闇色の結晶
第54話です。どうぞ。
黒いハニーベアを倒したルミナリア達は、洞窟の奥へと進んでいた。
「ん、なんだかすごく嫌な感じがする……」
「そうね、ルミナちゃん、もしかして?」
目的地へと近づいたからか、ルミナリアだけでなくその場にいた全員が不気味な気配を感じることができていた。
「うん、もうすぐそこまで来てる。たぶんここを曲がったくらいに……」
ルミナリア達が洞窟の突き当たりを曲がった先にあったのは、禍々しさを放つ2メートル程の闇色の結晶だった。
「おいおい、なんだよこれ!?」
「こんなの聞いたことなんてないわよ」
全員が見上げるその結晶は、まるで、その場にあるだけで不吉な気配と不安を振り撒きながらルミナリア達を見下ろしているかのようだった。
「ん、あの下、周りと違う?」
アルルメイヤが結晶の根本の地面を指差す。その部分は明らかに今までの洞窟の地面とは違う材質のものだった。
「なんだ? 木でも埋まってるのか? 結晶があの木に刺さってるのか?」
「グリム、ここ洞窟よ? 木というよりは根っこか何かじゃないかしら?」
「確かにな……まだ何かの根っことか言った方が現実味がありそうだが……」
「このサイズの根となると、途方もない大きさの大木になるぞ?」
「ん、外にはそんなのなかった」
洞窟の地面を横断するように埋まる木のようなものがなんなのか。はっきりとした答えは出なかったが、一つだけ、全員に共通していることがあった。
「なんにせよ、これはこのままにしちゃいけないもの、だよね」
ルミナリアの言葉に全員が頷く。
「ん、これはダメっていうのはわかる」
「そうだな、仮にこれが先程の黒いハニーベアの原因だとすると、これを残しておけばまた同じようなことが起きるかも知れん」
「あれが増えるのは勘弁だぜ……」
「とりあえずは破壊、ということでいいのかしら?」
バルドが斧を構えながら一歩前へ出る。
「俺がやってみよう」
「バルド、気を付けろよ」
「ああ、うおおおお!」
バルドが勢いをつけ、結晶へと斧を振り下ろす。しかし、斧は結晶を破壊するどころか、結晶の周囲に薄く広がる闇結界のようなものにあっさりと弾かれてしまった。
「ん、なら魔法で!」
アルルメイヤも雷撃を放つが、やはり結晶を破壊するには至らなかった。
「と、なると私の魔法でも厳しいかしら。それ!」
フィアナそう言いながらはなった火球も、やはり同じ結果に終わってしまった。
「じゃあこれなら!」
ルミナリアが一本の剣を創り出し、結晶へと飛翔させる。すると、ガラスが割れるような音と共に剣の先が僅かに結晶へと突き刺ささり、白い煙をあげていた。
「やっぱりルミナの魔法なら通るみたいだな」
「このままいけば……あっ!」
ルミナリアが追撃を加えようとした途端、結晶から剣が弾き出され、消されてしまった。
「ん、傷が塞がっていく……」
「まるで、あのときのやつみたいね……」
その光景で思い出されるのは、ホリティアの墓地で戦った怪物のことだった。
「それなら……もっと威力を出すしかないよね!」
ルミナリアが魔法の威力を引き上げるため、煌めく光の翼を展開する。
「ルミナちゃん! さっきもかなり魔力を使ってたでしょ! 無理はし過ぎちゃダメよ!」
「うん! ──きて!」
ルミナリアがフィアナへと微笑みを返し、再び一本の剣を創り出す。
(数より質で勝負だ!)
ルミナリアが眼前に浮かぶ剣へと魔力を凝縮させていく。それにつれて、剣は神々しい煌めきを纏っていく。それはまさに闇色の結晶と対をなす、神秘的な美しい光景のようでもあった。
「綺麗……」
「ん、すごい……」
全員が思わず見とれてしまう中、ルミナリアは、自分の魔力の多くをその剣へと注ぎ終わると、剣の切っ先を静かに結晶へと向けた。
「これなら……いっけぇぇぇぇ!!」
──キィィィィン!!
超高速で飛翔した剣は、先程とは違い深々と結晶へと突き刺さり、強烈な輝きを放った。そして、闇色の結晶は、その輝きに融かされていくかのように跡形も残らず消滅していった。
「やったのか?」
グリムが呟いたその直後、結晶の下にあった木の根のようなものに変化があった。淡く優しい光を放ちながらルミナリア達の前からゆっくりと存在が消えていってしまったのだ。あとに残されたのは、なんの変哲もない洞窟の地面のみだった。
「はぁ……はぁ……余裕は残したつもりだったけど……流石にこれは疲れた……かな……」
光の翼が宙へと霧散すると同時に、ルミナリアの華奢な身体がふらつく。しかし、その身体は柔らかな感触によって地面に倒れる前に背中から抱き止められた。
「もう、無理はダメって言ったでしょ?」
「お姉ちゃん……ごめんなさい……あはは」
苦笑いをするルミナリアの正面からアルルメイヤがそっと抱き付いてくる。
「ルミナ、心配させないで?」
「うん、アルルもごめんね? ちょっと……休む……だけ……」
(またやり過ぎちゃったな……心配かけないようにしないとな……)
アルルメイヤとフィアナに挟まれながら、ルミナリアの意識が微睡んでいく。ルミナリアが完全に意識を失う直前、ルミナリアの耳元で囁くような。あるいは、意識に直接語りかけてくるような不思議な感覚が走った。
「あれは私達を傷付け、生き物の心と存在を歪ませるもの……助けてくれてありがとう。私達はあなたを待っているわ──」
ルミナリアが突然聞こえてきたその声に驚かされる。なぜなら、その声が自分とよく似た、声をしていたのだから。
(君は……いったい……)
新たな疑問を抱きながら、ルミナリアは眠りについた。
あの結晶はなんなのか、ルミナリアに聞こえてきた声の正体は誰なのか。ルミナリアの疑問は増えていくばかり……
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では、また次回で会いましょう。




