表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】窓際編集とバカにされた俺が、双子JKと同居することになった  作者: 茨木野
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/181

49話 るしあからの恋文



 山小屋へと移動した俺たちは、昼飯を食べることにした。


「じゃーん! あかりちゃん特製のピザでーす!」


「「おおー!」」


 小屋にはピザ釜があり、それを使って、あかりがピザを作ったのである。


 折りたたみテーブルと椅子を出して、俺たちは晴れた夏空の下、昼食を取る。


「す、凄いぞ! あかりっ、やきたてのぴっつぁだ!」


 白髪の美少女ラノベ作家るしあが、その赤い眼を、紅玉のように輝かせる。


「へへーん、どうよ。生地もソースもお手製ですぜ?」


「……あかり、すごいです!」


「ふふん、どやー?」


 きゃあきゃあ、とふたりがあかりを褒める。


「本当に見事なものね、あかりちゃん。飲食店で働いてるからかしら」


 一花いちかも感心したように、あかり特製ピザを見てうなずく。


「別に働いてたとかそーゆーの関係なくって、まーようするに、食べて喜んでもらいたいって気持ちが大事だと思うな」


「気持ち……」


「そ。大好きな人に食べてもらいたいって強い気持ちがあれば、誰かに習わずとも、自ずと、料理スキルは上達するもんだよ」


「な、なるほど……参考になるわ」


「今度教えてあげよっか♡」


「え、遠慮しておくわ……」


 一花がたじろぐが、あかりは笑顔のまま言う。


「遠慮しないでよー。一花ちゃんも料理くらいできたほーがいーって。あかりちゃんの味を伝授してあげましょー」


「そ、そうね……じゃあ、今度お願いしようかしら」


 あかりが満足そうにうなずく。


「じゃ、みんな……食べて食べてっ。ほら、おかりんは切り分けて」


「あいよ」


 あかりはみんながいる前では決して迫ってこない。


 俺はどこかホッとしながら、ホイールのようなカッターで、ピザを切り分ける。


「おかや」


 るしあが俺のそばまでやってくる。


「どうした、るしあ?」

「ワタシも何か手伝えることはないか? 何でもするぞ?」


 真面目な顔つきで、彼女が俺に問うてくる。


 一人だけ何もしないのが、心苦しかったのだろう。


「こっちは一人で大丈夫だ。ありがとう」

「……そうか」


 肩を落とし、少し寂しそうな表情のるしあ。


 せっかく申し出てくれたのに、断るのは気が引けた。


「ならるしあ。紙皿を持ってきてくれないか。キッチンに確か合ったはず」


 ぱぁ……! とるしあが表情を明るくする。


 処女雪のような白い肌に、赤みが差す。


「ああっ! まかせておけっ! 見事、おかやからのミッション……この命に代えても果たしてくるぞっ!」


 だだっ、とるしあが山小屋へと走って行く。


 ログハウスの階段にて……。


「ぷぎゃっ!」


 るしあがつんのめると、躓いてしまう。


「だ、大丈夫っ?」「お嬢様!」


 一花が誰より早く彼女の元へ行き、体を抱き上げる。


「お怪我はありませんか!?」

「問題ない。大げさなのだおまえは」

「しかし……」


 るしあは首を振って言う。


「今は休暇中、おまえはワタシのボディガードではないのだ」


 ぐいっと一花を押しのけて、るしあが立ち上がる。


「すまなかった。すぐ取ってくる」

「ああ、頼んだぞ」


 るしあはうなずくと、こつこつ……とサンダルをならしながら、小屋の中へと入っていった。


「大丈夫かしら……」


 そわそわ、と一花が心配そうに何度も、小屋を見る。


「大丈夫だろ」

「でも……」


「あの子は……もう18だ。もう……子供じゃないんだよ」


 ……それは、自戒を込めての言葉だった。

 あかりと菜々子ななこを見やる。


「アヒージョも作ってみましたっ!」

「……すごいっ、あかりは何でも作れるねっ」


「でしょ~。クッキングマスターあかりちゃんとお呼びになってもよろしくってよ?」


 あかり。あんなに無邪気に振る舞っているのに、先日と今朝は、ぞくりとするほどの色香を振りまいていた。


 菜々子ななこだってそうだ。

 もう男を受け入れられる体になっている。

「高校生は……俺たちが思っている以上に、子供じゃないんだよ」


 大人が、子供だからと言うのを免罪符にして、過保護にしてやるのは、あの子達を無自覚に傷つけることにもなる。


 思っている以上に、子供は、【子供だから】という言葉を嫌う。


 それが彼女たちを傷つけていたことを、俺は嫌と言うほど思い知らされた。


 あかりが、あんな強硬手段を執ったのは、それだけ、俺の配慮が足りなかったからだろうな……と今冷静になって気づいた。


「……岡谷おかやくん。なにかあった?」


 不思議そうに、一花が俺に聞いてくる。


「ああ……ちょっとな」


 ほどなくして、るしあが紙皿を持って、帰ってくる。


「おかやっ。一花っ。どうだ、ちゃんと見付けてきたぞっ。しかも飲み物のコップまでちゃんと!」

 

 るしあが笑顔で、俺たちに手を振る。


「ほらな。任せて良いんだよ」

「そうね……そうかも」


 るしあが俺たちの元へやってきて、あかりが言う。


「よーし、じゃあいただきまーす!」


「「「いただきますっ!」」」


    ★


 あかり特製のピザを堪能した俺たちは、しばし自由行動をすることになった。


 あかりは菜々子を誘って、周辺を探索するらしい。


 一花と俺は空いた食器を片付けていた。


「おかや」


 振り返ると、るしあが真面目な顔で立っていた。


「ちょっといいか?」

「ああ。一花、あと任せるな」


 るしあが俺を呼んだと言うことは、おそらくさっきに言っていた、話したいことだろう。


 俺は彼女に連れられ、2階へと向かう。


 2階にもテラスがあり、ここでもバーベキューができそうだ。


「おかや。2つ。おまえに伝えるべき事がある」


「2つか。聞こう」


 るしあは肩からポシェットをかけていた。

 中から、1枚のルーズリーフを取り出し、俺に手渡す。


「これは?」

「新しい作品のタイトルだ」


 俺はルーズリーフを開く。


「【君と二人旅に出よう、滅び行く、世界の果てまで】……か」


「ああ。おかやが作ってくれたタイトル案をもとに、ワタシが作った」


 るしあはそわそわ、と体を揺する。

 俺の反応を欲しているのだろう。


「最高のタイトルだよ。内容と実に合ってる」


「そ、そうかっ! よかった……!」


 るしあは体を震わせると、その場でぴょんと飛び跳ねる。


「ハッ……! んんっ。ありがとう、おかやにそう言ってもらえると、とても自信がついたよ」


 子供っぽい所作から一転、普段の硬いしゃべり方をする。


「しかしおかや……さすがだな。一晩で、こんなにたくさんの候補を作ってくれるとは……」


 るしあがポシェットから、紙の束を取り出す。


 俺が素案としてかんがえたタイトルを、あらかじめ彼女に書いて渡しておいたのだ。


「おかやが、全て決めて良かったのに」


「いや、やっぱり作品は、作者のものだよ。編集の案は、参考にする程度でいいんだ」


「そうか……ありがとう。おかやの書いてくれた案の中で、気に入ったもの2つをくっつけて、整えてみたんだ」


 ふふっ、とるしあが笑う。


「ワタシとおかやとの、いわば子供だな」


「ああ、そうだな」


「~~~~~~~~~~! い、今の無し! 今の発言はて、撤回する! 忘れてくれ……」


 頬を赤く染めて、るしあがその場でしゃがみ込む。


 恥ずかしかったのだろうな……。


「これでタイトル問題は解決した。あとはイラストが上がってくれば、秋には本が出る」


「そうか。楽しみだ。なあおかや……タイトルなのだが、ちょっと長いだろうか」


「そうだな。略称とか決めた方がいいかもしれない」


「ううん……思い浮かばない。おかや、なにかないかな?」


 まあ、略称を決めるくらいだったら、俺の裁量で決めても良いか。


「なら、【きみたび】ってのは、どうだ? まあ単に短くしただけだが」


「きみたび、か……いいな! それ、気に入ったぞ! さすがおかや、センスがあるなっ」


 ……俺にセンスなんてものは、ない。


 だがそれをここで言うべきではない。


 彼女が頼ってくれているのなら、それに応える。ただ、それだけでいいんだ。


「それで、タイトルの件と、あと一つ、俺に用事ってのは、なんだ?」


 るしあは、固まってしまう。


「それは……」


 頬を赤く染めて、目を伏せる。


 ……ああ、その目。

 俺はつい先日も、同じような眼をした女の子を見た。


「……子供じゃないんだな、やっぱり」


「おかや?」


「いや、なんでもない。話を聞くよ」


 るしあは決然とした表情で、俺に近づいてくる。


「……前から、決めてはいたんだ。この原稿、ひと段落したら、想いを伝えようと」


 ポシェットから、一枚の、便せんを取り出して、俺に渡す。


「この手紙、あとで読んでくれ」


 短くそう伝えると、彼女は走って去って行った。


 耳の先まで真っ赤だった。


「…………」


 俺の手には、ピンク色の便せんがある。


 ハートマークのシール。

 裏には【開田かいだ 流子りゅうこ】と、達筆な字体で、本名が書かれていた。


 俺は便せんを開けて、中身をあらためる。


「……古風だな、お嬢様は」


 そこには、要約すると、こう書いていた。


『好きです。ワタシと、付き合ってください』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 気づきおった!? 開田グループの人間って気づいてた???
[気になる点] 電撃文庫から出てる本とタイトルほぼ同じなんですが萬屋直人本人?それとも許可取っただけ?
[良い点] えっ?もしかして、「旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。」の作者?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ