この優しい世界で生きるために
第62話です。どうぞ
翌朝、早朝だと言うのにも関わらず星屑の里の宿の食堂には活気が溢れていた。その多くは冒険者や商人といった日中の時間を少しでも有効に使いたい人達だ。そして、その賑やかな空間の一角にある四角いテーブルにルミナリア達の姿もあった。
「ところで、ここからアムドリアまでってどれくらいかかるの??」
朝食のパンをかじるルミナリアが、正面に座り同じようにパンを食べているグリムへと目を向ける。
「そうだな……少なくとも十日以上はかかるだろうな」
「先はまだまだ長そうだね……」
「ん、黄の国は広いうえに山も多いから仕方がない」
ルミナリアの隣で、幸せそうにパンを食べるアルルメイヤの言う通り、黄の国は他の国々に比べても広大な土地を持っている国なのだ。そして、その土地の多くが鉱山となっている。そのため、険しい道のりが続くこともあり、移動面では苦労を強いられる場面も多い。
「さて、そろそろ出発しましょうか」
「だな、荷物を整えて入口に集合な」
そうこう話しているうちに、食事を終えたルミナリア達は、部屋へと荷物を取りに戻るため、席を立つ。
「お姉ちゃん、アルル、先に戻ってて。ちょっとトイレに……」
「ん」
「わかったわ」
そう言ってルミナリアがアルルメイヤとフィアナから離れ、食堂の隅にあるトイレへと向かう。そんなルミナリアを見ていた、ギラつく目をした男達がいたことに、ルミナリアが気づくことはなかった。
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ルミナリアがトイレへと通じる通路に入る。その通路はそれなりに細く、人が三人も並べば窮屈になるだろう。そして、その通路の先は左右二方向に。別れており、それぞれ男性用と女性用で分けられていた。ルミナリアは一度立ち止まり、女性用の方向に行かなければならない事を複雑な心境で考えていると、ルミナリアの横を大柄な男が通り抜けた。
(おっと、立ち止まってても迷惑になっちゃうな)
ルミナリアがトイレに向かおうと歩き出したそのときだった。ルミナリアを追い越した大柄な男が、トイレに向かわずにくるりと振り向く。その顔には、厭らしい笑みが浮かんでいた。
「な、なんですか?」
「へへへ……」
ルミナリアの問いかけにも答えず、笑うだけの男。ルミナリアがその表情に危機感を覚え一歩後ずさる。しかし、そんなルミナリアの背中に何かがぶつかる。
「えっ……?」
振り向こうとするルミナリア。だが、ルミナリアがそうするよりも早く、ルミナリアの口許に布が押し当てられ、肩口に小さな針を刺されてしまう。
「んっ!?」
(何だ!? 何をするんだ!?)
理解できない状況にパニックになるルミナリア。その心の中では疑問を投げ掛ける言葉が幾度も響く。それでもなんとか逃げ出そうとするが、刺された針に何らかの薬でも使われているのか、ルミナリアの身体から少しずつ力が抜けていく。そして、ルミナリアの身体から、もがく力が無くなったとき、口許の布が外された。
「何……で……力が……入、ない……」
ルミナリアは、上手く話すことすら出来なくなっていることに恐怖を覚える。
「へへ……痺れ薬ってやつだよ。感覚が無くなるわけじゃねえがな? さあ、俺たちと楽しい事をしようぜ……?」
ルミナリアを後ろから拘束している男が耳元で囁き、ルミナリアの太股や腰に手を這わせる。そのとき、ルミナリアは自分が今何をされそうになっているかに思い至り、青ざめる。
「や、やめ……あ……」
ルミナリアの身体に力が入らないことも一因だろう。ルミナリアの足元に温かい滴が溢れ落ちる。それは止まることなく、水音を立てながらその場に水溜まりを作ってしまう。
「こいつ漏らしやがった! さっさと行くぞ!」
ルミナリアの心中に、恐怖や羞恥が広がり、涙が浮かぶしかし、男達はそんなことは意に介さない。ルミナリアの正面に立ち塞がっていた男がルミナリアに歩みより、小柄なルミナリアを肩に抱えあげ、男性用のトイレへと歩き始める。
「さあ、いこうかお嬢ちゃん? へへへ……」
(に、逃げなきゃ……ま、魔法なら……)
ルミナリアが無詠唱で魔法を発動させる、創り出したのは小さな光球。その光球を自分を抱えあげる男と、後ろの男へと同時に放ち。
「ぐあっ!?」
「うおっ!?」
男達の目の前で炸裂させる、男は、一瞬の閃光に驚かされ転倒する。それと同時に、抱えられていたルミナリアもまた床へと落とされてしまう。
「う……ぐぅ……」
受け身を取ることも出来ず、無防備なまま床に叩きつけられてしまったルミナリアが呻く。
(逃げなきゃ……!)
ルミナリアがなんとか身体を動かそうとするが、無駄に終わってしまう。身体に上手く力が入らないのだ。
(そんな……お姉ちゃん、アルル、グリム、誰か助けて……!)
そうしているうちに、視力を取り戻した男達は、ルミナリアを睨み付ける。
「この、ガキィ……」
「無詠唱とはな、油断したぜ……」
男達が再びルミナリアを抱えあげようとしたとき、通路に紅と白の閃光が走った。男の一人は目の前で起きた紅の爆発に焼かれながら通路の奥に叩きつけられ崩れ落ちる。白い閃光に貫かれた男は、全身を痙攣させ、白い煙をあげながら床へと倒れていった。
「ルミナ!」
「ルミナちゃん! 大丈夫!?」
「おいおい、こりゃあ一体……」
「あぁ……う……」
その閃光を放ったのはアルルメイヤとフィアナだった。ルミナリアが心の中で助けを求めた際、無意識で発動させた、パーソナルバングルの連結により三人へと伝わったのだった。それからのフィアナとアルルメイヤの行動は早かった。すぐにルミナリアのいる場所をバングルで確認し、ルミナリアの元へと駆けつけたのだ。
「間に合ってよかったわ」
「念話が聞こえてきた瞬間はさすがに驚いたぜ……」
「ん、ルミナ、立てる?」
アルルメイヤが倒れているルミナリアを助け起こそうと手を差し出す。しかし、身体を動かすことも話すこともできないルミナリアは、その手をとることができないため、念話で話すことにした
「ルミナ?」
(さっきそいつらに痺れ薬を使われて……身体が動かなくて……喋ることも出来なくって……)
「ちっ、狩猟用の麻痺毒か……こんな強力なやつを……この下衆どもが……」
ルミナリアの状態を把握したグリムがルミナリアを抱き上げ、倒れている男達へ怒りの眼差しを向ける。そのとき、騒ぎに気付いた人達が通路の入り口にやってきた。
「なんだなんだ?」
「うわ、こりゃあ一体?」
「あいつら、ついにやらかしたか……」
どうやら、ルミナリアに手を出した男達は、以前から素行が悪い冒険者で、いつか何かをやらかすのでは、と言われていた二人だった。
「お客様、一体何が……」
そこに、少し遅れて宿の主人が現れた。
「私が説明するから、グリム達はルミナちゃんを部屋に運んであげて」
「ああ、わかった」
ルミナリアを抱えたグリムとアルルメイヤが、人混みを抜け、ルミナリア達の部屋へと向かう。その場に残ったフィアナが、宿の主人に事情を説明するとすぐに衛兵が呼ばれることになるのだった。
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「ルミナ、すぐに解毒する。少しだけ我慢してて」
(アルル、ありがとう)
グリムに抱えられたルミナリアは、アルルメイヤの指示で部屋に備え付けられた浴室へと運ばれていた。流石に汚れたままはかわいそうだとグリムもすぐに納得し、その場をアルルに任せて部屋で待機することにしたのだ。
「ん、清浄なる光よここに――キュア」
アルルメイヤがルミナリアに、解毒の魔法を使用する。すると、優しい光が、浴室の壁にもたれ掛かる形で座っているルミナリアを包み込んだ。それから徐々にルミナリアの身体が痺れ消えていき、三十秒ほどする頃には、ルミナリアも話すことができるようになっていた。
「アルル、もう大丈夫だよ、ありがとう」
ゆっくりと身体をルミナリアをアルルメイヤが抱き締める。
「ん、よかった」
ルミナリアの心に安堵が広がる。その瞬間、今まで張りつめていた緊張が緩み、ルミナリアの目元に涙が浮かぶ。
「アルル……うぅっ……うぁぁぁ…… 」
アルルメイヤは、ルミナリアが泣き止むまで、その背中をそっと撫で続けたのだった。ルミナリアがこの優しい世界で生きるために言わなければならないことがあると、心に決めながら。
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では、また次回で会いましょう。




