どうしてそこにいますか!?
さてさて、この老紳士は一体……!?
第35話です。どうぞ。
「て……てめぇ……何しやがる!」
手を払われた酔っぱらいが、声を荒げ老紳士を睨み付ける。
「何しやがる、とな? 君がこのお嬢さんに失礼を働いていたようだから止めただけなのだが?」
老紳士は、三人の男達に睨まれながらも余裕の表情を崩さない。漂う一触即発の空気。
「このクソジジイが!」
そして、ついに手を払われた男が拳を振りかぶる。
「ふざけんじゃないよ!!! とっとと店から出ていきな!!!」
「んがっ!?」
しかし、その拳が振るわれることはなかった。男の顔面目掛けて大きなフライパンが飛来したからだ。ゆっくりと男が床に倒れると、店にいた全員がフライパンを投げた人物、サリアを見た。
「うちの店の店員に手を出した上に、店の中で暴れるとはいい度胸じゃないか! こちとら伊達に長年酔った冒険者達の相手してる訳じゃないからね! 覚悟は出来てるんだろうね!?」
「「「ヒィッ!?」」」
鬼の形相のサリアに睨まれ、酔いと怒りで顔を赤らめていた男達は、あまりの迫力に真っ青になりながらその場に座り込む。サリアは、ずんずんと男達の前まで歩いて行く。男達は後ずさっていき、気づけば入り口の扉に背をつけていた。
「さぁ選びな! とっととお金を払って出ていくか! 痛い目見るか! さぁさぁ!」
「お、俺達が悪かった! だから許してくれぇぇぇ!!」
男達は、財布からお金をとりだすと、それを置いて一目散に店の外へと走っていった。
「もうやるんじゃないよー! まったく……お客様、ご迷惑をおかけしました」
サリアが入り口から顔を出し男達へと叫ぶと、店内の客達にペコリと一礼した。
「はっはっは! これはお見事!」
先程まで男達に睨まれていた老紳士がパチパチと拍手を始めると、波が伝わるように客達が拍手を始めた。
「おやおや、よしておくれよ! さて、まだまだ料理はあるからね! ゆっくりしていっておくれ!」
サリアは嬉しそうに笑いながらその場を離れ、ルミナリアの元へと歩いてきた。
「ルミナちゃん大丈夫だったかい?」
「はい、この方が助けてくださったので……」
「いやいや、自分は出来ることをやったまでですよ」
「おかげで助かりました。ありがとうございます」
「私からも礼を言わせとくれ。ありがとう。さて、厨房に呼ばれてるから私は戻るかね」
ルミナリアとサリアが老紳士にお礼を言い、サリアが厨房に戻ると、フィアナとアルルメイヤが入れ替わりでその場にやって来た。
「ルミナちゃん、大丈夫? 」
「うん、大丈夫だよ」
「ん、よかった。……じー」
アルルメイヤは、ルミナリアから老紳士へと視線を移すと、その顔をじっと見つめた。
「な、なんですかな、お嬢さん」
「……じじー」
老紳士はアルルメイヤにじっと見詰められ、慌てているようだった。
「アルルちゃん? どうかしたの?」
「ん、この人知ってる人だから」
「そ、そうでしたかな? いやはや初対面かと思われますが?」
アルルメイヤの言葉に動揺が隠せない様子の老紳士。
「そんな髭つけて、どうしたの。おとーさま?」
ピシリ、と老紳士、フィアナ、ルミナリアの動きが止まる。
「……ねぇアルル? ホントに……?」
「ん、近くで見なかったら気づかなかったかも。でも間違いない」
その言葉に老紳士がだくだくと汗を流し始める。
「アルルちゃんのお父さんってことは……つまり、この方は……そういうこと? あっまさか昨日のあれで……」
「ん、何か心当たりあるの?」
フィアナには思い当たる節があった。
「実はね、昨日の夜、アルルちゃんのお母様から近況を知りたいって手紙が来たの。それで、今日ここのお手伝いをすることを手紙に書いてたんだけど……」
三人の視線が老紳士に向かう。
「「「じー……」」」
「いや、その……」
「ん、髭引っ張ってみる?」
「ご、ごめんなさいでした!」
アルルメイヤのとどめの一言で、女の子達に平謝りのアストン王。側近達が見たら卒倒の光景だった。
「……気になって、つい……?」
「ん、つい、じゃない」
ホリティアの国王、アストン・ブラン・ホリティア。ホリティアに住む人なら誰もがその存在を知る人物。そんな人物も一人の父親。娘の事が気になって仕方がなかったのだ。
「あの……誰も止めなかったんですか?」
フィアナがもっともな事をアストン王に質問する。
「ん、おとーさまは思いつきで人を振り回す悪い癖がある。そういうときはおかーさまが止めるはずだけど……はっ!」
何かに気づいた様子のアルルメイヤが、アストン王が座っていたテーブルに視線を向ける。
「………………」
そこにはプルプル震える手で扇子を持ち、顔を隠した女性がいた。
((あ、怪しいー!!!))
心の中で叫ぶルミナリアとフィアナ。
「料理あがったよー! あ、アルルちゃん! そこののテーブルのお客様の料理だよ! 頼めるかい?」
「ん、任せて。丁度そこにいこうと思ってたところ」
タイミングを計ったかのようにサリアからの声がかかる。アルルメイヤが厨房に向かい、料理を手に女性の元へと向かう。
「ん、お待たせいたしました」
「あ……ありがとう……」
「じー……」
「…………」
「ん、なんだかおかーさまの私室の秘密の引き出しの中にあるポエムの話がしたくなってきた」
「アルルちゃんそれだけはやめてぇ!!」
アルルメイヤ、母親の弱みにつけこむという非道の作戦に出る。アルルメイヤの母親、ユリシャも、これにはさすがに屈するしかなかった。
(へー、アルルはお母さん似なんだね。よく似てるなぁ)
一方ルミナリアは、この国の重要人物がこんなところにいるという現実から目をそらし、呑気なことを考えていた。
「それだけは誰にも見られたくないの……!」
「ん、二人とも心配なんていらないのに……」
アルルメイヤの一言にガックリと肩を落とすホリティアの国王夫妻。
「でもね、ルミナを助けてくれてありがとう。あそこで何もしなかったらこうして気づかれることもなかったのに」
困ったように笑うアルルメイヤ。
「アルル、すまなかったな。しかし、お前がこうやって楽しそうにしているところを見られて本当によかった」
「ん、毎日楽しい」
嬉しそうな様子のアルルメイヤを見て微笑むユリシャは、ルミナリアとフィアナへと視線を向ける。
「あなた達がフィアナさんとルミナリアさんかしら?」
「あ、はい。私の事はルミナで結構です」
「フィアナです。こうしてお目にかかれて光栄です」
その言葉にルミナリア達が簡単に自己紹介をする。
「ん、その二人は私の大事な人達」
「そう、フィアナさん、ルミナさん。これからもアルルをよろしくね?」
ユリシャがそう言って頭を下げた。
「料理があがったよ! どんどん持っていっておくれー!」
聞こえてきたサリアの声にはっとなる一同。
「ん、そろそろ行かなきゃ。おとーさま、おかーさま、サリアの料理は美味しいから、楽しんでいって」
「ああ、そうさせてもらうよ。頑張っておいで」
「ん、ありがと」
「ふふ、色々話したいことはあるけど、私たちも行きましょう?」
「あ、うん!」
ルミナリアたちが仕事に戻っていく。アストン王とユリシャは、忙しそうだが、それ以上に楽しそうな娘の姿を見て嬉しそうに笑いあった。
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――ピシリッ!
どこか暗い部屋の中央。部屋の暗闇すら飲み込みそうな漆黒の繭に、小さな小さな亀裂が入る。
――ピシピシッ!
亀裂が徐々に広がる。
「ヴゥゥ……」
広がる亀裂の隙間から、低く響く唸る声が漏れる。しかし、その声を聞く者は、まだ誰もいない。
と、いうことで、こんなところにいてはいけない人たちの乱入でした!
感想やご意見、誤字脱字の報告等ございましたらよろしくお願いします。
では、また次回で会いましょう。




