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弱虫の剣  作者: 望月 まーゆ
第2章: 黒い森の蟲王
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雷と蘇生

緑の天然の絨毯は赤に染まっていた。

水色の狼の少年が捨て身で、アイナを助けた。


「だ、誰かロキに回復魔法をーー!」


アイナが必死に叫ぶ。


しかし、〈蝿〉は待ってはくれない。


直ぐ様、アイナにターゲットを絞り襲いかかる。


「僕とアイナで、コイツを引き付けるからその隙にロキに回復魔法を頼む!」


エルの声に頷いたのは、エリーナとサラだった。


エルとアイナは、みんなとは逆の方向へ走り出した。


〈蝿〉はその巨体に似つかないスピードで、エルとアイナを追う。


「は、速すぎる……追いつかれる」


「エルだけでも逃げて、コイツの狙いはボクだから」


「そ、そんなこと出来ないよ!」


アイナの右手を握り、手を引くエル。


「エ……エル……」


頬を赤く染めるアイナ。

このままずっとエルと手を握っていられたら、どれだけ幸せだろうと思った。


アイナにエルの努力が伝わった。

豆とタコが出来た掌は、ずっと剣を振ってきた証拠だった。エルは、まだ夢を追っていると、アイナは嬉しく思った。



☆★☆★☆★☆


「ロキ、ロキ、目を開けろ!」


ヘレンズが涙を流して、血塗れのロキを抱えていた。


そこへエリーナとサラが駆けつける。


「今すぐ、回復魔法をかけます」


サラが目を閉じ魔法演唱を始める。

エリーナも一緒に魔法演唱を唱える。


「月の揺り籠」「生命の泉」


魔法陣の上に横たわるロキがまばゆい光に包まれ、傷が癒されていく。



ーーしかし、顔色は青白いまま変わらなかった。


「……ロキ……目を覚ませよ! 妹を探さなくて良いのか? お前のこと待ってるかもしれないんだろ?」


ヘレンズはロキに何度も何度も話しかける。


改めてヘレンズの周りを見ると、ポーションの空ビンがいくつも転がっていた。


「ロキ……カンバーランドに一緒に帰る約束だろ?……ロキ……うっ、うっ……」


ヘレンズの瞳から大粒の涙が溢れ落ちる。


ロキ…………


ヘレンズは神に祈りを捧げるように、光の射さない暗い森の空を見上げたーー。



* * * * * * * * * * * * *



横たわるロキに手を翳すエリーナ。

エリーナとロキを眩い光が包み込む。


お母様ごめんなさい。

人間には、決して使っては駄目だと言われましたが、どうしてもこの方を救いたいのです。何も出来ない私に唯一出来ること。


「サンクトビーターリデート」


止まっていた心臓が動き始めた。

青白い顔が、徐々に紅く染まる。


そしてーーーー、





ロキは目を開けた。

もう二度と開かないと思っていたロキの目が開いたのだ。


「……あれ……俺は….…いったい….…」


体を起こし、自分の体を確かめるロキ。


「….…ロキ….…よかった….…本当に….…」


涙を流しながら、ロキに抱きつくヘレンズ。


「そっか….…あの時俺は….…奴に….…」


魔法で穴を開けられた腹部を触りながら、消えかけていた記憶を呼び覚ますロキ。


「ああ、エリーナが君を助けてくれたんだ。

もう….…こんな無茶をしないでくれ….…」


「ああ….…すまないヘレンズ….…ありがとう、エリーナ….…その、助かったよ」


鼻の下を指で擦りながら、照れ臭そうに礼を言うロキ。


「わ、私はこれくらいしかお役に立てないから….…」


慌てて両手を振りながら、返事に困るエリーナ。


そんなエリーナを見つめながらサラが、エリーナの耳元で囁く。


「エリーナ….…あなた今の魔法は一体?

ただの回復呪文じゃないよね? 聞いた事もない演唱呪文と言い….…アレは何?」


眼鏡を押し上げながらエリーナを見つめるサラ。


「….…それは….…その….…」








「ふふふふふふ。 見ちゃった見ちゃった‼︎」


木の上から気配を完全に消していた黒兎は、嬉しそうにエリーナを見つめていた。


「今のは完全に〈蘇生〉よね! 捜していた人物であの呪文、間違えない! ビンゴ‼︎」


木の枝に座り、足をぶらんぶらんさせる黒兎は嬉しそうに鼻歌を唄う。


「ーー〈お父様〉もこれできっと満足してくれる! 」


黒ローブの中から通信用の水晶を取り出す黒兎。ぼんやり光輝く水晶の向こう側に〈猫の面〉を被った人物が浮かび上がる。


「あっ、〈黒猫(キャット)〉終わったよーん! 結果はビンゴだよ」


水晶に向かって二本の指を立てて見せる黒兎。


「ーーで、〈あの娘〉攫っちゃう?」


ふむふむと、水晶を見つめる黒兎。


「りょうかーーい‼︎ じゃあとりあえず戻りまーーす」


通信用の水晶をローブにしまうと、黒兎は、鼻唄混じりに飛び跳ねるように、森の奥へと消え去って行ったーー。



☆★☆★☆★☆


森の中を必死で駆ける、エルとアイナ。

そのすぐ背後を〈人型の蝿〉が猛追して来ていた。


「だ、駄目だ….…追いつかれる」


奥の手だったけど、今使わなきゃ僕もアイナもやられる。

エルは、走りながらアイナに告げる。


「アイナ….…もし僕が倒れても、君だけでも逃げてね」


その言葉にムッと、唇を尖らせるアイナ。


「な、何言ってるんだよ。ボクがエルを置いて逃げることなんて、出来るわけないよ」


「僕がくい止めるから、時間を稼ぐから….…」


アイナは横目で見るエルは、意味深な表情を浮かべていた。そんなエルの心情を悟ってもアイナは首を縦には振らずに叫ぶ。


「駄目だよ! ボクは絶対にエルを一人にしない。もう一人ぼっちは嫌なんだ」


「アイナ….…」


エルはアイナの方に顔を向けると、アイナがこちらに愛くるしい顔を向けていた。


幼少の頃から何一つ変わらない、その煌びやかな眼差しにエルはアイナを置いて一人冒険者になった事を初めて後悔した。


アイナのその笑顔に何度救われた事だろう。

父を亡くして、絶望の淵から救ってくれたのは、他でもないアイナだった。

彼女がいたから、今のエルがいるとっても過言ではない。


「….…アイナ….…」


エルは改めて、アイナという存在の有り難さ

に気付いた瞬間だった。


エルの声に優しく微笑むアイナ。


二人だけの心通わせる時間はすぐに終わりを告げたーー。




エルとアイナが行き着いた先は、高さ三メートルは有りそうな岩壁の袋小路だった。


エルとアイナが振り返ると、すぐ前方には〈蝿〉が迫っていた。


「….…やるしか無い‼︎」


エルは皮のブーツに魔術付与を施す。

【 加速限界 】〈リミットバースト〉


「アイナ!」


エルがアイナを近くに呼び寄せ、しゃがみ込むとアイナのブーツにも魔術付与を施す。

【 超加速 】〈フルブースト〉


「….…マギさんの付与術….…」


「魔法は、これくらいしか覚えられなかったけどね」


頭を掻き、苦笑いを浮かべるエル。


「ありがとエル! 勇気が湧いた」


アイナはほのかな笑顔を見せた。


エルはその笑顔を確認すると、右腰のあたりに納めてある黒曜石の短刀を左手に取った。


「ーーーーーー‼︎」


エルの二刀流の構えに目を丸くするアイナ。


エルが姿勢を低くし戦闘態勢に入った瞬間。




べん、べーーん。



森に似つかわしくない三味線の音が木霊する。


べべん、べべん。


人魂の様な炎がゆらゆらと四つ現れたかと思うと、三味線を弾いてる和装姿の女性が崖の上に現れた。


べべん!


人魂が一つ消えると、エメラルドの瞳の狐が現れた。


べべん!


人魂が一つ消えると、サファイアの瞳の狐が現れる。


べべん!


人魂がまた一つ消えると、ルビーの瞳の狐が現れる。


べべん!


人魂がもう一つ消えると、アメジストの瞳の狐が現れた。


べべんべーーん!!


力強く三味線を叩くと、四人の間を袴を着て腰に刀を挿した茶色の髪の少年が現れた。


「ーーだれ?」


エルとアイナがポカンと、口を開け見上げていると、袴姿の少年はエルとアイナを睨み付けるように見つめる。


「ハルくん、発見よ。きっとあの子達が初心者パーティーの子たちよ」


ルビーの瞳の狐が袴姿の少年に話しかける。


「とっとと、倒して帰るの。 わたし虫キライなの」


アメジストの瞳の狐は、顔を歪めいる。


「ハルトやっちゃうっス!」


サファイアの瞳の狐が拳を突き出すのを合図に袴姿の少年が動き出す。


「そこのあなた達、巻き込まれるわよ! 少し離れてなさい‼︎」


崖の上からルビーの瞳の狐が大声で叫んだ。


エルとアイナの耳にその声が届くと、言われるがまま岩崖の隅に移動する。



〈蝿〉はお構い無しに、エルとアイナを目掛けて魔力を高めている。


今まさに〈蝿〉が衝撃波を発動しようかという瞬間ーーーー、



雷鳴が轟く。


〈蝿〉の体はから黒い煙が上がる。


エルとアイナが崖の上を見上げと、袴姿の少年のまわりをパチパチと電撃が弾けている。


〈雷帝〉ハルト・ヒメラギと狐四姉妹に三味線の和服女性を含むパーティー【月華の茶会 】だ。


〈蝿)は崖の上を見上げ、羽根を広げ浮かび上がる。


ハルトは、崖の上から見下すような冷ややかな瞳を蝿に送りながら、右手を突き出す。


迅雷(ルミナスボルト)


無数の電撃が〈蝿〉に降り注ぐ。


「ギガガガガガガガガガガガガガガガ‼︎」


咆哮をあげて電撃に打たれる〈蝿〉。

更に、間髪入れずにハルトは追撃を放つ。



無限の紫電(インフィニティボルト)


漆黒の雲に辺りは覆われ天から無数の電撃の柱が〈蝿〉に向けて降り注ぐ。


けたたましい音の雷鳴が轟き〈蝿〉は稲光りで見えなくなる。


「ーーーーーーーーーーーーーーーー」


〈蝿〉は声にならない叫びを上げる。


「トドメをさせ!」


崖の上からハルトが叫ぶ。


その声にエルは、頷くと〈蝿〉目掛けて駆け出す。


「ああああああああああああああああっ‼︎」


二刀流による神速からの連撃が〈蝿〉を刻みつける。


ーー途切れることの無い連撃にアイナや【月華の茶会 】のメンバーも食い入る様に見つめる。


「は、速い….…これが本当のエルの実力」


縦、横、斜め、縦、横、斜め、縦、横、斜め、縦、横、斜め、縦、横、斜め、縦、横、斜め、縦、横、斜め、縦、横、斜め。


エルが片膝をついて双剣を納めると、アイナは高く跳ね上がりその両手で握る聖剣でトドメの一撃を放つ。


「闇を打ち砕く 聖剣よ 今こそ我に力を示せ!

【 フェアギスマインニヒト 】」


閃光の一撃は〈蝿〉の体を貫いた。


「ギャイアアアアアアアアアアアア‼︎」


天を仰いだ巨大な蝿は、地面に崩れ落ちそして、徐々に灰へと変わり消え去った。


「お….…終わったのか?」


エルがボケっと気が抜けたように立っていると、大剣を背中に納めたアイナがエルに駆け寄り抱きつく。


「エル….…凄いよ‼︎ やっぱエルは強いんだね….…エル?….…エル⁉︎」


エルはそのまま返事もなく、気を失ってアイナに押し倒されるように地面に倒れた。

目の前が真っ暗になり、エルの記憶はそこで途絶えた。


【 月華の茶会 】


・ハルト☆2 (人間・男)


・玉藻☆3 (狐亜人・女)


・天狐☆2 (狐亜人・長女)ルビー


・空狐☆2 (狐亜人・次女)サファイア


・仙弧☆2 (狐亜人・三女)エメナルド


・気弧☆1 (狐亜人・四女)アメジスト


*【雷帝】ハルトと玉藻、狐の四姉妹からなるパーティー。

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[一言] エリーナ、やっと活躍した~www
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