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「だああああああっ……」
俺は猛ダッシュする。それを追いかけるファイアリザード。こいつはドラゴンほどじゃないが火をはく。ファイアーブレスだ。そんなの喰らったら俺のような消耗キャラは確実に死ぬ。だが、とかげのやろう、俺を生で食いたいらしく、大口開けて俺を噛もうとする。それを間一髪で右左にかわして走る。
「主様、もうすぐ出口でゲロ……」
「助かった~」
俺は外に飛び出した。
「小隊長C、伏せろ!」
ケインが叫ぶ。外には銃兵が銃を構え、その後ろに槍兵、その後ろに弓兵がいる。俺は野球のヘッドスライディングのように頭から滑り込む。
「ルカ姉、魔法付与だ!」
「分かったわ。コールドバレット!」
ルカちゃんが叫ぶと銃隊の構える銃が青白く光る。通常弾を魔法で冷凍弾に変える魔法だ。レベルは初級だが、20人の銃兵による一斉射撃だ。ファイアードラゴン程度はこれで威圧できる。
「撃て!」
ケインが叫ぶ。凄まじい射撃音が響く。
グオオオオッツ……。
ファイアーリザードが苦痛の鳴き声を上げる。冷凍弾は着弾すると体を凍らせる。変温動物の爬虫類にはこれはキツイ。意識にがあるにも関わらず、体が硬直してしまうのだ。すかさず、ルカちゃんが槍隊の槍にもコールド属性の魔法を付与する。
「コールドスピア!」
「よし、一挙に仕留める!」
ケインが剣を抜く。ダイタロスのおっちゃんも大きな斧を振り回す。
「者共~、突撃~」
「わああああああっ!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ~」
スライディングで倒れている俺を踏んでケインたちが襲いかかる。
勝負はあっという間であった。
ファイアーリザードは退治された。
ゴブリンがためこんだ財宝もケインが手に入れた。全部で金貨が250枚。銀貨が580枚。銅貨が2000枚。銀貨は金貨の10分の1。銅貨は100分の1の価値だから、日本円にして328万円の大儲けである。ギルドからの報酬もあるから全部で628万円である。ナンナのずる賢い紹介は結局はケインにとっては吉と出たことになる。当のケインはそんなことも知りもしないだろうが。
だが、俺には吉じゃない。
だって、兵士に踏まれて気絶してしまったからだ。おかげで金貨をくすねることもできず。帰ってからボーナスで金貨一枚支給されただけであった。
(ちくしょう~ツイてねえええええっ)
「主様が欲を出すからでゲロ」
「うるへー。あそこで袋が破れるなんて誰が想像できるか」
「そうでゲロな。受け狙いなら、尻のズボンがビリっと破けてファイアリザードに見つかるというのが面白かったと思うでゲロ。その方が読者様に笑ってもらったでゲロ。主様はお笑いでもハズしたでゲロ」
「笑いなんて取ってねえよ! 読者様ってなんだよ!」
「でも、主様。金貨はないけど、魔法の札は取ったでゲロ」
「おおお! そうだった」
俺はポケットを探った。魔法の札3枚をゲットしたのを忘れていた。魔法の札は超高いのだ。プレーヤー限定の課金アイテムだから、このゲームの世界では売れないのだが、札自体は使える。しかも強力な魔法が誰でも使えるのだ。
(これはラッキーだ。爆裂とか、雷撃とか……。まさか、究極魔法オベリスクだったりして……)
「爆裂」は強力な火力爆発で500人ほどの部隊なら瞬時で吹き飛ばす魔法だ。「雷撃」は雷属性で同じ威力。オベリスクに至っては1万人を吹き飛ばす。城だって一撃だ。
そんな究極魔法が俺の手に……。
(主様は相変わらずでゲロ。そんなうまい話がモブキャラに用意されているわけがないでゲロ)
そんなことを心で思っているゲロ子に俺は鑑定を命ずる。
ゲロ子が俺の期待に応えるべく鑑定する。小隊長の身分というか、アビリティでは札に込められた魔法が分からないのだ。道具屋で鑑定してもらえばいいが、それでは金がかかる。そこでゲロ子だ。コイツは鑑定もできるナビキャラなのだ
「ゲロゲロ……。一枚はスリップオイルでゲロ」
(スリップオイル!)
地面に油をまいて相手を滑らす魔法だ。(微妙~)
「二枚目は粘着ローチでゲロ」
(粘着ローチ……ローチはゴキブリのことだ。)
つまり、ゴキブリホイホイのように地面にネバネバの粘着液をばらまいて敵の足止めをする魔法だ。(微妙)
「三枚目は……ファンガスでゲロ」
「くあああああっ……使えねえ~」
俺は天を仰いだ。
(ファンガス)30メートル四方に強烈な臭いガスを発生させる魔法。あまりの臭さに目が開けられなくなる。(微妙を通り越してお笑いである)
「やっぱり、主様は主様でゲロ。ゲロ子や読者様の期待は裏切らないでゲロ」
「もう何も言うなゲロ子。俺は傷ついて立ち直れない……」




