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話せない2人と帰れない帰り道

作者: 亞月こも


「コンバチャンネル?」

「そう、大型ビジョンで宣伝してたのをたまたま見たんだけどね、ゲームを用意したとか、日常に刺激的なエッセンスを混ぜてあげるとか言ってたんだよね」

「えー、ナニソレー、あやしー!」

「数字稼ぎのための釣りじゃないの?」


 ガヤガヤとした中二の教室で桐谷きりたに直人なおとは息をついた。いつもうるさい女子たちがうるさい。読書の邪魔だ。

 手にしているのは『梶井基次郎全集』。スマホを開いていると教師がうるさいけれど、紙の本なら文句を言われない。図書室に行けば借り放題。これ以上にいい暇つぶしはない。


「はいはい、内輪の話の声の大きさはニャンニャン、でしょ?」

「えー、カタイこと言わないでさ、ユイもなんかオモシロイことない?」


 言いつつも、さっきまでよりも少し音量が下がって、直人はホッとした。学年が上がってクラスが変わってからよく聞くやりとりだ。

 正論を言うと嫌われて仲間から弾かれる。それが直人が知る世界だ。けれど、篠原しのはら結衣ゆいはそうなっていないのが不思議でならない。


(話してみたいな)

 思うけれど、常に人に囲まれている篠原と話せる機会はない。日直で一緒になることもなければ、係、委員会、部活すべて無関係だ。



 篠原結衣の視界のはしには、クラスで目立たない男子がよく映っている。


(あ、今日は『梶井かじい基次郎もとじろう全集』読んでる。『檸檬』も好きだけど、『桜の樹の下には』のインパクト凄いよね)


 国語の成績を上げるには読書がいい。買うお金がなくても、借りに行く時間がなくても、WEBの青空文庫ならスマホでいつでも無料で名作が読める。小学校の塾の先生にそう教えられてから、毎日読むようにしている。

 中には文章が古くて読みにくいものもあるが、読んだあとに考えさせられる話が多いところが好きだ。


 周りの友だちと話すのは楽しいけれど、話題は日常とか動画とかSNSでバズっていることとかだ。たまに小説の話になっても現代作家の映画化した作品などで、文芸作品の世界を誰かとリアルで共有するのは諦めていた。

 クラスが変わって、休み時間に紙の本を手にしている男子がいることに驚いた。しかも、流行りのラノベではない。自分も読んできた古典の名作だ。


(話してみたいな)

 思うけれど、本を読んでいるのに話しかけていいかわからないし、そもそも人と話すのが好きじゃない可能性もある。自分の友だちの輪から抜けるのも難しい。他の場面でも接点と呼べるものがない。



 ハァ。2人同時に内心でため息をついたことを、2人は知らない。



「席につけー、帰りのホームルーム始めるぞ」

 ブロッコリーのようなもじゃもじゃ頭の担任が、あくびをしながら入ってきた。年中眠そうにしていることに、クラスはもう慣れて誰も気にしていない。


 今日も昨日と何も変わらずに過ぎて、変化のない明日が来ると思っていた。


(篠原さん今帰りなんだ)

(桐谷くん今帰りなんだ)


 1人半くらい距離が離れた下駄箱で、お互いに気づいた。

 直人は帰りに図書室に寄って、次に読む本を借りるだけのつもりが、つい読みふけって、いつもより帰りが遅くなっていた。

 結衣は委員会の仕事をもう少し進めておこうと思ってやっていたら、気づけばいつもより帰りが遅くなっていた。

 昼と夜の境界線が幻想的にあかく染まっている。


 なんとなく気まずくて、顔を向けないまま気づかれないようにして相手を見やる。

 話しかけるタイミングを逃した、今更声をかけるのも変かと思いながら、同時に校舎を出て、同時に校門を出る。お互いに歩調を合わせていることに、2人は気づかない。


(どこまで方向同じなんだろう)

 時間が経てば経つほど、自分の心音が大きくなっている気がする。

(早く話しかけないと)

 またこんな機会があるとは限らないし、ない可能性の方が高い。

 けれど、最初のひと言が決められなくて、はじめの一歩の勇気も出ない。


(話せるまで道が分かれなければいいのに)

 きっと相手は無言で数歩隣を歩かれて迷惑だろう。そうも思うからこそ、気まずいままで終わりたくない。


 同じようなことを考えているなんてまるで想像しないまま、並んで歩く時間ばかりが過ぎていく。


「あれ?」

 気づいて声をあげたのは直人だった。

「どうしたの?」

 結衣が自然に応じる。

(よしっ!)

 お互いに内心でガッツポーズをしたのを悟られないように平静を装って、今ここで起きていることに意識を向ける。


「けっこう歩いたと思うんだけど、今いるのって学校のすぐ近くだよね?」


 言われて、結衣は注意深くあたりを見回した。

 右側はフェンスで仕切られた坂になっていて、その先には特徴が薄い民家が並んでいる。左側には鬱蒼とした雑木の藪が広がり、奥にお稲荷さんの小さな赤い鳥居がかすかに浮かんでいる。

 中学は小高い丘の上にあって、町に出るのに必ず通る道だ。普通に歩いたら校門から数分の場所で、更に5分くらいでこの道を抜けられ、下り坂に立ち並ぶ民家の先にコンビニの明かりが見える作りになっている。


 体感としては、絶対にもっと長く歩いている。驚いて、結衣がスマホを出して見ると、学校を出てから30分近く経っている。帰る前に親に送った連絡の時間も確認したが、間違いない。

 直人に両方見せる。


「ここまで30分かかるなんてありえないよね?」

「ああ。絶対におかしい」

「一本道で迷うはずないし」


 アスファルトで舗装されているのはこの道だけだ。古い稲荷に向かう道もあるけれど、草木に埋もれていて、意識して入ろうとしないと見つけられない。間違えようがない。


「今度は注意して歩いてみる?」

「そうだな」


 話したことで、さっきまでより少しだけ距離をつめて歩く。

 両側の景色の変化を意識して見ながら進んでいくけれど、歩いても歩いてもあまり変わり映えしない。そもそもがそういう場所だが、それにしても変化が感じられない。自分たちの靴音だけが妙に浮いて聞こえる。進んでいるのに、進めていない気がしてならない。


 10分くらい歩いてみたけれど、やはりこの道を抜けられない。それなのに、空はだんだんと黒さを増していく。スマホの時計も進み続けている。


「歩いてるのに進んでない……? ううん、どこかでループしてる……?」

「景色が流れていく感じはあるのに、進めている感じがしないな。鳥居の位置も変わったようでいて、気づいたら戻っている。何かハッキリした目印を決めてみないか?」

「うん、そうだね」


 二人であたりを見回す。同時に目をとめたのは、今まで意識していなかった電柱巻きの広告だ。

『天地探偵事務所 人探し・浮気調査 秘密厳守』

「これ、どうかな?」

「下に町名番地表示もあるのがいいな。写真撮っておこう」

 直人がスマホで記録する。それから、広告がある電柱を意識して再び歩きだした。


 電柱の横はちゃんと通り過ぎることができた。移動できていないわけではないようだ。今までのことはただの錯覚で、このまま歩いていけば町のコンビニが見えるのではないかと期待がふくらむ。


 が、5分後には結衣の顔が引きつった。

「待って、あれ……」

 足を止めて指差す先には『天地探偵事務所 人探し・浮気調査 秘密厳守』と書かれた電柱巻き広告。

 直人がスマホを出して写真と見比べる。町名番地表示も完全に一致している。

「あの電柱だ……」

 広告が色あせていることも、黒い雨だれの筋が涙の跡のように残っていることも、さっきは気にならなかったのに、今は不気味に感じる。


 結衣は笑おうとした。こんな状況だからこそ、乗り切るのに笑顔が必要なのはわかっている。わかっているのに、唇が震えて口角が上がらない。

 気づけば、直人のそでをつかんでいた。


「もう、帰れないのかな……。帰れる気が、ぜんぜんしない……」


 張りつめていたものが崩れるように涙が滲んだ。

 学校ではしっかりしている結衣が初めて見せた弱さだった。


 直人は息を飲んだ。何を言えばいいのかがわからない。何を言っても気休めにすらならないかもしれない。それでも、結衣の肩が小さく震えているのを見て、思わず彼女の手をとって口を開いた。


「帰れないって決まったわけじゃない。やれることはあるはずだ。絶対、一緒に帰ろう」


 これ以上彼女を怯えさせないためにも、自分がしっかりしないといけない。

 学校では前に出ることがない直人が初めて見せた強さだった。


「桐谷くん……」

 手を握り返すと、ふしぎと震えが収まる。

 2人同時にハッとして、次の瞬間には手を離して距離をとり、前を向いた。


 直人が耳の下を軽く掻きながら遠くの空を見る。

「あきらめるのは早いと思うんだ。試せそうなことはなんでも試してみよう」

「うん……」

 小さく頷いた結衣が改めてスマホを見る。

「圏外だね……」

 時間を見ていた時にもかすかに目に入っていたけれど、ちゃんと認識してゾッとした。


 この状況を検索できない。

 当然、助けも求められない。

 それだけではない。普段は電波が入る場所だった。今いるところが明らかな異常だと証明されたようなものだ。


「うん……、歩いてダメなら走ってみる、とかじゃダメかな?」

「やってみよう」

 直人の提案に乗って一緒に走りだす。結衣は女子の中では速い方で自信があったけれど、意外に直人もそのくらい走れた。

「桐谷くん、速いね」

「休みの日、暇だとたまにランニングしてるから」


「意外」と言いかけた言葉を結衣は飲みこんだ。桐谷直人のことは何も知らないのだ。クラスではあまり話をしないのと、よく本を読んでいること以外は。そういう人は運動をしないだろうというのは、ステレオタイプな偏見だろう。


「意外?」

 直人の方から聞かれて苦笑気味に答える。

「えっと……、ごめん。ちょっと?」

「体育でよく『意外に動けるんだな』って言われるから慣れてる。球技とか団体競技は苦手だけど、ランニングしてると自分と世界しかなくなるから走るのは好きなんだ」

「あ、それわかる。なんかね、いろんなヤなこととか、走ってるとどうでもよくなってくるよね」


「篠原さんにもあるんだ? ヤなこと」

「当たり前じゃない? 意外?」

「いつも楽しそうだから」

「楽しそうにしてないと、めんどくさがられて嫌われるでしょ?」

 さらりと言われた言葉に、直人はハッと気づいた。彼女の周りに人が集まるのは、彼女の努力の結果なのだと。


「……ごめん、口がすべった。忘れて」

「いや……、意外だったけど、その方が人間らしい」

「人間らしいって。褒めてるの?」

「もちろん」


 穏やかに笑いあって、こんなふうに話せてよかったと思う。

 が、その余韻にひたる間もなく、サァッと背筋が冷たくなった。


『天地探偵事務所 人探し・浮気調査 秘密厳守』


 広告が巻かれた電柱が、静かに存在を主張して佇んでいる。雨に濡れたせいか広告の角は縮れ、白い裏地が覗いていた。その裂け目が口を開けて笑っているように見える。

 揃って、息を飲んで足を止めた。


「ごめん、走っても変わらなかったな」

「いいよ。私も走るのは好きだし」

 直人が気に病まないように軽く答えるものの、結衣の焦りは増してくる。あたりを見回して、ひらめいたことを少し早口で音にした。

「むしろ学校の方に戻ってみるのはどうかな? 先生とか残ってたら一緒に解決してくれるかもしれないし、学校なら電波が入るはずだから、調べたり連絡したりできるかも」

「うん、やってみよう」


 帰る方向ではなく、学校がある方に足を向ける。景色が左右逆になり、知らない場所になった感じがする。普段は登校時にしか目に入らない方向で、明るい時間帯しか知らなかった。

 道が少し曲がっているのと木々に隠されているのとで学校自体は見えない。けれど、学校という新しい目的地は町よりは近い気がする。


 改めて電柱巻きを起点にして、さっきまでとは逆方向にスタートした。気が急いているからか、走ろうとしていなくても早足になっている。もう少しだけ行けば学校が見えてくるはずだ。そう信じて足を進める。


『天地探偵事務所 人探し・浮気調査 秘密厳守』


(もうヤダ……)

 何度目になるのか、その色あせた広告が目に入ったとたんに結衣はまた泣きそうになった。けれど、今度はぐっとこらえる。

(帰れなかったら私たちが探される側になるのかな……)

 胸の奥が苦しい。が、それも飲みこむ。

 今は提案がうまくいかなかった責任を引き受けるのが先だ。


「……ごめん、ダメそうだね」

「可能性がひとつ検証できたからヨシとしよう」

 うまくいっていない時ほど人の本質が見えるという。直人と結衣はお互いに安心感と信頼感を感じ始める。


「後は……、あれ」

 直人が声を下げて視線を送る。黒に近い緑の奥で、赤がひっそりと存在を主張している。

「あそこのお稲荷さんが気になってるんだけど」


「ずっとあるやつだよね。祟りとか化かされてるとか、そういうこと?」

「祟られるようなことをした覚えはないけど、何かお供えして祈ってみたら帰れないかなって」

「お供え……、何かあったかな」

「俺は親に持たされてるカロリーバーくらい」

「みんなで食べてたグミの残りならあるけど」

 授業中以外はお菓子を食べることが許可されているゆるい学校だ。見せ合って、同時に頷いて、鳥居に向かうことを決めた。


 夕闇に沈んだ細い参道は、両側から伸びた草に飲み込まれ、ほとんど獣道のように細くなっている。直人がスマホのライトを点け、草をかき分けながら進む。ふいに脚に触れた冷たいものに、背筋がゾクリと粟立った。――植物の葉は、こんなにも冷たかっただろうか。空気さえも、ひやりと肌に忍び込んでくる。


「ねえ、ここって入って大丈夫なのかな? 入った方が祟られない……?」

 後ろにつく結衣の声が震える。

「俺が一人で行ってこようか?」

「えっ……」

 結衣が息を飲んで、直人の服のすそをつかむ。

「ヤダ。一人の方が怖いもん」

 振り返った直人が頷いて、再びゆっくりと前に向かう。


「ここも、歩いても歩いても着かない、なんてことないよね……?」

「ちゃんと近づいてるし、そんなに遠くなさそうだよ」

 近づいているように見えてまた気づけば離れているのではないか。そんな不安を抱きながらも、どちらもそれには蓋をした。


「着いた……」

 ホッとしたように呟いたのは2人同時だった。

 腰ほどの高さしかない小さな稲荷神社だ。ひとつだけの赤い鳥居も大人の背だとギリギリな高さしかない。

 古いもののようだけど、キツネの像にかけられた赤い前掛けはきれいだ。手入れをしている人がいるのだろうか。


「無事に帰れますように」

 お供えものを置いてお賽銭も入れて、二人で並んで手を合わせる。


「あ、ここって神社だよね?」

「鳥居をくぐるのは神社だな」

「じゃあ、二礼二拍手一礼じゃない?」

「そっか」

 改めて二礼二拍手をして「無事に帰れますように」と唱え、頭を下げる。


 風で木々がざわついた気がした。風が駆け抜けたのは自分たちが来た方角だ。

「行ってみよう」

 きっと出られる。そんな確信を持って、歩いても歩いても抜けられなかった舗装道路に戻る。

 日はすっかり落ちていて、等間隔の街灯が白々しい光を放ち始めている。


 再び町の方へと歩きだす。足取りが軽い。

 軽かった。が、長くは続かなかった。

 やはり5分くらい歩くとあの電柱広告の前に戻ってしまう。きっとと思って抱いた希望が絶望に変わり、結衣が地面にへたりこむ。


「もう、どうしろっていうの……」

「とりあえず休もうか……」

 直人が結衣の横にかがんだ。

 お腹も空いてきた。けれど、なけなしの食糧はお供えしてしまった。取りに戻る元気はないし、バチ当たりな気もする。


 結衣が大きく息を吸って、長く吐き出した。肩が上がって下がると、力が抜ける。なんかもう疲れた、どうでもいい、なんて思ったら、解決には関係しなさそうなどうでもいい話が口から出た。


「お稲荷さんって言えばさ、桐谷くん、『たけくらべ』は読んだ?」

「樋口一葉だっけ。現代語版を読んでたかな」

「そうそう、原文開いてびっくりしたんだよね。点でつながってる文章が長すぎて、ぜんぜん頭に入ってこないの。昔の人ってあんな文章書いたり読んだりしてたんだね」

「開く?」

「うん。青空文庫って言ってね、著作権が切れた昔の名作をWEBで無料で読めるのがあって」

「ああ、なるほど」


「今日は梶井基次郎読んでたよね。どう?」

「『桜の樹の下には』がヤバい」

「うん! インパクト凄いよね!」

「「『桜の樹の下には屍体したいが埋まっている!』」」

 同時に冒頭のフレーズを口にして、同時に笑った。


「ここの木に桜がなくてよかったよ。あったらもっと怖かったと思う」

「だな」

「私ね、桐谷くんがいつも古い本を読んでるの見て、話してみたいって思ってたんだ」

「俺も……、篠原さんと話してみたかった」


 ふいに、どこからか狐の鳴き声のような音が聞こえた。幻聴のようなそれに釣られるように稲荷神社の方を見る。それはもう夜の闇に呑まれて、目には映らなくなっている。

 コーン……。二度目の音は明らかに町がある方から聞こえた。


「もう一回、歩いてみる?」

「まあ、ダメ元でいいんじゃないか?」


 作家や作品について自然に話しながら、長い時間歩き続けた道を行く。ダメならダメでもと思っていたら、そう経たずに町のコンビニの明かりが目に入った。


「コンビニ!」

「抜けたな!」

 思わず二人でハイタッチをする。コンビニの明かりがこんなにも暖かく見えたのは初めてだ。


「桐谷くんのおかげだよ。ありがとう」

「いや篠原さんががんばったから」

「一人だったらきっと、怖くて動けなかったから」

「俺も一人だったらもっとパニックになってたと思う」

 顔を見合わせて笑う。

「学校だと話しにくいから、SNSの連絡先交換してもらってもいいかな?」

「もちろん」

 いったんコンビニ前まで行って、お互いにスマホを出してSNSを繋いだ。


「お前らー、もう遅いぞ。さっさと帰れー」

 ブロッコリーのようなもじゃもじゃ頭の担任がコンビニから出てきて、あくびをしながら注意してくる。

「モジャ先生!」

「先生も今帰りですか? 遅いですね」

「誰がモジャ先生だ。門司矢もじやだ、モジヤ」

「大差ないじゃないですか」

「大アリだろが」


「そういえば、先生って超常現象研究部の顧問でしたよね」

「一応なー」

「実はさっきまで学校から帰れなくなっていて……」

 門司矢がそれぞれの証言を聞き取る。その目に、一瞬だけ冷静な観察眼の鋭さが覗いたことに2人は気づかない。


 概要を聞き終えた門司矢が、大きくあくびをした。

「お前ら、純文学を読む珍しい学生かと思っていたら、超常や都市伝説もいけるクチだったんだな。超常現象研究部に入りたいってことか?」


「「そうじゃないっ!!!」」


 二人揃ってがっかりして、顔を見合わせて笑って、それぞれの道を帰っていく。

 これからの日々が、今までよりもう少し楽しみだ。




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F機関報告書


【報告職員名】 門司矢 繁


【報告本文】

現地調査の結果、事案No.xxは終息。


外からの干渉は受けつけず、閉じ込められていた中学生2名が自力にて脱出。

都市伝説『帰れない帰り道』の亜型と思われる。


通常は1人の時に発生する都市伝説だが、2人で巻き込まれたのは彼らの望みが一致していたためではないかと推察する。


条件を満たしたタイミングを別の超常が知らせて現実へと導き出したように感じられた。


現場を調査したところ異常の継続は確認できず、終息事案として報告する。


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#マーブルクラフト 世界観共有企画参加作品

まぶくら詳細:https://theater-words-collection.com/marblecraft/


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

反応、感想や⭐︎評価などをいただけると、たいへんはげみになります。


他短編や、異世界恋愛長編なども載せているので、どうぞ合わせてよろしくお願いいたします。



---2025.10.1 追加報告

門司矢先生が、『誕生日に婚約者と異世界から転移しました:いちゃいちゃってどうすればよろしいの?!』に巻き込まれました。

メインキャラのシリーズ優先で『追放令嬢の妹には復讐の才能がない! そして復讐相手は愛が重い』のシリーズにまとめているお話です。

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― 新着の感想 ―
企画からきました! お互い気になりつつも「話せない」ふたりが、同時に「帰れない帰り道」に巻き込まれたことによってぐっと距離が縮まっていって……これからふたりの仲がさらに深まっていく様子が想像できて、ほ…
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