067_港湾整備1
女将軍の屋敷で報酬の話をしている。
「我が領内であれば、その条件を飲める。だが、他領では税の免除はできぬぞ」
「それで結構です」
簡単に了承したけど、分かっていて税の免除をしてくれたのかな?
この女将軍はそういうことを考えるタイプではなさそうだから、あとから面倒なことになりませんように。
まぁ、面倒なことになる前に他の土地にも拠点を造って、面倒になったらここから引き上げればいいんだけど。
そうすると、従業員は奴隷がいいかな。他の土地の生まれの奴隷なら、この土地を離れるにしてもあと腐れはないだろう。
「グローセさん、あっさりと許可されましたね」
早速、物件を探しに港へ向かった俺にセーラがにこやかに話しかけてきた。
「そうだね。あの女将軍様はそういうことに無頓着なんだと思うよ」
「人がよいと言えばいいのか、世間知らずと言えばいいのか、ですね」
「まぁ、どっちも当てはまるだろうけど、後者の方が強いだろうね」
2人してちょっとだけ笑いあった。女将軍をバカにしたわけではなく、世間知らずのお嬢様に感謝を込めてだ。
港に到着すると、すぐに問題に行き当たった。
『マスター、購入予定の船ではこの港に寄港できません』
この港は木の桟橋があるだけで、桟橋の幅は狭いし水深も浅い。つまり、この港を使おうと思ったら、【通信販売(B)】で地球の船を買うのではなく、こっちの世界の船を買うことになる。
『もう一つ方法があります』
「ほう、それは?」
『マスターが港を造るのです』
「……港を……しかし、それでは簡単にこの国を離れることができなくなるぞ」
『マスターが逃げ出すようなことになれば、マスターがこの国を統治されればよいのでは?』
「それは勘弁してくれ。俺は商人でいいんだ。国にまで手を伸ばす気はないぞ」
『でしたら、マスターの配下をこの国の主要なポジションに就けてしまえばいいのです』
「それでは、国を支配するのと一緒ではないか……」
『その点については、このインスに任せていただければ全てを行います』
「……本当にやりそうだな……それについては保留にしてくれ」
『分かりました』
インスも俺がもろ手を上げて賛成するとは思っていなかったのだろう。すんなりと引き下がった。
「まぁ、港は造ってもいいかと思う。何か問題があったら港を放棄して逃げればいいんだから」
『では、港の建設地の候補を提案します。候補地は―――』
インスから提案された港の建設地の候補は商業港と漁港より少し離れた砂浜だった。
「たしかに広いし何もないから港を造るにはいいのかもしれないけど、本当に何もないな」
入り江になっているけど、桟橋や消波ブロックなど、何もない砂浜である。
早速、この砂浜の地権者と購入について商談をしようと思ったら、女将軍の土地だった。
民家や商家などがない空き地は全て女将軍の家の土地らしい。領主だからそんなものかと、女将軍と商談をする。
「あんな場所を購入するのか? たしかにヘンドラー殿が持っている船なら砂浜の方がいいだろうが」
「購入後、港を造りますので、その御許可と海上貿易の権利も頂ければ幸いです」
高級ワインを開けて女将軍に勧める。商談なのに酒なんか飲んでいいのかと思うだろうが、ワインは水の代わりに飲まれているのだ。
「このワインは美味いな。これを購入したいが」
「港ができれば、このワインも輸入できますよ」
「ふむ、分かった。あの入り江の砂浜と周辺の土地を売ろう。港の建設と海上貿易の権利も認めるぞ!」
高級ワインの味につられて許可を出してくれた。ちょろすぎるだろ。
とんとん拍子で契約が決まって、1億円で土地を購入した。海上貿易の権利も含めた金額だ。
女将軍があまり土地の値段に頓着していないのか、ばりばりの世間知らずなのか、思っていたよりも安く済んでしまった。
後は港を建設して船を浮かべればいいわけではなく、奴隷を購入して船の操船から何から何まで教え込まなければならない。
当面は大型の帆船を購入して運用することになるかな。
さすがにエンジンを積んだ船は誰がメンテナンスをするんだという問題が大きな壁になる。
その点、帆船ならこの世界にもあるので、まだメンテナンスがしやすいだろう。
それに操船の方も、ある程度の訓練は必要だと思うが、船乗りだった奴隷を購入すれば慣れるのは早いと思う。
「セーラ、頼むよ」
「はい!」
港の整備を進める俺とセーラ。
セーラは魔法で地面や海の底を固めて、その上に石を積み上げて突堤のような桟橋を500mに渡って造ってくれる予定だ。桟橋は10日ほどの工期を見込んでいる。
俺はホバークラフトで入り江の外側に向かい、海に向かって大きな消波ブロックをドボドボと落としていく。
入り江だけど波が入ってくるので、消波ブロックを積み上げて入り江への波の侵入を防ぐのが目的だ。
1000個以上の大型の消波ブロックを投入して、海面から1mほど顔を出した消波ブロックを眺めてうんうんと頷く。
「次は奴隷を購入しないとな。桟橋の方はセーラに任せっきりで悪いけど、頼んだよ」
「任せてください」
セーラの笑顔はとても優しいので、癒されるよ。
「主、奴隷ならアバス奴隷商店がいいと兵士たちが言っていたぞ」
兵士と毎日訓練をしているリーシアは、兵士と打ち解けているようだ。
「そうか、そのアバス奴隷商店に案内をしてくれるか」
「任せておけ」
最近、町中では革鎧を着ているリーシア。金属鎧はどうしても会う人を威圧するので、革鎧の方がいいと思って贈ったものだ。
もちろん、リーシアの好みである黒で統一している。
「サンルーヴはセーラのところでセーラを護ってやってくれるか」
「わかったワン」
お菓子の袋とフルーツジュースのパックを【通信販売(B)】で購入して、サンルーヴのリュックに入れてやると嬉しそうに尻尾を振るサンルーヴがとても可愛い。思わず頭を撫でてしまった。
「ルビーはご主人様と一緒にいくっピー」
ルビーは俺の肩に乗ってきた。最近、少し大きくなって大きめのオウムくらいの大きさになったので肩が凝りそうだ。
リーシアについてアバス奴隷商店へ向かった。
「ようこそいらっしゃいました。私はアバス奴隷商店の店主をしております、セバス・アバスでございます」
出てきた時には執事かと思ったが、名前まで執事だ。しかし、そんなダンディなおじ様がこのアバス奴隷商店の店主らしい。
「私はグローセ・ヘンドラーと申します。奴隷を購入したく、寄らせていただきました」
「これはこれは、ありがとうございます。今話題のヘンドラー様にご来店頂き、このアバス奴隷商店の誉れとなります」
話題? 俺はリーシアの顔を見た。
「主はクラーケン退治をしたのだ、噂にならぬ方がおかしいだろ」
たしかにリーシアの言う通りだった。俺もいい加減、そういうのを認識しなければいけないな。
「今日はどのような奴隷をお探しでしょうか?」
個室に通されてお茶を出してもらい、アバスさんに俺がほしい奴隷のことを話していく。
「本当に怪我や病気の奴隷でも構わないのですか?」
アバスさんはかなり気にしているが、俺にとってスキルがあれば怪我や病気は関係ない。
なんといってもこっちにはルビーもいれば、俺だって自力でエリクサーを作れるのだから。
「ええ、構いません。死んでいなければこちらで治療をしますので」
「……分かりました。本来であればここに奴隷を呼び出してご覧いただくのですが、そういった奴隷については連れてくることができません。申し訳ございませんが、こちらへお越しいただけますか」
「問題ありません」
アバスさんに連れられて店の奥へとやってきた。薄暗く臭いも気になるレベルを超えているので、良い環境ではないと思える。
「このようなところで申し訳ございません。ここには、廃棄間近の奴隷が収容されています。皆、何かしらの身体的、精神的な問題のある奴隷たちです」
「先ほど通ってきたエリアの奴隷たちに比べると衛生環境がかなり悪いようですね」
嫌味ではなく、正直な感想だ。
「怪我が化膿したり、病気で体が動かせない者ばかりでして……」
「見慣れているわけではないですが、いくらかはこのような光景を見てきましたので分かっていますよ」
「ありがとうございます」
檻越しに見た奴隷たちはかなり酷い状態の者が多かった。
片腕がないことが軽傷に思えるほど、両手両足がない奴隷や何かの病気で体中がかぶれてしまっている奴隷、そして両目がくりぬかれ舌も切られてしまった奴隷がいるのだ。
「奴隷を物扱いして、酷い扱いをする方もいらっしゃいますので……」
奴隷に対して猟奇的な奴が多いようだ。
俺は全員のステータスを確認して、犯罪歴を確認していった。
「あの奴隷以外は全員購入します」
13人の瀕死奴隷の中で1人だけ犯罪歴があったので、その1人以外の12人を購入することにした。
「12人もお買いになるのですか?」
「はい、何か不都合がありますか?」
「いいえ、そのようなことはございません!」
アバスさんは戸惑いながらも奴隷契約を進めてくれた。
本当は【テイム(S)】で契約をしたかったが、俺の【テイム(S)】では相手の了承がないとテイムできないから、俺の声が聞こえているかも分からない状態の奴隷とは契約ができないのだ。
その点、奴隷契約は一方的に契約ができるから、12人が俺の言葉を聞き判断できるようになってからテイムに切り替えればいいだろう。




