091_31層の城
まったく先が見えない白い階段を上がり続けて、すでに3時間くらいは経過したと思う。
「どこまで続くんだよ、この階段は?」
思わず愚痴が出てしまった。
「31層に到着する気配が、まったくありませんね」
セーラも、嫌気がさしているような表情だ。
どこまでこの階段があるか知らないが、いい加減にしてほしいものだ。
「主。腹が減ったぞ」
「サンルーヴもおなかすいたワン」
「そうだな、ここで休憩をとるか」
俺たちは、階段に腰を下ろす。
セーラが、温かい飲み物とお菓子を皆に出してくれた。
「ふーふー。ズズ……」
コーヒーを冷まして飲む。最近、セーラがコーヒー豆のブレンドに凝っているので、コーヒーが出てくる機会が増えた。
「今回のコーヒーは、フルーティーな味わいだけど、最後に酸味が残るね。俺は、この味は好きだよ」
コーヒーの味に詳しくないが、美味しいと思う。
「ブレンドの比率を変えたのですが、美味しいと言っていただけて、嬉しいです」
セーラのオリジナルブレンドは、元々不味くはなかったけど、日に日に味がよくなって、最近ではこれがないとと思ってしまう。
「この階段、どのくらいあると思う? ぶっちゃけ、いい加減ウザいんだけど」
休憩して考えをまとめると、結論としてウザいとなった。
「何もなく、ただ階段を上がるだけなので、正直、私もうんざりしていました」
エリーも不満を溜めていたようだ。
「魔物も出てこない、クソな階段しかないんじゃないか、これ?」
リーシアは口が悪いぞ。
「サンルーヴは、わからないワン」
サンルーヴはいいんだよ。なでなで。
「どっかで見切りをつけるというのも、一つの案だと思います」
セーラも階段の多さに辟易としていたのだろうな。
『インス。この階段はどこまで続くんだ?』
『今、情報を解析しています。もう少しお待ちください』
『よろしく頼むよ』
情報を解析するなんて、インスにしては珍しいことだ。それだけこの階段が異常なんだろう。
しばらく休憩を終えて再び階段を上ることにした。
高いステータスのおかげで疲れはそれほどない。しかし、先が見えないというのは、ステータスに関係なく精神的にくるものがある。
『マスター。お待たせいたしました。情報の解析が終わりました』
『待っていました!』
『この階段はどこまで上っても、終わりはありません』
『え? ……それって、どういうこと?』
『破壊できる壁があり、そこを通って先に進むのです』
『横穴を作るわけか』
『はい。あと10メートルほど上ると、破壊できる壁があります』
『了解。ありがとう』
「皆、聞いてくれ」
足を止めて声をかけると、皆が俺に注目した。
「インスが解析してくれて、この階段を上っても先には進めないことが分かった」
「なんだと!? それじゃあ、この階段を上っても意味はないのか、主!」
「そういうことになる」
ドンッと壁を殴ったリーシアに、落ちつけと言い聞かせる。
「その怒りは、10メートルほど上の壁にぶつけてくれ。その壁を破壊して横穴に入っていけるようになるそうだ」
「よしっ、俺に任せろ!」
言われなくても、そういうことはリーシアに任せるよ。
「しかし、嫌らしい階段ですね。インスさんがいなかったら、延々と階段を上り続けることだったのですね」
「エリーの言う通りだ。この階段を作ったのが誰かは知らないが、性格が悪いことこの上ないな」
あの管理者さんだと思うけど。
10メートル上ってインスが指定する壁の前に立つ。
「リーシア。ここだ。この壁を破壊してくれ」
「おう、任せろ!」
メタルタイタンの大斧を大きく振りかぶるリーシアの顔は笑顔だ。こういう何かを壊すという時には、オーガの本能が出てくるのかもしれない。
「はっ!」
メタルタイタンの大斧を壁に向かって振り下ろす。壁に少しだけめり込んだメタルタイタンの大斧を見て、リーシアは不満顔だ。
「なかなか硬いじゃないか。やる気がでてきたぜ!」
再びメタルタイタンの大斧を振りかぶる。
「はぁぁぁぁぁっ、万斧撃!」
スキルを発動し、壁を一気に破壊するつもりのようだ。
轟音と共に壁に大穴が開き、破壊した壁の破片が周囲に飛び散る。破片が俺たちに当たる。
「痛いって」
皆は無事かと確認すると、セーラは魔法で防ぎ、サンルーヴは破片が当たらないように避けていた。エリーもサンルーヴには及ばないが避けていて、どうしても避けられない破片は盾で防いでいた。
俺だけ破片の直撃を受けてしまったわけだが、なんか納得いかない。
「主、横穴ができたぞ」
「よし、進もう」
俺たちはリーシアが作った横穴に入り、先に進んだ。横穴は今までの白い階段とは違い、灰色の石の壁で薄暗い。
『インス。どのくらいでこの通路を抜けるかな?』
『100メートルほどで、広い空間に出ます』
『今回はすぐだったか。ありがとう』
やや右回りにカーブしている通路を歩くと、光が見えてきた。あれが出口なのだろう。
「皆。何がいるか分からないから、警戒してくれ」
「おう!」
「わかったワン」
「了解です、グローセさん」
「はい、旦那様」
皆に警戒を促し、うす暗い通路から明るい広い空間に出る。
「「「「「………」」」」」
通路の先にあった空間には林が広がっていて、その林の中に一本の道が伸びている。その道の先には、巨大な城が聳え立っていた。なんというか、シンデレラが住んでいそうな城だ。
「私が生まれ育った城の倍はありそうです……」
デルバルト王国の王女であるエリーの言うように、規模が圧倒的に違う城だ。
「門は開け放たれているようですが、このまま進みますか?」
セーラが冷静に確認してくる。さて、どうしたものか? 何かの罠ということも考えられるが……。
『インス。罠はあるか?』
『申しわけありません。まったく分からないのです』
『インスでも分からないのか……。注意しながら進むしかないか』
この空間では、色々と制限があるのかもしれない。こういう何も分からない状態は、怖すぎる。
「このまま進むしかないようだが、インスでも罠があるか分からないと言っているから、十分に注意してくれ」
皆が頷き、俺たちは進むことにした。
跳ね橋を渡り門を潜って、威風堂々としながらも繊細さが窺える城を見上げた。
誰もいないし、気配も感じない。ただ、俺よりもサンルーヴのほうが気配感知能力は高いので、聞いてみることにした。
「サンルーヴ。何か感じるか?」
「なにもかんじないワン」
サンルーヴが可愛らしく首を傾げる。
サンルーヴでも分からないなら、どうにもならない。進むしかないようだ。
門からかなりの距離がある城まで歩き、城のエントランスへ到着した。
周囲を警戒しながら中へと進む。
城の中に入ると広いフロアがあって、その中央に天使の銅像がある。俺たちを歓迎しているのか、柔和な笑みを浮かべた豊満な女性の天使だ。




