旅路と狩りと宿場町
旅に出たルミナリア一行は野営をするようです。
第47話です。
ルミナリア達がホリティアを発って二日目の夜。一行は日が落ちる前に野営の準備をしているところだった。
「よっしゃ、こんなもんだろ。フィアナ、頼む」
「それっ」
――ボゥッ!
グリムが石と薪を使って組み上げたかまどにフィアナが魔法で火を灯す。
「これでかまどは良し、だな」
「そうね、あとはあの子達に期待するとしましょう」
「まぁあいつらなら大丈夫だろ」
グリムとフィアナは今この場にいない二人の事を考えながらも野営の準備へと戻っていった。
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「ルミナ、あの草むらの向こう」
「うん、ちゃんと見えてる」
一方その頃、ルミナリアとアルルメイヤは野営地から歩いて数分程の林の中で息を潜め、一匹の鹿を見詰めていた。その距離は十五メートル程。
「アルル、これなら一人だけでいけそう……かな」
「ん、じゃあ任せる」
小声でのやり取りのあと、ルミナリアがルミナスブランドを発動すると、何もない空中から六本の矢が周囲に現れる。
「んっ!」
ルミナリアが静かに杖を振り下ろすと同時に勢いよく放たれる六本の矢。その矢は静かに空を裂きながら進み、見事に鹿へと命中する。
「ん、お見事」
アルルメイヤが逃げる間もなく倒れた鹿を見てパチパチと拍手をする。
「ありがと、運よく気づかれる前に見つけられたからね。それにしても想定外の獲物になっちゃったね」
そう、ルミナリア達の本来の獲物は角兎の予定だった。しかし、林を進み始めて最初に見つけたのがこの鹿だった。
「ん、たぶん問題ない。たぶん。早く戻ろう」
「そうだね、これなら問題ないだろうしお姉ちゃん達の所に戻ろうか」
ルミナリアがルミナスブランドを再び発動させ、金属製の板のような物を倒れている鹿の身体の下に滑り込ませた。
「よっ!」
ルミナリアがその板へとぐっと魔力を込めると、ゆっくりと鹿を持ち上げながら板が浮遊する。
「おー……さすがルミナ。便利」
「少し疲れるけどね……さ、行こっか」
旅に出る数日前にアルルメイヤの提案で一度試したときに判明していたのだが、ルミナスブランドによって作り出した武器や道具は、飛翔させることはできるのだが、物を載せた状態で操作するといつもより負担が増すのだった。
「ところでルミナ、装飾が付いてるその板ってなに?」
アルルメイヤが、ただの板にしては細かな装飾が見受けられる板を指差す。
「あぁ、一応盾だよ。確かタワーシールドとか言う大型の盾だったかな?」
「た……盾……」
ルミナリアの発言を聞いたアルルメイヤは、本来とは全く違う使い方をされているその盾から物悲しい何かを感じずにはいられなかった。
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「ただいまー」
「ん、ただいま」
ルミナリア達は、日が完全に落ちる前に林を抜け、野営地へと帰ってきた。
「おう、帰ったな……って随分と予想外なやつを狩ってきたな!?」
「お帰りなさい。あら、ホント!」
ルミナリアの少し後ろで浮いている板の上に載る鹿を見たグリムとフィアナが予想外の事に驚く。
「ん、林に入ったら偶然見つけた」
「本来ならこいつはもっと山の方にいるようなやつなんだがなぁ……」
「グリム、予定とは違っちゃったけど大丈夫だったかな?」
「ああ、問題ねーだろ。そっちのほうに下ろしてくれ」
「わかった」
ルミナリアが盾をグリムの指定した場所へとゆっくりと下ろすと、グリムが早速鹿の処理を始めた。
「少しばかり時間がかかるからその辺座って待ってろ」
はーい、と返事をした二人が地面に敷かれた布の上に腰をおろす。
「やっぱり物を載せるのは疲れるね……」
「ルミナ、魔力は大丈夫?」
ルミナリアはアルルメイヤに言われ意識を魔力へと集中する。
「んー……まだ余裕はある、かな」
「ん、ならよかった」
「二人ともお疲れ様。はい、水」
ルミナリアたちがフィアナから水を受け取り礼を言う。
「何の話をしてたのかしら?」
「アルルが魔力は大丈夫かって心配してくれてたみたい」
「ん、あの事があるから……」
アルルメイヤの言葉で思い返されるのは豊穣祭二日目の夜に起きた戦いの事。ルミナリアはあの戦いで魔力を使い果たし倒れてしまったのだ。
「今のところそれほど魔力を使ってはないよ。そういえばあのときの羽ってなんだったんだろうね」
「あれからあの光の翼は一度も出せなかったのよね?」
そう、ルミナリアの体調が戻ったあと、何度かあの翼をもう一度出そうとしてはみたのだが一度として成功することはなかった。
「ルミナ、何かわからない?」
「うーん……あ、思い出した。あのときまた声が聞こえたんだよね」
「声? ルミナちゃんが女神像に触れたときに聞いたって言うあの声?」
「いや、あれはこの世界に来たときの声だったと思う。負けないでって。ただそれだけ」
「ん、結局よくわからない……」
「だね……」
その後も三人で話を続けたが、結局グリムが食事の準備を終えても答えが出ることはなかった。なお、予想以上に食事の量が多くなってしまった、と言うグリムだったが、お腹を空かせたアルルメイヤがぺろりと食べてしまったことにはさすがに唖然とさせられるのだった。
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翌日の昼過ぎ。ルミナリア達は街道沿いにある宿場町に辿り着いていた。
「よし、予定通り町に着けたな」
「今日は野宿じゃなくてちゃんとしたベッドで眠れそうね」
「あーそれは嬉しいなぁ」
それはルミナリアにとっても嬉しいことだった。
「やっぱり野宿よりは柔らかいベッドがいいよね」
「ん、お風呂にも入りたい」
「なんにせよ、まずは馬を預けるぞ。ほら、あそこだ」
グリムが町の門を潜り、入り口近くの厩舎を指差す。
「ん? なんか人が集まってない?」
グリムの指差す方を見たルミナリアは、厩舎のすぐ側に何人かの人が集まっているのを見つけた。
「本当ね、なにかしら?」
厩舎へと近づいていくにつれて、集まった人々の方から声が聞こえ始める。
「怪我人だ!」
「早く運べ!」
「誰か治癒術を使えるやつはいないか!?」
聞こえてきた声は怪我人を助けて欲しいと求める声だった。
「アルル!」
「ん!」
ルミナリアとアルルメイヤは、馬から飛び降りると人々の方へと走り出した。
「怪我してる人は何処ですか!? 治癒術なら使えます!」
「何!? おい! 道を開けろ!」
ルミナリアの声を聞いた人々が次々と道を開け、人の輪の中心が見えてくる。そこには。
「嬢ちゃん達! こいつを……息子を助けてくれ!」
大きな斧を背負った大男がぐったりとした血塗れの剣士を抱えていた。
「はい!」
「ん! 傷を見せて」
「ああ! そこの机借りるぞ!」
大男が抱えていた剣士を近くにあった長机へとうつ伏せで下ろす。
「これは……!?」
その剣士の背中には肩から背中まで、軽装の鎧ごと深々と切り裂かれている爪痕があった。
「アルル!」
「ん!」
ルミナリアとアルルメイヤが治癒魔法を始めると同時に、グリムとフィアナもその場にやってきた。
「こいつは……!?」
「酷い……」
それはグリム達から見ても明らかな重症だった。それも致命傷レベルの。
「傷が……塞がらない……!」
ルミナリア達が懸命に治癒魔法をかけ続けるも、その傷は一向に塞がる気配がない。
「二人ともありがとう……もういい……もう……」
その様子を見ていた大男が、ついに涙を流しながらルミナリアとアルルメイヤへと声をかける。
(この人のためにも……諦めたくなんて……ない!)
――カチリ
ルミナリアの中で、いつか聞いた鍵の外れるような音が聞こえた。
「はああああああ!!」
「ルミナ!? これは……!」
ルミナリアから膨大な魔力が迸り、先程まで塞がる気配のなかった剣士の傷がみるみるうちに塞がっていく。
「なんだ!?」
「嘘だろ……!?」
しかし、周囲の人々が驚いているのはその事だけではなかった。
「ルミナちゃん……!」
「おいおい……なんだよあの翼は……」
「グリムは見たことなかったわよね……」
グリムとフィアナも呆然とする他なかった。そう、ルミナリアの背に再び光の翼が現れていたのだから。
ルミナリアの翼、再び。
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では、また次回で会いましょう。




