076_謁見をぶち壊した後
「えーっと、そんなわけで……」
「エリザベート・カミラ・デルバルトです。皆さんのお仲間に入れてくださいね」
王女様だ。はぁ……。
「グローセさん、ダンジョンに関して呼ばれたはずですが、王女様を連れ帰るなんて、どういうことでしょうか? 説明をお願いします」
セーラ、そんなに目くじらを立てるなよ。
説明したくても、俺も混乱してるんだよ……。
国王がこの国のトップかと思っていたけど、この国のトップは王妃様のほうだった。
王妃様は前国王の長女で、現国王は王家の分家のなんとかという公爵家の次男坊だったそうだ。
分家なので王位を継ぐ王位継承権を持っていたが、かなり低かったらしい。
しかし、前国王が三十代前半の若さで倒れた時に王妃様が国王を伴侶に指名したことで、国王は王位を継いだらしい。
王妃様が女王として国政を預かってもよかったらしいが、国王に王位を与えたらしい。
それ以来、国王は王妃様に頭が上がらず、この国のトップは王妃様だと多くの貴族も認識しているそうだ。
婿さんは辛いよね。
そんなわけで、王妃様が王女様を人質として俺の嫁に出すことを決めた。国王は寝耳に水だったらしいが、王妃様と王女様の間で話ができ上がっていたらしい。
「セーラさん、マスターは混乱していますので、私から説明をしますね」
インス、頼むよ。丸く収めてくれ。
「マスターが調子に乗っている国王や貴族を追い込んだのですが、こちらにおられるエリザベート王女がマスターの妻になることで、収められたのです」
いや、その説明ではあまり分かりませんよ?
「主が国王を一喝した声は廊下にいた俺のところまで聞こえてきた。痛快だったぞ」
リーシア、そんなに楽しかったか?
そりゃー、俺も少しは楽しんだけどさ。
「今回のことで私も自由の身になりましたし、貴族はマスターに頭が上がらないでしょう」
「インスさんは自由なのですか? 一緒に赤の塔の町に帰ってもいいのですか?」
「はい、これからは常にマスターのそばにいることができます」
今までも俺の中にはいたけど、実体化したインスに毎日会えると思うと、嬉しいよ。
「それでエリザベート王女は信用できるのですね?」
「はい、すでにテイムによって従者になっていますし、大丈夫です」
「そうですか。なら、私がこれ以上何かを言う必要もないですね。サンルーヴは何かありますか?」
「ワン? よくわからないワン」
セーラの質問に首を傾げるサンルーヴが可愛い。なでなで。
場所をリビングに移して、皆でお茶を飲む。
「改めて自己紹介をさせていただきます。私はエリザベート・カミラ・デルバルトと申します。私のことはエリーとお呼びください。本日よりグローセ・ヘンドラー様の側室となります。以後、よろしくお願いいたします」
自己紹介でもあるように、王女のことはエリーと呼ぶことになった。
「私はインス・ヘンドラーです。マスターの妻でヘンドラー商会の副会頭をしています」
インスはにっこりと自己紹介をした。
美人の笑顔は見ていて心が癒される。
「俺はリーシアだ。主の愛人で護るのが仕事だ!」
鎧を脱いで普段着のタンクトップと短パンになったリーシアが自己紹介した。
お前も俺の妻だろ!? 愛人という自己紹介は止めろよ。
それとタンクトップでノーブラは止めてくれ。胸を張るとさきっぽのぽっちがしっかりと存在感を主張するから目のやり場に困るんだ。
「私はセーラ・ヘンドラーです。私もグローセさんの妻ですが、魔物討伐時には魔法を担当しています」
王女に対して失礼のないようにしようと気を使っているのが分かる。
セーラらしいね。
「サンルーヴはサンルーヴワン」
俺の膝の上でフルーツジュースを飲んでいるサンルーヴは俺の癒しだ。
狼耳をもふもふ最高だぜ。
皆が俺を見た。え? 俺も自己紹介をするの?
「ごほん。俺はグローセ・ヘンドラー。ヘンドラー商会の会頭をしている。ダンジョンはリーシアのストレス発散にいっているだけなので、ダンジョンが好きというわけではないぞ」
「何を言うか!? 俺よりも主の方が圧倒的に強いじゃないか!」
「リーシア、強いと戦いが好きというのはイコールじゃないんだぞ。俺は平和を好む紳士だ」
「ははは、主も冗談を言うのだな!?」
「いや、冗談なんかじゃないから……」
冗談だと思われていたことにショックを受けるんだけど。
「それで、主。ダンジョンにはいついくんだ?」
なんかスルーされて話が変わったよ。
「ん~、インス。いつにしようか?」
「マスターの好きなようにすればよろしいのではないですか?」
インスはダンジョンに興味がない。てか、王国の存亡に興味がないようだ。
仮に王国が他国から攻められたり、魔物のスタンピードで滅びそうになってもインスから手を差し伸べることはないと思う。
俺的にはエリーの手前、王妃様やエリーの兄弟姉妹は助けてやってもいいと思うが、国王や貴族は放置だな。
今回は報酬が出るからダンジョンにいくけど、滅びの危機に手を差し伸べるのは限られた人だけだ。
「あの、お話中申し訳ありません。できれば、早急にダンジョンを鎮静化させていただけると、私も貴族たちに巨額の報酬を要求しやすいのですが」
エリーは貴族から払われる報酬の額を、かなり大きくしようとしているようだ。
「そんなに貴族が嫌いなの?」
「ええ、嫌いです。あの者たちは特権を弄んでいるだけで、貴族としての責任を果たそうともしません」
「国王もそうなのかな?」
エリーは少し困った顔をした。
「残念ながらお父様も民が王侯貴族のために生きていると思い込んでいます」
俺はインス、リーシア、セーラの顔を見てからエリーの顔を見た。
サンルーヴは俺の膝の上だから、顔は見えない。
「そんな考えではこの国には未来はないと思うよ」
「私もそう思っています。ですから、国の体質を変えたいと思っているのですが、私には力がなくて……」
重い話になってしまった。
だけど、俺の妻としてエリーを受け入れた以上、エリーの悲しむ顔は見たくない。
貴族がどうなろうと構わないが、エリーの父親である国王がバカをやらないように見張っておくか。
綺麗な金髪で黒に近い藍色の瞳を持つ美しい十七歳の少女のエリーは、俺の従者になっている。
俺の妻になるという話が出た時に、俺と王女の二人っきりで話をした。
開口一番、俺には多くの秘密があるからエリーを妻にはできないと、俺は彼女を拒否した。
しかし、彼女は俺を一目見た時から、将来は俺の妻になると決めていたそうだ。
平凡で冴えない顔の俺になぜと思った。しかし、彼女は容姿ではなく雰囲気だと言った。俺が纏っている雰囲気が自分を引きつけたのだと。
そこまで言われた俺は彼女を王女だからという理由で拒否することはできなかった。
正直言って、彼女は美人だし性格も快活で魅かれるところがある。ただ、それだけで彼女を受け入れられないと思って、彼女の覚悟を聞いた。
「俺にはスキルの【テイム】がある。俺の従者になる覚悟はあるか?」
「貴方と一緒に歩むことができるなら、奴隷にだってなりましょう!」
その言葉を聞いた俺は、彼女を受け入れることに決めた。
「そんなわけだ」
「旦那様が異世界の人だなんて……」
俺の妻にすると決め、俺の従者にもなった彼女に俺の秘密を知ってもらおうと話をした。
それに俺の従者になった時、俺のことをヘンドラーと呼んでいた彼女にグローセと呼ぶように頼んだ。
そうしたら、「妻になるのですから、旦那様とお呼びさせていただきます」と言われてしまった。
旦那様……なんていい響きなんだろうか。鼻血が出そうだ。
「俺への気持ちが冷めたかい?」
「そんなことありません! むしろ、素晴らしいことだと思います! この王国の祖は異世界からやってこられた勇者様なのです! 旦那様が勇者様と同じ異世界人だなんて、私が感じた運命は間違っていなかったのですね!」
なんだと? エリーが異世界人の勇者の末裔?
『インス、その勇者は日本人なの? エリーの瞳が黒に近い藍色なのは、そのため?』
『申しわけありません、それについてはお答えできないのです』
『また管理者さんから禁止されているのか?』
『そう考えていただいて構いません』
過去の勇者が異世界人だったことで、過去でも俺たちのようにこの世界に連れてこられた人たちがいるのが分かった。
あの管理者さんはいったい何がしたいのだろうか?
それについてインスに聞いても答えることはできないし、直接本人に聞くしかないんだろうな。
てか、会える保証なんてないので聞くことができるか分からないけどさ。
「早速だけど、エリーのステータスを確認するよ」
「はい。私の全てを見てください!」
全てって……ステータスを見るだけだよ。
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氏名:エリザベート・カミラ・ヘンドラー
職業:イノベーションプリンセス・Lv21
情報:ヒューマン 女 17歳 ヘンドラー夫人
HP:1,100(A)
MP:2,700(S)
筋力:300(A)
耐久:300(A)
魔力:600(S)
俊敏:300(A)
器用:300(A)
魅力:600(S)
幸運:35
アクティブスキル:【王家の武(D)】
パッシブスキル:【王女の威厳(D)】【状態異常耐性(D)】【礼儀作法(C)】
魔法スキル:【封印魔法(E)】
ユニークスキル:【絆】
【王家の武(D)】どのような武器を使った戦いにも対応できる。
【王女の威厳(D)】王女としての威厳を自然に発する。
【状態異常耐性(D)】状態異常に対する耐性がある。
【礼儀作法(C)】王族に必要な礼儀作法。
【封印魔法(E)】対象を封印する魔法。
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なんていうか、職業がイノベーションプリンセスって斬新だよね。
イノベーションって革新だよな? 革新の王女? これじゃぁ、旧態依然とした貴族に不満があっても仕方がないよね?
アクティブスキルに【王家の武(D)】があるので、基本的には近接戦闘かなって思うけど、能力的には魔法使いなんだよね。
ただ、魔法は【封印魔法(E)】しかないんだよな。
しかも、この【封印魔法(E)】は対象を封印する魔法なので、使いどころが分からない。
そんなに頻繁に使う? 使える? 魔法じゃないと思う。




