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057_逃避行でもしよう

本作が書籍化されます。ありがとうございます。

11月に発売です。

光文社様の光文社ライトブックスから出版されます。

 


 ホノカ・ヒノ

 赤髪・赤毛の魔法使い。

 火系の魔法をこよなく愛する火バカ魔法使い。

 特に爆破系の魔法が得意。

 これまでに赤の塔の十三層までを一人で踏破。


 タケオ・オオサキ

 黒髪・黒目の魔法使い。

 魔法使いなのは分かっているが、戦い方の詳細は不明。

 ソロで赤の塔に入っては珍しい素材を多く入手してくる。

 よく冒険者ギルド会館で酒を飲んでいるが、飲むと笑い上戸になる。

 赤の塔の十四層までの素材が持ち込まれている。


 アカネ・ソウハラ

 黒髪・黒目の格闘家。

 殴る蹴るの肉弾戦が得意なインファイターだ。

 特定のパーティーには入っていないので、臨時のパーティーを組むことが多い。

 格闘家としてのセンスは良いと評判。

 赤の塔の最高到達点は十二層。


 トウカ・ウジハラ

 ゴブリンだが、おそらく日本人だと思われる。

 錬金術で作り出した火薬などを使って戦うマッドサイエンティスト。目が逝っている。

 ゴブリンは意外と手先が器用だ。

 赤の塔にはヒナ・カナメとパーティーを組んで入っていて十五層が最高到達層だと思われる。


 ヒナ・カナメ

 容姿は日本人の子供(幼女)のように見えるが、職業は不明。

 短剣を使うらしいと情報があるが、詳細は不明。

 トウカ・ウジハラとパーティーを組んでおり、赤の塔の十五層が最高到達層だと思われる。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 日本人と思われる五人の情報を集めたが、アクが強いかな、と思う。

 特に最後の二人はゴブリンと幼女のコンビで危なそうな奴らだ。

 それと魔法使いのタケオ・オオサキも自分の能力を隠しているようなので判断に迷う。

 火の魔法使いであるホノカ・ヒノはとっつきにくい性格のようだが、根は優しいと四人が言っていた。

 それから格闘家のアカネ・ソウハラは明るい性格で初めての人でも気やすく話せるタイプの女の子らしい。


「情報を見る限りはホノカ・ヒノとアカネ・ソウハラかなと思うけど、四人はどう思っているんだ?」

 素直に聞いてみる。

「私はその二人に声をかけようと思っているけど、アサミとカズミはタケちゃんにも声をかけたいって言っているんだ」

 タケちゃん? ……ああ、タケオ・オオサキか。タケちゃんって、馴れ馴れしいけど、仲がいいのか?

「ミホがずかずか踏み込むからタケオさんは引いているのです……」

 ミホが馴れ馴れしいというのは、俺も同感だ。

 まぁ、四人がとことん話し合って結論を出せばいいだろう。

 だから俺は聞き役に徹しよう。


「それじゃぁ、ホノカちゃんとタケちゃん、それにアカネちゃんに声をかけよう!」

 ミホが元気よく立ち上がって拳を突き上げた。

 相変わらず大げさな奴だ。

「補充はそれでいいとして、ミホの転職はどうするんだ?」

「うん、転職するよ! 皆のために私が全ての攻撃を受けてやろうじゃないの! どんと来なさい!」

 ミホがドンと胸を叩くとゴホゴホと咳き込んだ。しまらない奴だ。


 ミホは双剣士から聖騎士に転職した。

 双剣士のレベルがマックスになってから転職したわけではないので、能力は下がってしまったが仕方ないだろう。

 それでも今までの経験が無駄になったわけではなく、新しい可能性に向かって成長ができると思えばやりがいがあると本人はあっけらかんと言っていた。

 ポジブティブシンキングできるのがミホの取り柄だと俺は思っている。


 盾と言えばリーシア、リーシアと言えば盾。と言うわけで、ミホはリーシアの特別訓練を受けている。地獄の特訓とも言う。

 ミホはそれでいいとして、他の三人はパーティーメンバー候補の勧誘に向かっている。

 アサミとカナミ、そしてカズミの三人はギルド会館で目的の三人に接触できればいいけどね。

 俺? 俺は行かないよ。これは彼女たちの問題だからね。

 彼女たちと候補者が納得いく話し合いをしてくれればいい。


 俺は孤児院を訪れた。皆の成長を確認するためだ。

 俺が孤児院の敷地に入ると数人の子供が駆け寄ってくる。

「サンルーヴちゃん、遊ぼう!」

 俺にじゃなくサンルーヴに駆け寄ってきたわけだが……。

 見た目年齢が一緒なので親近感が湧くのだろう。

 サンルーヴは子供たちと一緒にグラウンドへ走っていった。


 俺は職員室に向かう。

 職員室に入るとブラハムと数人の大人が話をしているところだった。

「よう、何かあったのか?」

 真剣な顔で話し合っているブラハムたちに気さくに話しかける。

「伯爵!?」

 ブラハムは驚かなかったが、他の大人が驚いて直立不動になった。

「楽にしてくれよ。それより真剣な表情で何を話していたんだ?」


 ブラハムたちは子供たちを一人立ちさせる条件を詰めていたと話してくれた。

 孤児院なのでいずれは子供たちを一人立ちさせなければならない。

 この世界では十五歳で成人とみなされる。

 だから言い方は悪いけど十五歳になったら子供たちを追い出すのか、どうかを話し合っていたそうだ。

「十五歳でも保護が必要な者もいるだろう? そういう場合はどうするんだ?」

 俺が質問したことが今回の議題だとブラハムが返してきた。

「卒業試験をすればいいじゃないか?」

「卒業試験?」

 皆が不思議そうな顔をする。

「この孤児院から巣立つための試験だ。冒険者になりたいと言っているのであれば、冒険者として最低限の能力と知識を持っているのか? 商人になりたければ読み書き計算といった能力を計る試験だな」


 日本では学校があり、○○検定や○○試験といったようなテストを経て資格を取ることも多い。

 そういった制度を完全に再現するわけではないが、無理矢理自立させて死なれたり奴隷に落とされたりしても目覚めが悪い。

 適当な言い回しがみつからないし言い方は悪いけど、せっかく助けて育てたのだから天寿を全うしてほしい。

 だけど、いつまでも自立できないのも問題があるので、厳しくしなければいけないこともあるだろう。

「なるほど……」

 ブラハムが顎に手をやり考え込む。

「資金のことは心配するな。だからよく考えて子供たちにとってよいことを考えてやってくれ」

 俺がそう言うとブラハムがにやりと笑った。嫌な予感がする。


「それならスキルスクロールを買う資金もいいのか?」

 他の大人たちがぎょっと目を剥いてから、こいつ何言っているんだという顔でブラハムを見た。

 まぁ、スキルがあるとないとでは就職するにしても就職率は全然違ってくるだろうし、冒険者なら生存率に関わってくる。

「……全員には無理だろうし、使うのには厳格なルール化が必要だな。用意できるものは用意しよう。ほしいスキルスクロールのリストとルールを作成して提出しろ」

「言ってみるもんだな。まさか本当に許可してくれるとは思っていなかった」

 言った本人が驚くなよ。まったくこいつは。

「今も言ったが、安易にスキルに頼るのはなしだぞ。スキルを与えるための厳格なルールは絶対だし、そんな噂が流れて孤児が増えたなんてことになったら目も当てられないから、そこら辺の対策も考えてくれ」

 俺自身がスキルに頼っていたから分かるけど、戦いの経験を積み重ねていくことが重要なんだ。

 インスがいなければ生きていなかったと思っている。

「難しい注文だが、その通りだ。早急に案を考えるとしよう」


 子供たちにはすくすくと育ってもらいたいし、成人して一人立ちした後も幸せになってほしい。

 親兄弟がいない。見捨てられた。色々なことが孤児たちにはあったから、この孤児院を出てからは幸せになってほしいと心から思う。


「グローセさん。あの子供たちが幸せになるチャンスを貴方が与えたのです。彼らの可能性を信じましょう」

 セーラは俺の心情をくんでくれるいい女だ。彼女を抱き寄せてキスをした。


 その日の夕方、王都にいる実体化したインスから連絡があった。

 どうやら王都で騒ぎがあったらしい。

 王都で俺たちが踏破したダンジョンが姿を変えて復活したというのだ。

 なんでも一層からランク4の魔物が出現していて、二層でランク5、三層でランク6が確認されているらしい。


「冒険者あがりの貴族に召集がかかるそうだ」

「つまりグローセさんにも召集がかかっているというのですね?」

 俺は冒険者ではないが、召集がかかるとインスは見ている。

「だから俺はしばらく旅に出ることにした。幸いなことに王都からこの赤の塔まではどんなに急いでも5日はかかる」

 いいように使われるのは気に入らない。


「主はダンジョンに行かないのか?」

 つまらなさそうにリーシアが聞いてきた。

 俺はインスを人質にとられたことを素直に受け入れたわけではない。この国にいる必要がなくなればインスを戻して他の土地に移住したいくらいだ。

 インスを人質にしたのだから、俺の協力を無条件で受けられると思ってもらっては困る。だから俺は逃避行でもしよう。

「冒険者貴族が対応をするだろう」

「その冒険者貴族で対処できなければ?」

 セーラが心配しているのは王都の民のことだろう。冒険者貴族が対処できなければすぐに連絡をもらえるようにインスに頼んでおいた。

 三層でランク6の魔物が確認されているのであれば、四層でランク7、五層でランク8がいても不思議ではないからね。


「その時にはインスから連絡があるから、俺たちが動くのはそれからだな」

「ご主人さまについていくワン」

「俺も主についていくぞ」

「言うまでもありませんが、私もついていきますから」

 よし、話は決まった。

 早速、姿をくらますとしよう。


 四人娘とブラハムたちにしばらく仕入れに行ってくると説明をした。

 それと、転職したミホにはミスリルの盾を贈っておいた。四人娘からは、メンバー補充の方はいい感じだと聞いているので、俺が赤の塔の街に帰ってくる頃には増えていることだろう。

 最後に、代官のカンリョー子爵には事後報告をするようにホーメンに頼んでおいた。俺がどこへ行こうとカンリョー子爵への報告義務はないので、一応だ。


 

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