山岳城塞
第73話です。どうぞ。
「着きました」
セオルの案内のもと、ルミナリア達がやって来たのは、アムドリアの中腹にある大きな建物だった。
セオルが扉を開き中に入る。ルミナリア達もその後に続き、建物に入る。すると、そこは左右の壁沿いに多くの受付が並ぶ場所だった。そして、入ってみてわかったのだが、どうやらこの建物は随分と奥行きがあり、アムドリアの地中、山の内部に食い込む形で作られているようだった。
(なんだか市役所みたいな所だな……)
ルミナリアがそんな風に思うのもあながち間違いではなかった。
「ここはアムドリアの人達が色んな手続きをする場所です。ここには各地の山の情報が集まりますから、鉱夫の皆さんが人手を募集している鉱山がないか探しに来たりする場合が多いですけどね」
「なるほどな、鉱夫達のギルドみたいなもんか」
「そうですね。それが一番近いかもしれませんね」
「ん、ところでセオル。もしかしてあれが?」
そう言いながらアルルメイヤが正面を指差す。それは、周囲の様子以上にルミナリア達の目を惹く大きな両開きの扉だった。五メートル程の高さはあるだろうその扉の前には、腰に剣を提げる二人の軽装の兵士が立っている。
「ええ、そうです。あれがアムドリア城の入り口です。行きましょう」
ルミナリア達は、セオルの後に続きながらキョロキョロと見ながら歩く。
「驚いたわ。こんなところに入り口があるのね……」
「と、いうことはあの扉の先は山の中に繋がってるってことだよね? 地下にあるお城なんてちょっと想像がつかないや……」
「ん、おとーさまから聞いてはいたけど……やっぱり楽しみ」
「お前ら、楽しそうなのはいいが……何しに来たのか覚えてるよな? 観光に来た訳じゃないんだぞ?」
グリムがわくわくした様子のルミナリア達に苦笑いをする。
「そうだったね……あはは……」
「ま、俺も城の中に入るのは初めてだから、お前らの気持ちはわからんでもないがな? でも、しっかり気を引き締めとけよ?」
そんな話をしながらルミナリア達が大扉の前にやって来ると、門番の兵士の一人がルミナリア達へと歩み寄り敬礼をした。
「おかえりなさいませ。殿下、そちらはお客様ですか?」
「ええ、この方達は僕の招待した方々です。開門をお願いします」
「わかりました。では扉の前でお待ちください」
セオルと話していた兵士が振り向き片手を挙げる。すると、大扉の側で待機していたもう一人の兵士が、大扉の横の壁に設置された魔力によって動作するのだろう青い板に触れると同時に、大扉がゆっくりと開き始めた。
(扉の先ってどうなってるんだろ? 山の中って言われたらなんとなく暗そうな場所を想像しちゃうけど……)
ルミナリアがそんなことを考えているうちに大扉が開き終わる。
「ではお通りください」
「ありがとうございます。みなさん、行きましょう」
敬礼する兵士達に見送られるルミナリア達は、セオルの先導で大扉の先へと向かう。明かりに照らされながらも薄暗く感じる通路の先は非常に明るくなっているようだった。
「ん? なんだろう……先が明るいみたいだけど……」
眩しさを感じながら歩みを進め、出口を目前としたルミナリア達の目に飛び込んできたのは見渡す限りの空と、遠くに見える山々だった。
「これは驚いたわね……」
「これって……外!?」
山の中腹にある地下通路を抜けた先が開けた空だとは思ってもいなかったルミナリアとフィアナが感嘆の声を漏らす。
「ねぇアルル。さっきまで山の中にいたはずだよね」
「ん、ルミナ、フィアナ。私達はちゃんと山の中にいる。外に出てから見下ろして見たらわかるはず。セオル、いい?」
嬉しさを隠しきれない様子のアルルメイヤに、セオルが笑いながら快く頷く。
「ルミナ、行こっ!」
「わわっ! 待ってよアルル!」
アルルメイヤがルミナリアの手を取り駆け出す。そして、通路の先にある柵へとアルルメイヤが身を乗り出すのに続き、ルミナリアもまた身を乗り出し、眼下に広がる光景を見る。
「ん……これがアムドリア城……」
「すごいや……」
そこにあったのは、山の内部を丸くくり貫く形で、段々と続く城だった。その雄大で力強い風景をルミナリアとアルルメイヤが見詰めていると、セオル達が後ろから追い付いてきた。
「ほー! これが噂の山岳城塞か!」
「確かに、これは山の中の城ね……ふふ!」
グリムとフィアナもまた、ルミナリア達同様に柵から身を乗り出し、楽しげに笑う。
「ねぇセオル。これってどうなってるの? まるで山に真上から丸く穴を開けたみたいになってるけど……」
ルミナリアが後ろにいるセオルに質問を投げ掛ける。
「これは、かつての神界大戦の際にある邪神の恐るべき魔法によって出来た穴です。そして、神界大戦の後、黄の女神様と、その加護を受けた五英雄の一人。つまり、僕のご先祖様に当たる方が大地に傷をつける程の戦いの壮絶さ、そして、悲しさを忘れないようにとこの地を王都にしたのだと伝承に残っています」
「神界大戦か……こんな大きな山に穴を開けるような戦いなんて、ちょっと……想像が……あれ……?」
「ルミナ!?」
「ルミナちゃん!?」
突然、ルミナリアが強烈な目眩に襲われ、その場に膝をつく。
(一体何が……!)
ぐらぐらと揺れる視界に、堪らず目を閉じるルミナリア。同時に何故か周囲から全ての音が消える。そして、気が付くとルミナリアの脳裏にゆっくりと景色が浮かび上がってきた。
(ここは……どこかの山……?)
――ドゴォォン!!
(な、何!?)
突然の爆音に、ぼんやりとしていたルミナリアの視界が晴れる。
「これで終わりだ! もう諦めろ……この世界はお前達になど……!」
「ふ……ふはは……人間風情に……こんなバカなことなど……ぐっ……」
そこには、人の身には余る程の大きさをもつ戦斧を構え、息を切らすボロボロの男と、それに対峙していたらしき膝をつき血を流す男が向かい合っていた。
(っ……)
少しでも動けば命が危ういと思わされるほどの闘気を纏う二人に、ルミナリアが息を呑む。
「はは……はははははは! 認めん……私が敗北するなど……認めんぞおおおおお!!」
倒れていた男が高笑いをあげ、全身から莫大な魔力を放出する。
「まさか……自爆するつもりか!?」
「こっちへ!」
「ああ!」
(えっ!?)
事態に付いていけないルミナリアに、少女のような声が聞こえると同時に、視界が突然走り出したかのように動き出す。目の前の男が頷き、戦斧を手放すと、その戦斧はまるで宙に溶けるかのように消えさる。
(今の声って……まさか、これって誰かが見ている景色を見ているの!? それに、さっきの斧って……)
少女らしき声の主は、戦斧を構える男の腕をとり、強く地面を蹴りそのまま空へと飛翔した。
「間に合って……!」
「うおおおおおおおおあああああああ!!」
願うように呟き、男と共に空を翔ける少女の後ろで、絶叫が響く。その瞬間。空を震わす爆音が世界を包んだ。
少しでも速度を緩めれば、あっさりと命を奪うだろう気配が猛然と背後から迫る中、少女は全力で空を翔ける。それは、数時間にも感じられるほどの数秒。少しずつ少しずつ追い付きつつあった気配が弱まり、死地から逃げ延びた少女と、少女の腕に掴まる男が安堵の息を漏らす。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」
「すまない……助かった……」
そして、二人が先程まで自分達がいた場所を振り返る。そこには。
(山に……大きな穴が……)
ルミナリアの視界は、そこで暗転した。
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では、また次回で会いましょう。




