喫茶店と腹ペコさん
第71話です。どうぞ。
「アルル、大丈夫?」
「ん、大丈夫」
ルミナリア、アルルメイヤ、セオルの三人は、喫茶店へと場所を移していた。今回はオープンカフェ部分ではなく、店内の席を使っている。
「少し休めば平気。それより、なんの話をしてたの?」
アルルメイヤは、セオルが自己紹介をしていた間、意識が朦朧としていたため会話の内容を知らなかったのだった。
「そうですね。では、改めて自己紹介から……」
セオルが改めて名乗ろうとすると、カウンターの奥の厨房から、まさに、おばさんという言葉が似合いそうな、優しい表情をしたふくよかな半神族の女性が現れ、ルミナリア達のテーブルへとやって来た。
「いらっしゃい。あんたたち、さっき来たばかりなのにまた来たのかい?」
「おばさん。お世話になります。あはは……」
「そんなにうちが気に入ってもらえたのならいつ来てもらっても歓迎ってもんさね!」
おばちゃんがにこやかにテーブルに人数分の水の入ったグラスを置く。
「……あんたたちみたいに可愛い娘達がいてくれたらこっちも助かるからねぇ」
「え? 何か言いました?」
おばちゃんが、小声で呟いた内容は、ルミナリア達の耳には届かなかった。
(さっきはこの娘達が表で楽しそうにしてくれてたお陰でいつもより繁盛したからねぇ!)
「おや、ぼっちゃん。両手に可愛い花を持ってるんだから、しっかりエスコートしないとだねぇ」
「はい。全力を尽くします!」
「ははは! 頑張るんだよ。さて、注文はどうするんだい?」
「えっと……私はカフェオレで」
「僕は特製フルーツジュースでお願いします」
「ほいほい……あんたはどうするんだい?」
ルミナリアとセオルが注文を終えると、メニュー表とにらめっこをしていたアルルメイヤの目がくわっと開く。
「ん、紅茶と特製オムライスと芋のポタージュスープとピリ辛ソースの焼き鹿肉とハンバーグと山菜サラダと特製サンドイッチ。お願いします」
「「……はい?」」
瞬間。空気が凍った。
「よく食べるんですこの娘……あはは……」
「えへん」
なぜか胸を張るアルルメイヤ。余談だが、アルルメイヤの大きな二つの膨らみがたゆんと揺れるのを見た一部の彼女連れの男性客がごくりと息をのみ、彼女にどつかれていたが、ルミナリア達は知る由もなかった。
「いやいや! よく食べるどころじゃないよ! さっきも女の子にしちゃ多い量を食べたばかりじゃなかったかい!?」
「さっき食べたばかりなのにこんなに!?」
驚愕のあまり、小さく震えるセオルとおばちゃん。そんな二人にアルルメイヤが堂々と宣言する。
「ん、ごはんは大事。……あと、やっぱりオムライス二つで」
セオルとおばちゃんに更なる衝撃が走る。
「あはは……」
あんまりな状況に苦笑いするしかないルミナリアなのだった。
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衝撃の注文を終え、どこか虚ろな表情をしたおばちゃんが厨房へと消えた後、すぐに別の店員が飲み物を運んできた。
「セオル君、話の続きしよっか?」
「そ、そうですね。では改めて……」
呆然としていセオルがハッとなり、右袖を捲り、白金のパーソナルバングルを見せる。
「僕はセオル。セオル・フラウム・アムドリア。アムドリア王家の王子です。僕の事はセオルとお呼びください」
セオルが袖を戻し、ペコリと頭を下げる。それを見ていたアルルメイヤが真剣な表情になり、ルミナリア達の間にどこか張り詰めたような空気が漂う。
「と、言う訳なんで驚いてたところだったんだよ」
「ん、なるほど……」
直後、ルミナリアのパーソナルバングルを通してアルルメイヤからの念話が聞こえてきた。
『ルミナ、このまま聞いて。セオルは自分のパーソナルバングルを見せて挨拶をした。これには大きな意味がある』
『意味?』
『ん、それはあなたを信頼しますって伝えるための行動』
『つまり?』
『私達もその誠意に対してそれ相応の返答をするべきだと思う。だから……』
アルルメイヤは、念話でそこまで言うと、右手首に巻かれているリボンに指をかける。
「ん、じゃあ私も名乗らせてもらう」
アルルメイヤのリボンが、指に引かれてふわりとほどける。
「それは……!」
セオルが目を見開く。その瞳に映るのは、セオルと同じ、王家を示す白金のバングル。
「私はアルルメイヤ・ブラン・ホリティア。国の古いしきたりでまだ公の場には出たことはないけど、白の国の第二王女」
「これは……本当に予想外でした……もしかして、ルミナリアさんも?」
「いや、私は別に王家の人間とかじゃないんだけど……」
ルミナリアがそう言って、パーソナルバングルに巻かれているリボンをほどく。そこにあるのは青みがかった銀のバングル。
「ルミナリア……です。よろしく……お願いします」
ルミナリアは、どこか居心地が悪そうに自己紹介をする。
「ん……?」
ルミナリアのバングルを見たセオルが不思議そうな表情をする。
「ルミナリアさん、そのバングルは……?」
「ん、その辺りは話すと長くなる。でも、ルミナの事は私が保証する」
「……わかりました。それと、ルミナリアさん。僕の事は気にせず、先程までのように気軽に話していただいて大丈夫ですよ」
「え……と、じゃあ、そうさせて貰うね。よろしく、セオル君。私のこともルミナでいいよ」
「同じく、アルルで」
「はい、アルルさん、ルミナさん。よろしくお願いします」
自己紹介を終えたところで、張り詰めていた空気が緩み、三人が笑う。そうしていると、厨房の奥に消えていたおばさんが、従業員達を引き連れ、列を作ってテーブルにやって来た。
「はいよ、特製オムライス二つと」
「芋のポタージュスープと」
「ピリ辛ソースの焼き鹿肉と」
「ハンバーグと山菜サラダと」
「特製サンドイッチと紅茶になります」
「こちらはカフェオレと特製フルーツジュースになります」
圧巻だった。次々と置かれていく料理にテーブルが完全に埋め尽くされてしまった。おばさんたちは、ごゆっくりどうぞ、とルミナリア達に声をかけると、厨房へと帰って行った。しかし、やはり気になるのだろう。厨房の入り口に隠れるようにしながらアルルメイヤが食べ始めるのを見詰めていた。
「相変わらず見てるだけでお腹一杯だよ……あはは……」
「ア、アルルさん……本当にそれ食べるんですか……?」
「ん、もちろん!」
アルルメイヤのアホ毛が嬉しそうにふりふりと揺れる。
「いただきます!」
ぱくり。もぐもぐもぐ。
「んっ! 美味しい! さっきルミナが食べてるのが美味しそうだったから食べてみたかった」
「そ、そっか……よかったね……」
その日から、アルルメイヤの食事風景を見た者達によって、喫茶店には金髪少女の伝説が語られるようになるのだった。
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「ごちそうさまでした。ふぅ、落ち着いた」
アルルメイヤが、手にしていたスプーンを置くと、満足そうにため息を吐く。ルミナリアがちらりと厨房の入り口を見ると、おばさんと従業員達が虚ろな目をしていたが、直ぐに目をそらし見なかった事にした。
「さ、さて、セオル君。私達に話したいことがあるってことだったけど……なんだったのかな?」
「あ、そうでした! ルミナさん達に会って欲しい人がいるんです」
「誰に会えばいいのかな?」
「それは、僕のお祖父様。この国の現国王にです」
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では、また次回で会いましょう。




