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【完結】窓際編集とバカにされた俺が、双子JKと同居することになった  作者: 茨木野
第6章

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73話 王子とサシ飲み



 修羅場のあった翌日。


 夜、俺は都内のホテルにてある、バーラウンジまで来ていた。


「やぁ! 光彦みつひこ、こっちだよ」


 カウンターには、一人のイケメンが座っていた。


 白馬はくば 王子おうじ


 ラノベ業界で、NO.2の誉れも高い、超人気作家だ。


 代表作は【AMO】。


 王子と俺は大学時代からの友人で、今はビジネスパートナーでもある。


「悪い、待たせたな」

「いや、私も今来たところだよ」


 俺はカウンターの前に腰を下ろす。


 カクテルを注文し、俺たちはグラスをあわせる。


「では……我が友人達が、めでたく結ばれたことを記念して……乾杯!」


「あ、ああ……」


 ちんっ……。


「いや、本当にめでたいよ。私は心から、一花くんと君とが結ばれたことを、祝福する」


 王子は一花とも友人関係にある。


 俺たち三人は同じ大学の、同じ薮原やぶはらゼミの仲間だった。


「これはささやかながら私からのプレゼントだよ」


 ぱちんっ、と指を鳴らす。


 バーテンダーがカウンターから、1本の高級ワインを取り出す。


「年代物の、凄い高いやつじゃないか。いいのか?」


「ふっ……我が親友が幸せになるのだ。このくらいのことはせねばなるまい」


「ありがとう、一花と大切に飲むよ」


 俺たちはカクテルを飲みながら会話する。


「しかし結ばれるまでに苦節10年以上か。本当に長い時間がかかったものだね」


「そうだな……もう10年か」


 裏を返すと、王子はもう10年以上も、現役でラノベ作家をやっていることになる。


 彼は、大学1年生の時にデビューし、今に至る。


「おまえがラノベ作家として、超有名になるまでの時間って考えると……かなり長いな」


「はは……超有名はよしてくれよ。私は……ナンバー2だからね」


 王子の、AMOはかなり売れている。

 というより、日本のラノベ界において、【アーツ・マジック・オンライン】の名を知らない人はいない。


 VR世界を舞台に、魔法剣士が冒険する。

 そのストーリーを知らずとも、黒い魔法剣士のキャラクターを見たことがあるだろう。


 たくさんの人に愛される、ビッグコンテンツ……それが、AMO。


 だが……それでも、業界NO.2なのだ。


「カミマツ先生か」

「そう……我が永遠のライバルがいるからね」


 カミマツ先生。ウェブ出身で、代表作の【デジマス】が空前絶後の大ヒットを噛ましている。


 この間のラノベ原作のアニメ映画は、興行収入が600億円を突破した。


 待望のアニメ2期が、来年の1月から放映される。


「みな、デジマスの2期を楽しみにしてるのさ」


「いや……AMOの映画だって、みんな楽しみにしてるよ。俺だってそうさ」


 AMOは劇場版が、11月から、全国でロードショーされる。


 注目は、凄い集まっている。


「ふふ……そうだね。うれしい限りだ。読者、ファン、スタッフ、キャスト……そして編集の二人がいたから、ここまでこれた。感謝の念しかないよ」


 俺は王子の、AMOを担当もしている。


 最初からではない、俺は2代目だ。


「なら……なんでそんな切なそうな顔してるんだ?」


 王子は目を伏せてカクテルを優雅にあおる。

 ふぅ……と一息つく。


「我が心の友である君にだから話すがね……」


 ぽつり……と王子はつぶやいた。


「……怖いのさ」


「怖い?」


 王子は優雅なたたずまいは崩さず、俺を見て言う。


「AMOの映画は11月。カミマツ先生のアニメは二ヶ月後の1月。そして……私の新作は、カミマツ先生と、同時発売……」


 言わんとしていることが、わかった。


「カミマツ先生に……負けることを、恐れてるのか?」


 小さく、本当に小さく、王子がうなずく。


皆の前では、もちろん、カミマツ先生の前でも……強がってはいるが、王子も、怖いのだ。


 あの、化け物ともいえる、ラノベ作家……カミマツ先生が。


「あまり言いふらさないでおくれよ。私に期待して、応援してくれてる人たちに……不安な姿を見せたくない」


 白馬 王子といえば……。


 白いスーツに亜麻色の髪。

 きらりと光る白い歯がまぶしく、まさしく王子様という見た目をしている。


 いつだってファンの前では笑顔を絶やさず、そしていつだって、自分以外のクリエイター、制作を手伝ってくれるファン。


 そしてなにより、支えてくれるファン達に……【白馬 王子】であり続けた。


 だが、俺は知っている。

 こいつだって、一人の人間なんだ。


 不安に思うこともある。


「言うわけないだろ」


「ありがとう。君は優しいね」


 疲れたように笑って、王子がカクテルをあおる。


「大丈夫だよ。王子。おまえの新作も、AMOも映画も、素晴らしい出来だよ」


「ああ、わかってるさ。最高の人たちが、最高の実力を発揮してくれた。私にとっての、宝物だ……だからだよ」


 だから、と王子が続ける。


「負けるのが、悔しいのではないか……!」


 王子はグラスをぎゅっ、と握る。

 肩をふるわせていた。


「おまえ……カミマツ先生の、新作のラブコメ読んだのか……」


「ああ……彼の担当の、佐久平さくだいら編集に頼み込んで見せてもらったよ。……規格外だった」


 誰よりも、ラノベ作家としての実力がある、王子だからこそ……わかるんだ。


 カミマツ先生が、8月末に出す予定の新作が……。


 とんでもない、大傑作であることを。


「我がライバルは本当に天才だよ。あの若さで、あの物語を書けるなんて……。しかも、ファンタジーとラブコメ、全く違ったジャンルだというのに……」


 作家にも得手不得手なジャンルというものがある。


 AMOはSFファンタジーだ。

 王子はそういう、ちょっと理系っぽい話が得意なのである。


 一方で、ラブコメはとんと書いたことがない。


 ……いいや。

 俺だけは、知っている。


 白馬 王子の、幻の、没原稿を。


「おまえも、ラブコメ書きたかったのか?」


「……いいや。わかってるからさ。私には、ラブコメが書けないとね」


 一度だけ、カミマツ先生に勝つことを目標に、彼が書いたことのないラブコメに挑戦したことがある。


 文句なしに、面白かった。


 だが……神には、遠く及ばなかった。


 俺も王子も、理解したのだ。

 このジャンルでは、神を越せないと。


 協議の結果、王子は原稿を没にした。


 無論、このことは編集であり、友人である俺しか知らない。


「AMOでも、負け。ラブコメでも負ける……私は、いったいどうすれば、彼にかなうのだろうかな……」


 肩を落とす俺の友人。


 俺は……友人として、彼に言う。


「まだ、諦めるのは、早いだろ」

「光彦……」


 俺は王子の手を握る。


「まだ、勝負は終わっちゃいない。これから先、ずっと続いてく。諦めたらそこで……おしまいだ」


 俺は苦い記憶とともに、彼に言う。


「王子……おまえには才能があるよ。間違いなく。俺にはなかった……誰かに夢を見させられるだけの、物語が書ける。おまえは……選ばれた天才なんだよ」


 俺にはなかった、ラノベ作家としての才能。

 彼は持っている。


 だからこそ、最前線で戦えている。


「カミマツ先生は規格外の化け物だ。宇宙人だ。そんな理外の超越者に、勝負を挑む方がおろかだろう……。そう言うやつらも、いるかもしれない」


 でも、と俺は続ける。


「俺は、それでもなお神に挑み続ける挑戦者である……おまえを、いつまでも全力で支えるよ」


 開田かいだるしあも、白馬 王子も、唯一無二の才能を持っている。


 神に手が届く可能性を、ふたりに確かに感じている。


「……私の、そばにいてくれるかい? 神に無謀にも勝負に挑み、ボロボロになって……最後には潰えるかもしれないとしても?」


「ああ。そのときは、一緒に心中してやるよ。でも……そうはさせない」


 俺は拳を突き出す。


「いつかはわからない。けど……絶対、俺たちで神を倒そう」


 王子は目を丸くして……ふっ……と笑った。

「まるで物語の主人公みたいだね」


「何言ってるんだよ、主人公。これは、おまえが神に挑んで、勝利する物語だろう?」


「ふっ……ふっ、ふあははは! ふーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーはっはっはーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 王子は立ち上がると、ばっ……! と髪の毛を手で払うポーズを取る。


「その通り! よくわかってるじゃあないか!」


 きらりと光る白い歯、自信に満ちた表情。


 そこにいたのは、誰もがよく知っている、スーパーラノベ作家……白馬王子だ。


「この私こそが! 神を倒せる無二の男!」


「ああ、その通りだ」


 王子は笑って、俺に拳を打ち付ける。


「ありがとう、光彦。君のおかげで元気が出たよ」


「お安いご用だ。俺はおまえの友達だからな」


 彼は微笑むと、椅子に座る。


 バーテンダーに謝る。


「すまない、大きな声をかけて、ご迷惑をおかけした」


「いえ、白馬先生。お気になさらないでください」


 バーテンダーが、すっ……とカウンターに二人分のカクテルを出す。


「こちらは店からのサービスです。先生……おれ、応援してますから!」


 バーテンダーも、AMOのファンだったらしい。


 気恥ずかしそうに笑うと、にかっ、といつもの自信に満ちた笑みを浮かべる。


「ありがとう! 何かかくものはあるかい? サインをしてあげようっ!」


「急に言われましても……」


 俺はバッグから、サインペンと色紙を取り出して渡す。


「おお! 準備がいいじゃあないか。さすが編集者」


 打ち合わせ中、急にファンからサインを求められるってシチュエーションもあるからな。

 いちおう一式持っているのだ。


 王子はサインを華麗にきめると、バーテンダーに渡す。


「いつも応援ありがとう。私はこれからも、王子であり続ける!」


「ああ、それでこそ……白馬王子だよ」


 俺たちは笑って、また酒を飲むのだった。

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― 新着の感想 ―
つーかおかりんが現在のハーレムをもとにラブロマンスのラノベを書いたら良いのでは?
[良い点] 小説の中に、もう1つのストーリー。 良い! あ、もしかして、この小説からさらに分岐して新作が生まれる予感。 というか期待。
[一言] 男同士の友情もたまには良いものですよね!
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