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第四話

 在り得ない。まず最初に考えたのはそんなところだ。あの後一度も会えやしなかった「おねえちゃん」とこんなところで再会するなど、奇跡にしてもあまりにも馬鹿げている。一体どれだけの偶然が重なればそんな事が起こるのだろう。

 私は中学校の頃に一度引っ越しているので、当時の小学校があった地域とは車で十時間かかる程度には離れている。だから少なくとも、彼女がこの学院に来るためにはこの周辺に引っ越していなければいけない。

 そして、この辺りには名の知れた県立高校があるし、ここよりも大きな私立高校も三校程ある。そんな中から、この百合園学院を選んでいなければ、彼女はここにはいないのだ。

 そんな偶然が起こりうるのだろうか。いや、可能性はあるだろう。決してゼロではない。

 だがしかし、それが実際に起こったと考えるには少し確率が低すぎる。

 やはり、私の勘違いなのだろうか――


「おい、松崎! 白沢さんが怖がっているだろう」

「……え?」


 教師の怒声で我に返った。どうやら彼女の事を怖がらせてしまったらしい。

 いつもの悪癖だ。考え事をしていると無意識の内に眉間にしわが寄り、目が細くなって、まるで睨み付けているかのような表情になってしまうのだ。

 よく「怖いからやめてくれ」と言われるのに、またやってしまった。どうにも直らないこれにはいつもうんざりする。

 身を縮こませてプルプルと震え、涙目になっている彼女はこれまた可愛らしいものだったが、今は彼女の事を観察している場合ではない。


「……ごめんなさいね」

「い、いえ……」


 頭を下げて謝りはしたが、態度はあまり変わらなかった。微妙な空気になってしまった中、担任が彼女に席を指示し、そこに移動したところでホームルームは終了となった。


     *


 あれから一週間がたった。私はあの後何度か白沢さんに話しかけようとしたのだが、その度に逃げられてしまい、結局一言も話せずにいた。

 彼女の態度を見ていると、なんだか私がいじめているようで虚しくなってくるので、自分から話しかけようとするのは止めることにした。それに、ただでさえ教師に目をつけられている自分だ、ここで何かやらかしたら面倒なことになる。

 私は今日も今日とて最後列の席で、ぼんやりと授業を聞いていた。

 ……聞き飽きたメロディが教室に響く。授業終了のチャイムだ。


「よーし、じゃあ今日はこれで終わりだ」


 そんな教師の合図で週番が号令をかけ、起立、礼。そのすぐ後に担任が教室に入り、帰りのホームルームへと突入した。

 大して面白くもない上、重要でもない話を延々と続ける担任の声を淡々と聞き流し、私は何となく白沢さんに視線を向けた。

 彼女は何が楽しいのか、担任のくだらない話を馬鹿正直に聞いている。時折吹き出しそうになるのを堪えているあたり、本当に楽しそうだ。

 ――ふと、白沢さんがこちらを向いた。当然私は白沢さんの方を見ているので、視線が合わさる。

 一瞬、どうしようかと迷って、小さく手を振ってみた。勿論、頑張って笑顔を作って、だ。

 彼女は私の対応を見て一瞬意外そうな顔をして、気まずげな表情になった後、すぐに前を向いた。

 ……これで少しは印象をよくできただろうか。そんな事を悩んでいるうちに、ホームルームが終わり、掃除の後放課となった。

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