嘘じゃないから
厄介な男と戦うことになってしまったルミナちゃん達は……
第29話です。どうぞ。
ギルドの奥にある扉を抜けると、そこは石壁に囲まれた広場になっていた。
「奥はこんな風になってたんだ」
ルミナリアとアルルメイヤが、広場に入り周囲の様子を窺う。広場には、武器を構えて打ち合っていたり、壁の的に魔法や矢を打ち込んでいる冒険者の姿がある。
「ここは冒険者達が自由に使ってる空間だからな。武器の慣らしだったり、魔法の試し撃ちしたりしてるやつらがよく来るんだよ」
「そして、今回みたいに冒険者同士で手合わせをしたりなんてこともあるわね」
「手合わせ、というよりは何かを賭けての戦いになることが主だけどな」
ルミナリア達に続いてフィアナとグリムもやって来た。その後ろからは、先程ギルドの中にいた冒険者達がぞろぞろと入って来ていた。そのうち何人かは、ルミナリア達を心配し、勝負をやめるように言っていたのだが、ルミナリアとアルルメイヤに引き下がるつもりなど全くなかった。
「おい! そこの邪魔な連中! 今から私がこの場所を使う! 隅にでも避けていろ!」
アンドレイは、広場の中央まで行くと、先に広場を使っていた冒険者達へと大声を出した。冒険者達は、嫌そうな顔をするが、絡まれることの方が厄介だと判断し、広場の端へと移動していった。
「ふん、これでいいだろう。さて、まずはよく逃げずに来たものだ。ははは!」
アンドレイは、ルミナリア達へと振り向くと、嘲るように笑った。その様子に、周囲の冒険者達がざわめく。
「金で集めた強力な魔導器をいくつも装備してるだけのやつのくせに……」
ルミナリアの耳に、ふとそんな言葉が聞こえてきた。
「ねぇアルル、魔導器ってなにかな?」
「ん、魔導器は魔力を通すことで使える道具のこと。専門の職人が作るものもあるから、一般的に普及してるものもあれば、遺跡の奥から見つかる貴重なものなんかもある。戦いに使えるような物になるとかなりの金額になるはずだから、普通の冒険者が持っていたとしても、頑張ってお金を貯めたか、運良く遺跡の奥で発見したかくらいだと思う」
「なるほどね……じゃああいつはその魔導器をお金の力で集めてたって訳だね……」
ルミナリア達がヒソヒソと話していると、アンドレイが腰に下げていた片手剣を抜いた。
「さぁ、こちらの準備は整ったぞ! お前達に冒険者は無理だということを教えてやる! そうだな、私に負けたあとは屋敷で侍女にでもしてやろう。お前達はなかなか見ない美しさだけはあるようだしなぁ。ふふふ……」
アンドレイのなめ回す様な視線は、ルミナリアの髪や腰、アルルメイヤの胸元などを見ているようだった。
「待ちなさい! そんな話じゃなかったはずよ!」
「おっと、外野は口を挟まないで貰おうかぁ? 決定権があるのは舞台に上がっている者だけ、がルールだろう?」
「くっ……」
アンドレイの言葉に悔しそうな表情をするフィアナ。
「アルル、こんなことになってごめんね……それでも、負けたくないって思ったんだ」
「ん、ルミナとなら負けないからいい」
「アルル……ありがと」
ルミナリアとアルルメイヤが、静かに微笑みを交わす。
「ねぇ、もし私たちが勝ったら、持ってる魔導器全部置いていってもらおうか?」
「ほう、万に一つもないだろうがいいだろう」
「ん、じゃあはじめよう。グリム合図をお願い」
「おう、しっかりやれよ。──始め!」
戦いが始まる。
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「ん! いけ!」
グリムの掛け声とほぼ同時にアルルメイヤの無詠唱の雷球が、アンドレイへと飛んでいく。
「ほう、無詠唱の魔法か! だが──無駄だ!」
アンドレイが左手で雷球を受け止めるように突き出す。雷球は阻まれることなくアンドレイへと飛んでいく。そして、左手に着弾する。しかし、それだけであった。
「……どうした? それで終わりかな? ははは!」
「アルル、今の……」
「ん、確かに当たった。何か使ってる」
アルルメイヤの雷球は、確かにアンドレイの左手に当たったのだが、雷球は、効果を発揮させることなく接触と同時に消えてしまったようだった。
「次はこちらから行くぞ! そらぁ!」
アンドレイが、ニヤリと笑い、持っていた剣をその場で大きく振るう。
「っ! プロテクション!」
嫌な気配を感じ取ったルミナリアが正面へとプロテクションを貼る。
──ギィィィン!
ルミナリア達の目の前に現れた光の壁に何かが当たり、激しい音が響く。
「危なかった……! 剣から何か飛んできたよね?」
「まだ終わらんぞ!」
「ルミナ! また何か来る!」
剣を振り終えたアンドレイは、再び左手を突き出すと呪文を唱え始めた。
「我が手に宿れよ大地の槍よ!──ロックスピア!」
アンドレイの目の前に、大人の脚ほどの大きさの岩槍が現れる。アンドレイが左手を振ると同時にルミナリア達へと飛翔していった。
「撃ち落とすよ! 来て!」
ルミナリアが、空中に三本の槍を創り出すと、正面にいたアンドレイは驚愕の表情を浮かべる。周囲の冒険者達もざわついているようだった。
「なんだその魔法は!?」
「ナイショだよ! いけ!」
ルミナリアが、創り出した槍を、飛翔してくる岩槍へと撃ち放つ。お互いの魔法は、丁度中間地点で衝突した。
「なに!?」
しかし、魔法は衝突しただけではなかった。ルミナリアの槍は、あっさりと岩槍を粉砕し、それでも、勢いを弱めることなくアンドレイへと飛んでいった。
「くそっ!」
アンドレイは、三本の槍を真横に転がるようにして回避すると、ルミナリア達を睨み付けた。
「貴様ら! 今のはなんだ!」
「言うと思うの? それにしても、自信満々だったわりには脆い魔法だったみたいだね?」
「……えぇい黙れ!」
怒り心頭といった様子のアンドレイは、再び剣を振った。
「ん!」
しかし、アルルメイヤの貼ったプロテクションはそれをあっさりと防いでしまう。
「ん、わかった。それ、風属性の魔導器だね」
「ふん! わかったところで何になると言うのだ!」
「ん、大したことないのがわかる。もっと魔力込めたら?」
アルルメイヤが表情を変えずに言うと、アンドレイはわかり易いほど顔を真っ赤にした。
「今度はこれだよ!」
ルミナリアが再び槍を創り出し、アンドレイへと撃ち放つ。
「このガキが!」
アンドレイはその槍を再び回避すると再び左手を突き出した。
「燃えろ!」
「無詠唱!?」
「ん、たぶん違う!」
「私が防ぐよ!」
放たれたのは火球だった。しかしルミナリアのプロテクションは揺らぐことなくその火球を防ぎきる。
「そらそらぁ!」
矢継ぎ早に魔法を放つアンドレイ。しかし、ルミナリアとアルルメイヤに攻撃が届くことはなかった。
「ルミナ、大体わかったし、そろそろ終わらせよう」
「そうだね」
「貴様ら一体なんだと言うのだ……!? なぜ届かん!」
イライラした様子のアンドレイに向け、ルミナリアが杖を向ける。
「さて、じゃあもう終わらせようか」
ルミナリアが目の前に光球を創り出すと、アンドレイへと放ち、アンドレイへと走り出した。
「魔法は通用せんぞ!」
アンドレイが先程同様に、魔法を打ち消そうと左手を突き出す。
「当てるだけが魔法じゃないよ!」
その光球は、アンドレイの前まで行くと、強烈な閃光を炸裂させた。
「ぐああ! 目が!」
持っていた剣を落とし、両手で顔を覆うアンドレイ。ルミナリアは、そんなアンドレイに接近すると、空中から何かを抜き放った。
「油断大敵だよ! そぉーれっ!!」
──パァーーン!!
「んがっ!?」
響く快音。真後ろに倒れるアンドレイ。そう、あの日ルミナスブランドの始まりを告げたハリセンだった。
「まだまだ! アルル!」
「ん!我が指先に宿るは裁きの雷……」
ルミナリアはハリセンを手放すと、その場から急いで退避した。
「これで終わり。──ホーリーボルト」
アルルメイヤの指先に集った光は稲妻へと姿を変え撃ち放たれた。
「ひぃぃぃぃ!!!」
倒れているアンドレイの目の前を通り過ぎ、奥の壁に刺さっていた槍に向けて。
「あぁ……あああぁ……」
アンドレイは、あまりの恐怖にその場で気絶してしまった。
「えっと、みなさん、今のが鎧猪を倒したときの魔法です。嘘じゃなかったでしょう?」
ルミナリアが、後ろの冒険者達に振り向き、にっこりと笑うと、周囲から拍手が巻き起こった。
「嬢ちゃんたち強いじゃないか!」
「期待の新人ね!」
「ありがとう! いやぁスカッとしたぜ!」
ルミナリア達に様々な言葉が掛けられていくなか、グリムとフィアナがルミナリア達に近づいてきた。
「おう、おつかれさん」
「まったく、心配したわよ! もう! でもありがとう」
「フィアナもグリムも嘘なんて言ってなかったから」
「うん、私達はそれを証明しただけだよ」
「さて、そろそろ約束を果たしてもらおうぜ! 誰かアイツを起こしてくれ。水でもかければ起きるだろ」
グリムの掛け声に、一人の女性が現れ、空中に水球を浮かべると、アンドレイの真上で落下させた。
「んぼごぐぶはぁっ!? なんだ!?」
慌てて起き上がり周囲を見るアンドレイ。ルミナリアとアルルメイヤは、アンドレイの目の前まで歩み寄った。
「おはようございます。今日は冒険者とはどういうものなのかが良くわかりました。これからはあなたを反面教師にして頑張っていきますね?」
ルミナリアがニコリと笑う。その姿はとても可愛らしかったが、アンドレイは恐怖を感じさせられていた。
「ぐ……!」
「ん、動かないで。まずは約束を守って」
アンドレイが左手をルミナリアに向けようとしたところをアルルメイヤがアンドレイの周囲に雷球を待機させて止める。
「わ、わかった……くそ! くそ!」
アンドレイは、その場で左手に嵌めていた指輪を全て外した。
「ん、それでいい。じゃあもう用はないし、帰っていいよ」
アルルメイヤは、指輪を拾い終えると、魔法を消して出口を指差した。
「く……くそぉぉぉぉ!!!」
ずぶ濡れのアンドレイは、叫び声をあげながら広場から去っていった。
「ん、終わり」
「だね!」
微笑み会う二人に再び周囲から拍手が送られるのだった。
ルミナちゃん達、快勝。
アンドレイは遠距離一気に攻め立てることと、魔法の防御方法が強みだったのですが、ルミナちゃん達には通用しなかったのです




