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第22話 この物語の主人公

夕日の差し込む教室で、「そしてセカイは藍色に」の主人公こと才田は立ち尽くしていた。


「上手く、いった……」

 

 体操服を自ら切り刻み、自作自演をした。錦小路に罪を被せるためだ。

 まさかこんなにうまくいくとは思わなかった。うまくいって安心はしたが、冷や汗がこめかみを流れる。


「ははっ。これで、神奈ちゃんはアイツから離れるはず」


 昔から、よく夢を見た。

 可愛い女の子と付き合っている夢。お互い本気で好きなことが分かって、お互い本気で幸せなことが分かって、将来は確実にこうなるんだろうと分かる夢だ。

 女の子の顔は覚えていない。けれどただひたすらに、可愛いことは覚えていた。


 そして神奈と入学式で出会った時、気づいたのだ。

 彼女が夢に出てきた少女で、彼女が自分の運命の人なのだと。

 なのに、その肝心の少女は、遠足で他の男にうつつを抜かしていた。それが、許せなかった。


 そんな中、才田は思い出したのだ。

 一度だけ変な夢を見たことがあることを。

 いつものように優しく美少女に甘やかされる夢ではなく、ひたすら胸糞悪くいじめられる夢だった。

 それが、錦小路だった。

 一目見て、彼だと確信した。顔は覚えていない。それでも。


「きっとアイツは、俺がこんなことしなくても、自分から仕掛けてきてたはずだ」


 そう。だから、この判断は正しいのだ。むしろ、神奈がひどい目に合う前に、対策を練っていてよかったじゃないか。


「神奈ちゃん……」


 脳裏に、美少女の姿を思い描く。

 メイドカフェで働く神奈。授業中、横目でこっそり盗み見る神奈。体操服を着て、そのグラマラスなボディを浮かび上がらせる神奈。


「神奈ちゃん……」


 才田はもう一度呟いた。


 あの日、メイドカフェで出会った神奈はすごく驚いた顔をしていた。

 それから微笑んで、客の死角になるところで、才田の耳に顔を寄せ、内緒にしていて、何でもしてあげるから、と呟いた。

 

「誰にも言わないからね」


 自分だけ知っている秘密。彼女の一部を、自分だけが知っている。

 あんなフリフリな、大きなリボンを胸に携え、ふんだんにレースがあしらわれた服を着ている姿をしっているのは自分だけなのだ。


 神奈の言葉に、才田は「何もいらない」と言った。神奈はそれでも食い下がった。

「俺にとってはこんなに可愛い姿を見れることが何かもらったようなものだからさ」

 神奈は少し顔を赤くして俯いた。


「あのときの神奈ちゃん、本当に可愛かったなぁ」


 本当に可愛かった。元々才田はメイドが大好きなのだが、神奈は今まで見たどんなメイドよりも可愛かった。

 あまりに可愛すぎて、ホームページを何回も見返しては、神奈の顔を何度も眺めている。

 付き合ったら、色んなコスプレをしてほしい。チャイナ服にエッチな制服。あぁ、OLのスーツなんかもいいな。ナースコスもいいし、キョンシーとかも最高。いや、もはや神奈だったら何でもいい。


「でも信じてるよ。神奈ちゃんは、錦小路のことが怖かったからあんな顔してただけだもんね。フリ、をしてただけだよね」


 才田は自分の制服を握りしめた。あまりに強く握ったせいで、手を離した際には皺が残ってた。


「神奈ちゃん、俺なら優しいよ。錦小路は、DVをしたりするかもしれない。だけど、俺は、家事や育児も()()()()()してあげる。だからこっちに早く来てよ」


 教室の中で、少年は恋焦がれる。

 いつか訪れるかもしれない未来を夢見て。


「……言っててもしょうがない。行動に移さないと。まずはあれだ。今回の体操服は成功したから、新しく考えないと。えーっと、えーっと」


 才田は頭を悩ませた。


「次は、そうだ。噂だ。噂を流すか。手始めに掲示板に書き込もう」


 スマートフォンを取り出し、ひとまず匿名で自分への悪口を書き込む。


「これでよしっと。明日、どうなってるかな」


 才田はほくそ笑む。おそらく成功するだろうと信じて。

 

 しかし、才田は知らない。

 転生者の出現によって、物語が変わっていることを。

 そしてそもそも神奈は顔を赤らめたわけではなく、それどころか少し冷めた気持ちでいたことを。悪役の味方であることを。

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