っているようだった。

エルがドアノブに手を掛けようとした時、勢い良くドアが開く。


ふげっ!!!



「「「エル!!!」」」



三人同時に競い合うように、部屋の中に押し寄せて来た。

三人の目に飛び込んで来たのは、もぬけの殻になったベットだった。


「あれ? エルは……」

「お兄ちゃん……どこ?」

「エル? オカシイな、部屋から出て行った気配はなかったのに……」


三人は、不思議そうに部屋をキョロキョロと見回す。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


入り口のドアに、顔面を強打され挟まれたエルは言葉を失っていた。



☆★☆★☆★☆


「エルごめんよ。 この子達が無理矢理、部屋に押し掛けて来たんだ」


呆れ顔で、ため息を吐くアイナ。

その表情を見て、クレアが唇を尖らせる。


「何が無理矢理よ! 私が最初にお兄ちゃんのお見舞いに来たんだからね‼︎」


「ーー来たのに、部屋の前でずっとボーッと立ってたのは誰なのさ」


その言葉に「うっ!」と、痛いところを突かれたクレア。


「そ、それは……その……」


顔を赤く染め、言葉を詰まらせるクレア。

そんな二人のやり取りを無視し、エリーナがエルに近づき声をかけた。


「エル、具合は? 痛いところとか無い?」


「うん、全然大丈夫だよ。 ありがとう」


「ーーなら良かったわ」


ホッと、安堵の表情を浮かべるエリーナ。

そんなエリーナを見つめながらエルは、表情を引き締めながら問いかける。


「僕、途中で気を失ってしまったから、ここまでの記憶が全く無いんだ。その後どうなったの? あの狐のパーティーは何者だったの?」


エルの言葉に最初に反応を示したのは、アイナだった。


「狐のパーティーは【月華の茶会 】よ。真ん中にいた男性が〈雷帝・ハルト〉。冒険者ギルドでしっかりと、冒険者カードを更新すれば、恐らく☆4以上の判定になると言われているよ」


「えっ? 冒険者カードを更新してないの?」


冒険者カードの更新は、強制は無く、あくまで任意である。更新してランクが上がれば、高難度の報酬が高いクエストやイベントに挑戦出来るようになる。


「ハルトは、かなり癖のある男らしいよ。ライセンスを更新したのが、いつなのかも分からないと言っていたらしいよ。あくまで、カードの更新は自己申請だからね」


【月華の茶会】は高額な自由参加型のイベントなどにターゲットを絞り参加して、そこでパーティーの存在感をアピールした。

〈雷帝・ハルト〉の名は一気に知れ渡り、パーティーのランクは低いが、その絶対的存在感で高難度クエストなどの依頼を任されるパーティーになったのだった。


「……ハルトか……」


どこかでまた巡り合う、そんな予感がしたエルだった。


「ーーその後は、レグルスがエルを担いでここまで来たのさ」


「あっ、そうなんだ。後でお礼を言わなきゃ」


申し訳無さそうに、眉をハの字にするエルだった。


「あら? エルにいちゃんお気付きになられたのですね」


ひょこっと、ミレアが部屋の入り口から顔を覗かせて微笑む。


「ミレア、心配かけたね。もう大丈夫だよ」


エルの元気そうな表情と声を聞き、心配だった不安が解消された。


「皆様にお知らせしてきますね」


知らせに行こうとするミレアを呼び止めるエル。


「僕も一緒に行くよ。心配かけたし、お礼も言いたいからね」




* * * * * * * * * * * * *


〈ノイシュヴァンシュタイン城〉


ーー 議会室 ーー


円を作るように並らんだ、巨大な通信用の水晶が六つ怪しく光る。

薄暗い広大な議会室には、見張りの兵士が入り口に数人立っているのと、もう一人。


通信用の水晶が円を作る中心に、この国の王が椅子に腰掛けていた。


「ーー未だに魔王軍による侵略は衰えておらん」


「近隣諸国の都市や街は、徐々に衰退している」


「このままでは、あの〈カンバーランド〉のように国一つ滅びることになりかねませんぞ」


「陛下、如何なさるおつもりですか?」


各国の国王に責められる帝国の王。

七つの大陸を治める世界の中心、ノイシュヴァンシュタイン王国通称〈帝国〉。

未だに、打つ手のない魔王軍の脅威の責任を各国の王は、帝国へ押し付けていた。


七つの大陸の王達は、それぞれプライドが高い故、お互いをライバル視している。

その為、何か問題が発生しても、決して手を取り合い協力しようとはしない。それどころか、世界の中心であるノイシュヴァンシュタイン王国すら認めていない国もある程だ。



そこへ、ドタバタと足音が聞こえたかと思うと、ドアが勢い良く開く。


「報告です!」


一人の兵士が息を荒くして叫んだ。


「何事だ! 場をわきまえろ‼︎」


見張りの兵士から罵声が飛ぶ。


「構わん、続けよ」


帝国陛下の言葉を受け報告を始める兵士。


「はっ! 先ほどギルド中央本部より連絡があり〈緊急クエスト完了〉の報告がありました。尚、こちらのクエストは〈アラートレベル5〉の〈レイドクエスト〉に引き上げられたクエストだったそうです」


「あ……アラートレベル5だと‼︎」


世界の崩壊と同等のアラートレベルにざわつく会場。


「蟲王ベルゼブブが復活していたそうです」


兵士の口から出た伝説級の魔物の名に、言葉を失い静まり返る。


「それで、討伐は成功したのか?」


「はい! ☆4パーティーと〈雷帝〉により討伐されたとの事です」


歓喜に沸く会場。


「ーーとりあえずこれで一安心だな」

「当面の間は、魔物の心配はないでしょう」


席を離れ通信が途断える各国の王たちーー。


「お、おい! まだ話は終わっておらんぞ!」


陛下のその言葉を聞いても誰一人足を止める事なく、通信用の水晶は全てただの置物となった。


「……これだから困る……まったく……」


椅子の背もたれに体重を預け、頭を抱える帝国陛下。


そこへ足音が近づいて来る。


「ーー陛下、ご苦労様です」


深々と腰を折る黒いタキシードの男性。


「アレフレッドか……」


アレフレッドと呼ばれた男性は、帝国陛下の執事を務めている。身の回りのことも含め、この城でエリーナ姫を除いては、唯一心を許せる人物である。


三十代の青年の男性は、清潔感のある黒髪の短髪は爽やかな口調で報告を告げる。


「エリーナ姫を発見しました」


「ま、誠か⁉︎ 今どこに?」


「ご安心下さい。 万が一を考えると、ここよりも安全かもしれません」


表情を一切変える事なく、落ち着いたテンポで報告を続ける。


「どういうことだ?」


「エリーナ姫が現在同行しているパーティーは、あの☆4パーティーです。それに、あの世界新聞に一緒に写っていた少年についても調べました……」


「ほう……何者じゃ?」


「マギ……マギ・オルブライトの息子です」


「マギ……マギじゃと……聞いた事があるな」


「はい、耳にした事があると思います。マギはあのーーーー」



ーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーーー

ーー



「……分かったエリーナの件は、アルフレッドお前に任せる。片時も目を離さぬように警戒を頼む」


「お任せ下さい!」


執事の男は帝国陛下に一礼すると、足早に立ち去って行った。


薄暗い議会室の中央で一人、椅子に腰掛けながら、何も無い一点をただ見つめながら、物思いにふけるノイシュヴァンシュタインの王だったーー。




* * * * * * * * * * * * *


宿屋の一階のフリースペースに【Spielplatz】と【天使の翼】のメンバーが集まっていた。


エルが、無事に意識を取り戻した事に一同、安堵の表情を浮かべていた。

他のパーティーメンバーを心配してくれる優しいパーティーで心から有り難く感じるエルだった。


そこからは和やかな雰囲気で、時間は流れて行った。

レグルスに双子姉妹は懐いて、遊んでもらっていた。サラとエリーナも二人で紅茶を飲みながらおしゃべりをしていた。

シャルルは、持ち前の明るさであちらこちらに顔を出しながら場を盛り上げていた。


エルは、この前聞けなかった〈カンバーランド〉についてヘレンズに聞こうと思っていた。


ヘレンズは、ロキといつも通り仲良さげに、二人でコーヒーを啜っていた。

エルが近づこうとした時、不意に腕を掴まれた。


振り返ると、アイナがそこには立っていた。


「……アイナ……?」


エルが目をぱちくりさせながら見つめる。


「みんな聞いてほしい事があるの!」


その声に、全員がアイナとエルに注目する。


「あの女また、エルにいちゃんと!」


ムッと顔を膨らませるクレア。


「このクエストが始まる前にも言ったけど、今回のクエストでボクは、【Spielplatz】を抜けます。パーティーメンバーには、本当に感謝してます。今までありがとう」


深々とお辞儀するアイナ。

その姿を見て目を潤ませるシャルル。


「君が悩んで決めた事だ。私達としては、これからも一緒に世界中を旅したい所だが、このパーティーに入る前から捜している人物がいると言っていたし、その人物を見つけて同じ勇者パーティーに入るのが目的とも言っていたな。その目的が叶ったのかな?」


「うん。隣にいるエルが、ボクの捜していた人物で、ボクの何よりも大切な人だよ」


エルをチラッと横目で見て顔を紅く染めるアイナ。

その言葉に顔を真っ赤にして、下を向くエル。


ライバルに、一歩先を行かれた感が否めない様子のエリーナとクレアは、二人して奥歯をギリギリと噛み締めていた。


「捜していた人物が見つかって良かったじゃねーか! お前の目的が叶ったなら、俺らのパーティーに入って正解だったって事だな」


ロキの言葉を受けてアイナは、


「うん! 【Spielplatz】に入れてもらえて本当に嬉しかった。このパーティーで過ごした時間は、ボクの何よりの誇りで財産だよ」


「へっ」と、照れ臭そうに鼻の下を指で擦るロキ。


「アイナ元気でにゃん」

「勝手な行動は慎みなさいよ!」


シャルルとサラは涙ぐんで、溢れそうな雫を必死で堪えていた。


「うん、ありがとう。これからは〈天使の翼〉で頑張るね!」



え? ええええええええええええええええ!



「はあ?」「ええ⁉︎」


エリーナとクレアは、口をぽかーんと開けたまま暫くの間固まっていた。


エルは「宜しくね!」とアイナに腕を掴まれたまま放心状態だった。


ただ一人、ミレアだけが「宜しくお願いします」と丁寧にお辞儀したのだった。



こうして【天使の翼】〈エールダンジュ〉に新たなメンバーが加わったのだったーー。

『蟲討伐編』の区切りとなりました。

沢山の方に読んで頂きとても嬉しく思います。

今後も是非ご愛読を宜しくお願いします。

ブクマ・感想・評価・レビュー・FAなど頂けましたら作者の励みになりますので、是非宜しくお願いします!感想は一言でも良いので是非お聞かせ下さい!


エル達の物語はまだまだ続きます!

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