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弱虫の剣  作者: 望月 まーゆ
第1章: 出会いの奇跡、ここから始まる軌跡
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姫奪還作戦①

「侵入者だ!」

「か、数は?」


騒然とする〈グリューネ邸〉


「ひ、一人だ! 白銀の頭の小僧だ!」


問答無用の中央突破を選択したエル。

飛び交う怒号の中を縦横無尽に駆け抜ける。


今まさに、姫奪還作戦の幕が切って落とされたのだったーー。



* * * * * * * * * * * * *



稽古で師匠から貰ったアドバイス。


「良いかエル。一人で多数の相手をする場合は極力、戦闘は避けること。いちいち一人、一人相手にしていたら体力が保たないし、殺られるリスクも上がるからだ」


「侵入する場合は、中央突破を選択しろ!

何故かって? 目立つ事で敵の注意を全て集められ、室内にいる敵や隠れている敵を誘き出すことに繋がるからだ」


「どうしても戦闘しなければならない場合は、最小限で片付けろ! 時間を使えば使うほど、周囲を包囲され身動きが取れなくなり死亡するリスクが跳ね上がる」


「室内に潜入したら一気に駆け上がれ、敵からは死角、死角になるように的を絞らせず、直線的にならないように階段は駆け上がる」


「最後は、目標の相手を目の前にして如何に冷静でいられるかだ! この前自分がなぜ負けたか覚えているな? その敗因を忘れるな。お前は決して弱くない。 自信を持て!」



僕の胸にはその一語一句が刻まれている。

ただ、素直に従うだけ師匠のアドバイスを確実に実行に移すーー。



* * * * * * * * * * * * *


【 超加速 】で一気に駆け出す。

敵兵が武器を振り降ろす間も無く、エルは疾走する。


「・・・・・・」


余りの速さに目で追うことの出来ない帝国兵はただ、そこに立ち尽くす事しか出来なかった。


「何やってるんだ! と、止めろーー⁉︎」


エルは止まらない。

邸宅の門から玄関までの直線二百メートル余りを一気に駆け抜け、玄関前で待機している帝国兵数十人の足元を短刀で斬り裂き、戦闘不能にする。


「こ、このーー」


倒し損ねた兵士がエルに攻撃を仕掛ける。


柳のようにしなやかな動きで、攻撃を回避し足元を切り裂く。


更に二人の兵士がエルに襲いかかる。


エルは短刀を逆手に持つと姿勢を低くし、相手に向かって突進。


両者がすれ違うと、敵兵士二人はバタバタと倒れた。


「いたぞーー!! 止めろーー!」


後方から敵兵士の軍勢が押し寄せて来る。


( や、ヤバイ。師匠にあれだけ戦闘は避けろと言われたのに・・・)


エルは急いで、玄関から室内へと移動した。



* * * * * * * * * * * * *


「ーー外が騒がしいな。何事だ?」


シュナイデルは自室でコーヒーを啜っていた。

香ばしい香りが室内いっぱいに広がっている。


コーヒーカップをテーブルの上に置き、窓の外に目をやると兵士達が慌てふためく光景が広がっていた。


「ーーなっ⁉︎」


シュナイデルは慌てて自室から廊下へ出ると、待機している兵士達がいないのに気づく。


唯一の救いはエリーナの部屋の前には兵士が待機していた事だった。


シュナイデルは内心ホッとした。

もしこの兵士まで持ち場を離れていたのならば、エリーナはこの隙に脱走していたかもしれないからだ。


シュナイデルは感謝の意も込めてその待機していた兵士の肩をポンと叩いた。


兵士は首を傾げて不思議そうな顔をシュナイデルに見せた。


シュナイデルは気をとり直してエリーナの前に待機していた兵士に、


「何の騒ぎだ?」


「はっ! 侵入者です」


「侵入者? 敵は何名だ?」


「情報ですと、一名らしいです」


「い、一名・・・だと?」


舐められたとギリギリと奥歯を噛み締め、怒りを露わにする。


シュナイデルの頭にはあの白銀の頭の少年の姿が浮かび上がった。


「あいつに違いない! クソ、舐めやがって!」



* * * * * * * * * * * * *


階段の手すり、柱を蹴り上げながら飛び跳ねるように上へ上へと駆け登る。


足を止めず走り続けて来た体力は限界に近づいていた。


『エリーナが助けを待っている』


その想いだけで今のエルは、動いていた。


噴き出る汗、パンク寸前の太腿とふくらはぎ、息は上がり、心臓が悲鳴を上げていた。


( 足を止めた瞬間に囲まれれる )


エルは、懸命に足を動かした。


狭い通路に密集する敵兵と、可能な限りの戦闘は避けて階段を駆け登る。


( く、クソッ・・・敵が多過ぎる・・・ )


途切れない敵兵の攻撃を回避しながら、確実に階段を駆け登る。


全ては、囚われた姫を救い出す為、その使命感に全身を白熱させる想いがエルを駆り立てていた。



* * * * * * * * * * * * *



エリーナは動揺していた。

邸宅全体が騒がしくなったと思うと、何者かが侵入したと報告があったのだ。ーー白髪小僧と。


「エ、エル・・・?」


張り裂けそうな想いを懐いていた。

こんな私の為に単独で乗り込んで来てくれた。


こんな私のために・・・。

姫であることを隠していても尚、あの白銀の少年は私を助けに来てくれた。


「エル・・・エル・・・私は、助けられる資格はあるの・・・かな・・・?」


ベットの隅で膝を抱えて、小さくなるエリーナ。その瞳には薄っすらと雫が溜まっていた。



ガチャッ!



ノックも無く、乱暴にドアを開く。

シュナイデルが眉間にシワを寄せて、部屋に入って来るなり、


「お前の仲間の白髪小僧が、単独で進入して来たらしい」


エリーナはうつむいたまま、その問いに答えなかった。


「ーー仮に、ここまで辿り着いたとしてもこの私が蹴散らしてくれる。二度と歯向かえぬようにね」


乱暴にドアが閉まると、廊下から冷たい高笑いが響き渡る。

エリーナはその嫌悪感に慌てて耳を塞ぐ。




エル・・・どうか、どうか女神さま、エルをお救いください。




* * * * * * * * * * * * *



「おーーい、何か面白いネタないのかよ」


ごちゃごちゃの書類の山と、読みかけの本に沢山の栞が挟まった本が所狭しと積まれた机に、顔をぺたーーとつけてダラけている男が部屋中に聞こえる様に叫ぶ。


部屋にはこの男以外に男女一人ずついるが、二人とも机に向かってペンを走らせている。



世界新聞社ーー 此処(ここ)には世界各地での情報が集められる。 ミッションの達成・クエストのクリア・そして魔王軍の情報。


これらの情報を提供しているのが戦場絵師。


特異能力の念写によりその人の記憶の断片を写真のように映し出すことが出来る。


これは個人差があり鮮明差が生じる、 絵のようになってしまう人もいるし、 写真のようにクリアに映し出す人もいる、 その中でもトップクラスの実力者がパウロという男である。


情報のみで生きている男で世界新聞社の売り上げを左右する男、 そして世界の現状を一番握っている男。


「おい! 何か面白そうな情報はないのか!」


意志の強そうな男前の顔立ち、グレーのスーツ姿でも恰幅の良い体格が分かる。ダンディな髭がトレードマークだ。


「痛ててて!」若い男の耳を引っ張るパウロに、


「ちょ、ちょっと先輩! 僕、仕事中なんスけどーー⁉︎」


「何か面白いのないの?」


にやりと笑い「あるんでしょ?」と、右手の掌を上にして差し出すパウロ。


若い男はため息を吐きながら「まったく」と、小声で呟きながら胸ポケットからメモ帳を取り出すと、パラパラとめくり出した。


「昨日、〈フレデリカ〉でちょっとした騒ぎがあったみたいなんスよ」


「〈フレデリカ〉??」


「はい。三人目の勇者の街っス。何でも帝国兵を引き連れたシュナイデル氏が冒険者と一悶着あったようっス」


「・・・なるほど、他には?」


「ーーあとは、」とパラパラとメモ帳をめくる若い男。


「あの伝説のパーティー【angel of eyes】メンバー以外でのレベル4到達者が現れたみたいっスよ。近年では彼女一人だけっス」


「ああ、彼女か・・・。レベル3到達した時に一度取材させてもらっているよ」


「マジっすか。さすが先輩、現状で勇者に一番近いと言われている人物に既に接触していたとは・・・」


難しい顔をしてうな垂れる若い男。


「よし!」と若い男の背中をバシンと叩くと、


「サンキュー! この情報を追うよ」


と、パウロは右手を上げて事務所から去って行ったーー。



* * * * * * * * * * * * *



エルは三階に到達した。

グリューネ邸宅の最上階のエリーナのいる場所だ。


部屋の数が多くどこにエリーナがいるのか分からない。


背後から敵兵が追いかけて階段を上ってくる。


目の前には廊下を封鎖するように敵兵が何重にも折り重なりバリケードを作っていた。


( く、クソお・・・もう少しなのに・・・)



「い、いたぞー!」


背後に目をやると、敵兵が迫っていた。

完全に囲まれてしまった。


ザッ、ザッ、ザッ。


少しずつ距離を縮めるように敵兵は前進しながらエルとの距離を詰める。



ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。




「ーーーーーーーーーーーーーーーー」




ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ



エルがこの状況を何とか打破しようと考えているとーーーー、



パチンと指を鳴らす音が廊下に響いた。


敵兵は真ん中から割れるように壁に張り付き道を開ける。


割れた廊下の先には、緋色の鎧を身に付けた男。


忘れもしないあの憎たらしい顔。

その男の隣にはーーーー、



「エリーーーナ!!」


エルは思わず叫んだ。


その声にエリーナは、ハッと顔を上げる。


「える・・・エルーーー!!」


エリーナの瞳から雫が溢れる。


そんな感動的な出逢いを切り裂くようにシュナイデルがあざ笑う。


「単独でここまで来たことは、褒めてやる。

付いて来い! 私自ら二度と歯向かえぬように躾けてやる」


シュナイデルは踵を返し廊下の奥へと歩き出す。


エリーナは一度エルに振り向いたが、再び前を向きシュナイデルの後を追う。


エルは先ほどまで争っていた敵兵の間をゆっくりとシュナイデルの背中を追って廊下の奥へと姿を消すのだったーーーー。

少しでも良いと感じてくれましたらブクマお願いします。


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今後も応援よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 無策で中央突破と思いきや、ちゃんと理由があったんですね。 次期勇者候補の女性の情報が気になりますね~
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