第11話 どう伝えるべきか
幸運と言うべきか不幸と言うべきか、俺は上着を持っていた。しかも、リュックの中に入れていたから濡れてない。
例えば少女漫画なら――無言で上着とかを肩にかけてって感じなんだろうけど、さすがに現実でそれはできないよな。だって錦小路ってたぶん嫌われてるし、そんなやつに勝手に上着かけられるのとか最悪だろ。
かといって何もしないわけにもいかないし。後から透けてるのに気づくとかどう考えても嫌だよな。
「えーっと、あの……」
「どうしたの?」
「あの、寒くない?」
「さすがに濡れたから寒いのは寒いけど……錦小路くん、寒い? わたしハンカチ持ってるよ」
「いや、大丈夫。俺は別に寒くないから」
神奈がハンカチで拭こうとしてくれた。けど、それを急いで断る。
だってただでさえはっきり見えるのに伸びなんかしたらさ……それに俺のためにハンカチ濡らすのは申し訳ないし。
「そっか。どうしたの……?」
「いやぁ、その……」
なんて言ったらいいんだこれ……
キモイっていうのだけは思われたくない。いや、モブでいるにはその方がいいんだろうけど、ちょっと俺の心を守るためにな。
「寒いならさ、上着いらない?」
「でも我慢できないほどじゃないし……錦小路くんが着て。濡らしちゃうのも悪いから」
「うん……」
なんで言いくるめられてるんだ俺! もっとこう、言い方とかがあっただろ。
「でも俺は寒くないからさ、ほんとに風邪引くのは良くないから、上着着て。ほら、濡れてないからさ」
リュックから上着を出して神奈に渡す。神奈は一旦受け取ったけど、不思議そうな顔をした。
「なんでそんなに勧めてくるの?」
「いや、それはその……」
「ん?」
神奈が微笑んで首を傾げる。
やばっ。今一瞬つられて言いそうになった。なんていうか、今のは破壊力やばかったぞ。
でもさすがに言いずらくて、神奈からそっと目を逸らす。
神奈もつられて自分の制服を見て、それから気づいたように顔を赤らめた。
「あ~、そういうことか。ごめん。教えてくれてありがとう。上着借りるね。明日洗って返すよ」
「うん。あ、でも洗濯とかは別にいいから」
「ううん。こうして借りさせてもらってるんだもん。お礼だけはさせて。わたしの気が済まないから」
「分かった。ありがとう」
「錦小路くんって、優しいんだね」
「いや、別に優しいわけではないだろ」
「優しいよ。さっきも気遣ってくれたんでしょ」
「それは気遣うってうか、当たり前っていうか……」
「そっか。でもわたしは優しいと思う。ありがとう」
やけに真剣な顔で言われる。悪い噂と関係しているのかな。
「う、うん。こちらこそ……」
「雨、なかなか止まないね〜」
「そうだな。スマホにも降水情報出てないんだけど」
「通り雨なのかな」
「たぶんそうだろうな」
「錦小路くん寒くない?」
「別にそこまで……佐々木は?」
「わたしは錦小路くんのおかげで寒くないよ」
「そっか。良かった」
お互い緊張しているのか、会話が上手く続かない。
「ねぇ、錦小路くん」
「なに?」
「実はわたしみんなに内緒にしてることがあるんだけどさ」
「うん」
外はザァザァぶりで、雨の音以外はあまり聞こえない。そんな中、神奈の声がしんと響いた。
「わたし、メイドカフェで働いてるの」
「そうなんだ」
「うん。誰かに言ってみたかったの。錦小路くんはそういうのでなんかこう、いい意味でびっくりしないかなと思って」
「そう、だな……意外だったけど、そこまでびっくりは」
びっくりと何も、元から知ってたからな。
「良かった。あ〜なんかスッキリする……あっ、そうだ。もし時間あったら今度来てみてよ。サービスするから」
「えっ」
「ほんと、お誘い以内のことだからね。全然気にしないで」
「いや、それは誘ってもらえて嬉しいんだけど……」
モブなのに誘われていいのか?
……てか、たしかこういうのって主人公が言われてるはずじゃなかったっけ。
今このゲーム世界、どうなってんだ?




