ホリティア狂想曲
ルミナちゃんに魔の手が迫る!
ノリと勢いの茶番回となっております。
第42話です。どうぞ。
コツ……コツ……コツ……
時は夕暮れ。豊穣祭で盛り上がる街とは裏腹に、薄暗いホリティア城の書庫はしんと静まり返っていた。そんな場所にゆっくりと足音が響く。
コツ……コツ……コツ……
その足音の主は口許を歪め、怪しい笑い声を漏らしながらこの書庫に逃げ込んだ憐れな子羊を求めてキョロキョロと周囲を窺っていた。
「はっ……はっ……やだ……絶対やだ……!」
そんな捕食者から逃れるため、息を潜める少女がいた。美しい銀髪を持ち、空色のドレスを見に纏った少女は捕まったら何をされるかわからないという恐怖のためか、カタカタと小さく震える身体を抱きながら逃げる機会を窺っていた。
コツ……コツ……コツ……
「……っ!」
少女の近くに足音と笑い声が近づいてくる。少女の鼓動が早鐘を打つ。少女はその音が捕食者に聞こえてしまわないだろうか、という不安を押し殺しその恐怖に耐えていた。
コツ……コツ……コツ……
やがて足音が少女のすぐ側を通りすぎる。少女が安堵の息を吐こうとしたその瞬間だった。
コツ……
急に足音が止まった。
「……!」
ありえない。少女は心の中でそう思わずにはいられなかった。そう、何故なら少女の姿は外からは見えないようになっていたからだ。
「ふふふふふふ……この辺ねー? うふふふふふ」
(なんでわかるのー!?!?)
少女が身を隠しているのは、書庫に並ぶ本棚の一角。本棚と本棚の間にあるスペース。本来なら高い位置にある本を取るための踏み台がおいてある場所だった。少女はその踏み台に腰掛けていた。普通ならばこれを隠れる、とは言わないだろう。だが、少女は魔法を使って隠れていたのだ。
(外からは本棚に見えるはずだよね……!?)
「ふふふ……なんとなく匂いがする気がするわ……ふふ」
(変態だーー!!!)
そう、その少女が使ったのは魔法で物を創り出すという少女専用の魔法。外からは本棚にしか見えないが、実際は隣の本棚の見た目だけが再現されている、小さな覗き穴のある薄い板が置かれているだけなのだ。少女はその板と壁の間のスペースに身を隠していた。
「うふふふふふ……どうして逃げるのかしらー? うふふふふふ」
「こ……このままじゃ見つかる……なら!」
このままでは確実に見つかる。そう考えた少女は勝負に出ることにした。
コン……
少女が、自分が隠れている板を内側から軽くノックする。
「あら? そこかしら?」
捕食者が少女の隠れている方を向く。その瞬間。
「……っ!」
少女が覗き穴から小さな光の球を打ち出し、すぐさま炸裂させた。すると、薄暗い部屋に一瞬の閃光が走る。
「きゃっ!?」
「今だ!」
その閃光に目を眩まされた捕食者が怯むと同時に、隠れていた板を消して少女がその場から走り去る。
「お姉ちゃん! ごめんなさいー!」
「もう! ルミナちゃん! 待ちなさぁぁぁぁい!!」
その少女、ルミナリアは捕食者である姉のフィアナの魔の手から全力で逃げ続けていたのだった。
「あーもう! 走りにくい!」
書庫を飛び出したルミナリアは、履き慣れない可愛らしい靴と、動きづらい空色のドレスに辟易しながら走り続けていた。
「やっぱりこんな服着たくなかったあああああ!!」
ルミナリアの悲しい叫びがホリティア城の広い廊下に響いく。いったいどうしてこんなことになってしまったのか。時はルミナリア達が昼食を終えて少し後まで遡る。
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昼食を終えた後、ルミナリアとアルルメイヤは、アルルメイヤの部屋まで戻ってきていた。
「ん、お腹いっぱい」
「あはは……相変わらずよく食べるねぇ」
「美味しいから仕方ない」
「確かに美味しかったけどね?」
ルミナリアが驚くのも無理はないだろう。アルルメイヤの前に出てくる料理が、次々とアルルメイヤの口の中へと消えていくのだから。皿だけがどんどん積み上げられて行く様子はまるで魔法のようだ、と思わされてしまうほどだった。
「そういうルミナも今日はいつもより食べてたと思う」
「な、なんだかお腹すいちゃって……魔力を使いすぎた影響かな?」
魔力欠乏から目覚めたルミナリアは、本調子とはいえない状態だった。身体の気だるさが未だにとれないのだ。
「んー……ふぁ……」
ルミナリアが、アルルメイヤのベッドに腰掛け、欠伸をする。
「なんだか眠くなってきた……」
「ルミナ、少し休んだら?」
「そうしようかなぁ……」
ルミナリアがベッドに上がり、目を閉じる。眠気の波にルミナリアの意識がゆらゆらと浸かっていく。
「ん、ルミナ、ちょっと気になった事がある」
「んー? アルル、どうしたの?」
眠たげなルミナリアが半目でアルルメイヤを見る。
「どうしても違和感があったから」
「何に?」
「ん、お昼ごはんの後、ルミナを見たフィアナが静かだったから」
「そういえば今目立つドレス着てたんだったね……」
そう、普段ならば、ルミナリアを愛して止まないフィアナの普段ならば、シリアスなシーンが終わったと同時に、ドレス姿のルミナリアを可愛がり始めてもおかしくはなかったはずだ。ルミナリアは、そう考えると同時に、嫌な予感がし始めていた。
「ねぇアルル」
「ん、何?」
「なんだか嫌な予感がして目が覚めてきたんだけど」
コンコン
ルミナリアがベッドから身体を起こすと同時に、部屋のドアがノックされる。
「ん、誰?」
アルルメイヤがドアの前まで行き、外にいる人物へと声をかける。外から聞こえてきたのは。
「うふふふふふふ」
何とも楽しそうな姉の笑い声だった。
「アルル!! 鍵閉めてぇ!!」
ルミナリア、既に涙目であった。
「わ、わかった!」
アルルメイヤが、ルミナリアの必死な様子にドアの鍵を閉める。
「あらあらー? アルルちゃん、ルミナちゃん、ここを開けて頂戴? うふふふふふ、そうだ、こんなこともあろうかとユリシャさんから鍵を預かってたんだわー!」
アルルメイヤがルミナリアを見つめる。ルミナリアがブンブンと首を振る。ドアの外には鍵をもったフィアナ。ドアが開かれたが最後。ルミナリアは憐れな子羊となり、フィアナの気が済むまで囚われてしまうこととなるだろう。
「やだ……もうやだ……」
カチリ、とドアの鍵が開く。そこには満面の笑みを浮かべるフィアナ。
「ルーミーナーちゃーん! うふふふふふふ、お姉ちゃん嬉しいわぁ……わざわざそんなかわいい姿になってくれているなんてー! うふふふふふふふふ」
一歩、また一歩と迫る恐怖。
「こ……今回こそ逃げるー!!!」
ルミナリアは、手元にあったクッションをフィアナへと投げつける。
「きゃっ!? ルミナちゃん!?」
突然のことに驚くフィアナ。しかし、窮鼠は猫を噛むもの。必死のルミナリアの攻勢はそれだけではなかった。
「来て! やぁぁぁ!!」
ルミナリアが空中から何かを引き抜き、フィアナの頭へと振り下ろす。
――パァンッ!!
同時に響き渡る快音。そう、ルミナリアは神々しいハリセンを創り出し、フィアナを攻撃したのだ。
「ふにゅう……」
目をぐるぐるとさせたフィアナがその場に倒れる。
「はぁ……はぁ……やった……?」
肩で息をするルミナリアが倒れているフィアナの様子を窺う。
「ルミナ……」
一部始終を見ていたアルルメイヤが微妙に呆れ顔になってルミナリアを見つめる。
「だ、だって……怖かっ「うふふふふ……」ひいっ!?」
ルミナリアがアルルメイヤへと弁解しようとした瞬間。フィアナが復活した。ゆっくりと起き上がっていくその姿を見た瞬間。
「アルル! 後はお願い!!」
ルミナリアがアルルメイヤの部屋から走り去っていった。
「うふふふふ……ルミナちゃーん!」
ゆっくりと起き上がったフィアナもまた、ルミナリアを追いかけて部屋から出ていってしまう。
「ん、お願いされても……困る……」
取り残されたアルルメイヤは、ため息を吐く他なかった。その後、ルミナリアとフィアナは、ホリティア城を駆け回り、書庫へと向かうことになるのだが、その途中、不思議と誰からも咎められることはなかった。それもそのはず。ルミナリアの後を追うフィアナの笑顔になにか恐ろしいものを感じ、関わるのをやめようと思わされたのだから。
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ルミナリアは、書庫から逃げ出した後、必死で逃げ続けた。しかし、その逃走劇もやがて終わりを迎えることとなった。
「どこか……逃げる場所は……!?」
ルミナリアが廊下を走りながら隠れられそうな場所を探していると、廊下の途中にある部屋から顔を出したメイドの一人がルミナリアへと手招きをしているのを見つけた。
「そうだ、少し隠れさせてもらおう……!」
ルミナリアは、ナイスアイデアとばかりにその部屋へと向かう。これが致命的な間違いだった。ルミナリアは気付くべきであったのだ。そのメイドが先程ルミナリアを着替えさせたメイドの一人だったことに。そして、ルミナリアは運もなかった。ルミナリアとアルルメイヤが部屋へと帰っている間、フィアナはドレス用意したメイド達と意気投合しており、既に同盟関係となっていたのだ。
「お願いします! 少し匿ってくだ……さ……い……ひぅ……」
部屋の中に入ったルミナリアは見た。自分を追いかけてきているフィアナと同じような微笑みを浮かべるメイド達を。
「あらあら」
「まぁまぁ」
「うふふふふ」
「や……やだ……」
実に嬉しそうにルミナリアを包囲するメイド達。ルミナリアが後ろのドアへと後ずさる。そして、ルミナリアが逃げようとドアへと走り出した瞬間。目の前のドアが開いた。
ぽにゅん
駆け出そうとしたルミナリアの顔に柔らかい膨らみがぶつかる。
「わぷっ……!? あっ……」
ルミナリアが何にぶつかったか確かめようと顔をあげる。そこにあったのは。
「うふふふふふふ…つ・か・ま・え・た♪」
「ひっ……!」
こうして、ホリティア城にて行われた憐れな少女の逃走劇は幕を下ろしたのだった。
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アルルメイヤは、自室のベランダから外を夜空を見上げていた。
「ルミナ、そろそろ帰ってくるかな」
コンコン
アルルメイヤがぽつりと呟いた直後、アルルメイヤの部屋のドアがノックされた。
「ん、ルミナ?」
アルルメイヤがドアの外へと声をかける。
「うん、やっと……解放されたよ……」
アルルメイヤがドアの鍵を開けると、逃走劇の間に乱れた空色のドレスを直され、さらに、薄く化粧をされ、髪もツヤツヤな随分と可愛らしくなったルミナリアが部屋の中へと入ってきた。
「ん、ルミナ、随分可愛くなった」
「うぅぅ……ひどい目に遭ったよ……」
ルミナリアがしょんぼりしている様子を見ながらアルルメイヤがクスクスと笑う。
「もう! アルル! ホントに大変だったんだからね!? あの後――」
ルミナリアが先程の逃走劇の話をしている最中、街の方から大きな音が聞こえてきた。
ヒューーン……バァン!
それは、ルミナリアが前の世界でも聞き覚えのある音。花火の音だった。最初の音に続いてどんどんと空に炎の花が咲いていく。街の空を彩るそれはどこか幻想的で、同時に懐かしさを感じるような美しさだった。
「わぁ……すごい花火……綺麗だね」
「ん……綺麗、ねぇルミナ」
「なに?」
ルミナリアの呟きを聞き、同じく空を見上げながらアルルメイヤがルミナリアへと話しかける。
「私達はこれから旅に出ることになる。その前にしておきたいことがある」
「何をしたいの?」
「ん、簡単なこと。もっとお互いのことを知ること」
「確かにそれは大事だと思うけど、なんだか突然だね?」
「ん、どうしてもしておかないとって思ったから」
「わかった、じゃあどうする?」
「お互いに質問をして答えていく、それでどう?」
「うん、それでいいよ」
(記憶喪失ってことになってることには気を付けないと……)
ルミナリアが、自分が記憶喪失であることを踏まえて質問に答えなければ、と心に決めた直後のことだった。
「じゃあ、質問。ルミナ――」
アルルメイヤからそんな質問がくるなど、予想もしていなかったルミナリアは、その質問を聞いた瞬間、ピタリと固まってしまった。
「ユウって誰?」
最後に飛び出したアルルメイヤの質問。
ルミナリアはどうするのか?
感想やご意見、誤字脱字の報告等ございましたらよろしくお願いします。
では、また次回で会いましょう。




