101話 ぱしゃり
昼飯のラーメンを食べた後、俺たちは札幌の町へとかり出した。
「……ほんとに、北海道感ないですよね。都会感といいますか」
「そうだな。まあ地方へ行っても、中心部はこんなもんだ。俺の実家の長野も、県庁所在地は結構さかえてたよ」
もっとも東京のさらに中心部、たとえば渋谷とかと比べたら、さほどだけれどな。
菜々子は大通りの歩道を歩きながら、キョロキョロと周囲を見渡す。
スマホを向けてぱしゃっと取る。
「珍しいな、菜々子が写メとるなんて」
そういえば、さっき飯食ってるときも、珍しくラーメンの写真を撮っていた。
あかりはよく、食べてるものを写真に撮っている。
データとして残して、あとで何を食べたのか思い返すためだそうだ。
また、記録することでダイエットになるらしい。
あかりは結構外の景色や食ったものなど取る一方で、菜々子はあまりそういうことをしない……はずだったんだが。
「……あかりちゃんに、写真送って上げようかと」
「あかりに?」
「……はい。おうちにいるあかりちゃんに、旅行気分になってほしくって」
自分一人だけ満喫するんじゃなくて、妹のことを考えての写メだったのか。
ほんと、お姉ちゃんしてるな、菜々子は。
「写真撮ってやろうか?」
「いいんですかっ?」
「おう。ほら、ポーズとりな」
菜々子からスマホを受け取り、ぱしゃっと取る。
菜々子がとてもうれしそうな笑顔を向けてくる。
思わず、どきっとしてしまうくらいだ。
「ほら」
「……ありがとうございますっ。えへへ、せんせーに写真とってもらいました♡」
「そんなことでうれしいのか?」
「……はい、そんなことが、うれしいんです♡」
些細なことに喜びを見いだしてくれる。
彼女のなかで、俺が特別な存在として扱われている。そのことが、とてもうれしく思えた。
「……あかりちゃんに送信っと。はやい、もう返事がきましたっ」
「どれどれ」
ラインの画面を菜々子が向けてくる。
【楽しそうですね( ̄ー ̄)】
……。
…………。
「これ、怒ってないか?」
「……そうですか?」
「ああ、なんか怒気を感じるような」
「聞いてみますね。怒ってますか、と」
ぴこんっ♪
【ぜんぜんまったくこれっぽっちも一ミリたりとも怒ってませんけどぉ?(@^▽^@)】
……怒ってる。これは、確実に。
おそらくは俺が菜々子の写真を撮って嫉妬しているんだろうな。
まったく、大人びたところがあるけど、子供っぽいところも同じくらいあるよな、、あいつ。




