96話 ホテル到着
菜々子が動けるようになったので、俺たちは大学のある札幌へと移動する。
道中は電車に乗って移動したのだが……。
「わぁ! せんせーみてください! 田んぼです! すごいです! ひろいです!」
菜々子がお上品に座りながら、車窓からの景色に目を輝かせている。
流れていく田畑の緑と、どこまでも続いていく空の青を見て、子供のようにはしゃいでいた。
「珍しいか?」
「はい! わたし生まれてからずぅっと都会育ちだったので、緑たくさんがめずらしいです! わぁ……!」
「そっか。それは良かった」
じっ、と菜々子が俺を見上げてくる。
「せんせーは、見慣れてる感じしますね?」
「ん。まあ、俺出身が長野だからさ」
「長野……! そうだったんですか!」
「まあな。俺は都会に出てきたが、親父も弟も長野に住んでるよ」
「ふえー……。すごいです」
どこか感心するとこがあったろうか。
まあ都会に住んで育った彼女からすれば、田舎育ちは珍しいのだろう。
特に否定する要素もなかったのでスルーする。
「せんせーの実家かぁ……行ってみたいです。あかりちゃんと、るしあちゃんと、一花さんと、みどり湖ちゃんと、みんなで!」
「そうだな。みんなでいつか……な」
だがその前に現在のいろいろにけりを付ける必要がある。
俺は現在、若い女の子5人と付き合ってるという状況だ。
無論おかしな状況だとは先刻承知である。とはいえ、俺はこの関係から抜け出せないでいる。
常識的な大人として振る舞う自分と……。たくさんの女の子に囲まれ、どこか心を満たしている自分がいる。
……いかん。どうにも、いかんな。俺はこの先どうなるのか。
「せんせー?」
「ああ、すまん。それより、もうそろそろ札幌つくぞ」
「え! そんな、今こんな田舎田舎してるのに……」
だが緑が一瞬で消えて、都会の灰色へと変貌すると、菜々子は仰天していた。
「さっきまで田舎だったのに……」
「全部が全部田んぼだらけじゃないさ。人が住んでるとこは、こんな感じだよ」
長野もそんな感じだったな。
札幌駅にて下車する俺たちは、ホテルへと向かう。
「菜々子。もう一度確認しておくが……本当に一部屋で良かったのか?」
飛行機を予約する際に、ホテルも手配済みだった。
もちろん2部屋予約したのだが、あとから菜々子が自分で、一部屋がいいと強く主張してきたのである。
菜々子はほおを赤く染めながら、こくんこくんと力強くうなずく。
「はいです! で、でないと……い、意味が無いので!」
正直同じホテルの部屋に、JKと二人きりという状況はよろしくない。
あとでこっそり別のホテルを……。
「せんせー……」
俺の心のなかをのぞいたみたいに、菜々子が泣きそうな顔になる。
「そんなに……わたしと一緒、いやですか?」
菜々子に泣かれると、困る。俺はこの不憫な子に泣いてほしくないのだ。
「……そんなことないさ。一緒に泊まろう」
「はい! やったー!」




