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046_赤の塔の氾濫3

 


 夜遅くけたたましくサイレンが鳴り響く。

 何事かと飛び起きると、リーシア、サンルーヴ、セーラもベッドから起き出す。


「これは魔物が赤の塔から出てきた時のサイレンです!」


 セーラがサイレンの意味を教えてくれる。

 その説明によるとスタンピードで赤の塔の出入り口に押し寄せた魔物が冒険者を蹴散らして外に出たようだ。

 しかし夕方に別れた時は多くの冒険者が生き残っていたはずで、その冒険者の防衛網を破って赤の塔の外に魔物が出てくるなんてどんな魔物なんだ?


「皆、支度を!」


 と言ったのだが、既に三人は着替えており、リーシアなんか鎧まで着こんでいた。

 早着替えの選手権があれば間違いなくトップクラスの実力だろう。

 リーシアは寝る時に何も着けずにベッドに入るので着替えと言っても鎧を着るだけなのだが、普通はその鎧を着るのに時間がかかるのだ。


「オーナー!」


 家から出るとアパートからも従業員たちが出てきていた。

 皆、一様に不安そうな表情をしている。

 独立したけどアパートの住み心地が良いので未だにアパート住まいのルルもいる。


「皆はアパートの多目的ホールの中に! ブラハム、皆を頼む!」


 アパートの共有スペースである多目的ホールだけは非常に頑丈にできている。

 例えランク6の魔物であっても破壊できないほど頑丈なスペースにしているのだ。

 広いのでアパートの住人を全員収容でき、もしものためのシェルターとして使おうと思っていたけど、こんなに早く使うとは思ってもいなかった。


「オーナーはどうされるのですか?」


 今現在、冒険者組は赤の塔に詰めているので戦闘力がない従業員しかここにはいないので皆の顔に不安の色が色濃くみられる。

 唯一戦闘をこなせるブラハムだが怪我の後遺症で継戦能力は低い。


「俺たちは赤の塔へ向かう。危なくなったら外に出ず無線で知らせてくれ!」


 リーダー格として頭角を現しているムーセルにも皆のことを頼み俺たちは赤の塔に向かった。


 赤の塔に向かうのに歩いていくと時間がかかるので防壁を降りるとすぐに96式装輪装甲車(クーガー)を出す。

 赤の塔までは土の道だが綺麗に整備されているのでアクセルを踏み込み時速八十キロメートルを出す。


 ゴンッ!

 何かを轢いてしまった。

 ヘッドライトはハイビームだったので視界は良好だったから人間ではないと思う。

 ただ、急いでいたので絶対ではない。

 冒険者を轢いたなんてことになったら俺の人生終わりだ!

 急ブレーキをかけ96式装輪装甲車(クーガー)を止め、急いで96式装輪装甲車(クーガー)から降りる。

 そして俺が見たものは……魔物だった。ちょっとホッとした。


「あれはブラッククローです!」

「ブラッククロー?」


 真っ黒な毛皮のライオンほどの大きさのネコ型の魔物を見てセーラが教えてくれた。

 真っ黒だから視認ができなかったのだろう。

 しかし日本でもそうだが、猫はよく車に轢かれるな。

 猫なら可哀そうだが、魔物で良かったと思う。


「ランク5の魔物です」


 ランク5と言えばミスリルゴーレム並みの強さを持つ。

 そんなブラッククローが96式装輪装甲車(クーガー)に轢かれ虫の息となっている。


「赤の塔からあふれ出したのでしょう。一応、トドメを刺した方が良いかと」

「そ、そうだな」


 このブラッククローには運がなかったと諦めて死んでもらおう。

 放置しても死ぬとは思うが、放置して人間を襲ったとなったらシャレにならん。

 俺はサブマシンガンのMP7を取り出しブラッククローの額を撃ち抜く。

 撃たれたブラッククローはビクッと体を強張らせそのまま息絶える。

 そしてスキルの【魂喰い】が発動しブラッククローの持っていた俊敏値を吸収した。

 【魂喰い】があるのでスキルも吸収できるが、インスが言うには俺には不要なスキルばかりなので、能力を優先して吸収していると言っていた。

 てか、ランダムで一つ吸収できるのに何でインスがコントロールしているのだろうか?

 不思議だ。不思議だが、インスならできるのだろうと納得してしまう自分がいる。


 氏名:グローセ・ヘンドラー

 職業:テイマー・Lv98

 情報:ヒューマン 男 20歳

 HP:1505000(C)

 MP:3530000(EX)

 筋力:75500(C)

 耐久:93000(C)

 魔力:120000(C)

 俊敏:86000(C)

 器用:95000(S)

 魅力:80000(S)

 幸運:100

 アクティブスキル:【鑑定(S)】【偽装(S)】【魔道具作成(D)】【テイム(B)】【使い魔(E)】【サーチ(D)】【身体強化(E)】

 パッシブスキル:【強化(D)】【精密射撃(D)】

 魔法スキル:【時空魔法(B)】

 ユニークスキル:【通信販売(C)】【ナビゲーターα】【魂喰い(E)】

 犯罪歴:

 称号:【C級ダンジョン踏破者】【強者喰い】


 【サーチ(E)】一定範囲内に存在する人間、動物、魔物など、更には地形の情報を詳細に得る。但し、ステータスを見るには鑑定系スキルが必要。

 【精密射撃(E)】銃器の扱いに長け、命中精度に補正(大)を与える。

 【身体強化(E)】筋力、耐久、俊敏の能力値を底上げする。


 UP ⇒ 【魔道具作成(D)】【強化(D)】【サーチ(D)】【精密射撃(D)】



 昨日の乱獲と言える魔物の殲滅を得て俺のステータスはバブリーなことになっている。

 昨日がなくても結構な数値だったが、もう異常な数値だ。

 ハッキリ言うとランク6の魔物のステータスを大きく上回っている。

 でもタイマンなんてことはしないぞ。

 俺は石橋を叩いても渡らない主義なのだ!


 ブラッククローの死体をストレージに回収し、赤の塔に急ぐ。

 途中、何度か魔物に襲われたが、96式装輪装甲車(クーガー)による体当たりによってダメージを与え、ブローニングM2重機関銃でトドメを刺す。


 赤の塔ももうすぐというところでそいつは現れた。

 灰色の靄が空中に漂っているように見えるのが特徴の魔物、マナスピリチアル。

 赤の塔の二十層でエリアボスをしている魔物だ。

 つまり滅茶苦茶強い魔物なのだ。


「ランク6……」


 セーラがポツリと呟く。

 ランク6の魔物は人間たちにとって災害ともいえるほどの存在だ。

 以前立ち寄った死者の迷宮のラスボスだったリッチもランク6で俺たちは死ぬ思いをした。

 しかし、それは数ヶ月も前の話であって、今のリーシア、サンルーヴ、セーラはランク6でもひけを取らないステータスになっている。

 ただ、このマナスピリチアルはちょっと面倒な相手でもある。

 何が面倒かと言うと【物理攻撃無効】を持っているのだ。

 つまりリーシアやサンルーヴとは相性が悪い魔物となる。

 では魔法ならと思うだろう?こいつ【魔法耐性】まで持っているので魔法のダメージもかなり軽減されてしまうのだ。

 恐らくこいつが現れたおかげで冒険者が蹴散らされ魔物が赤の塔の外に出てきてしまったのだろう。



「弱点は……【回復魔法】?」


 セーラの言う通り、マナスピリチアルの弱点は【回復魔法】なのだ。

 残念ながらセーラは攻撃魔法や補助魔法は得意でも回復魔法までは覚えていない。


「面倒な……」


 セーラが苦虫を潰したような表情をする。

 リーシアやサンルーヴも物理が効かないので良い顔はしていない。

 だから俺は……


「ルビー、【癒しの風】を最大出力だ!」

「分かったッピー!」


 俺の肩で寛いでいたルビーに命じる。

 ルビーの【癒しの風】は【回復魔法】ではないが、同じ系統のスキルなのでマナスピリチアルには効果絶大なのだ!


 肩から飛び立ったルビーは手の平に乗るインコほどの小さな体だったのに羽ばたく毎に大きくなっていく。

 そして今までの姿からは想像もできないほどの大きさになる。

 その大きさはまるで小型のセスナ機のようだ。

 その巨大な翼をマナスピリチアルに向けて羽ばたかせると優しい光がマナスピリチアルを包み込む。

 唸り声か、悲鳴なのか、分からないが、マナスピリチアルが苦しそうな声をあげる。

 ランク6の魔物だけあってHPが半端なく多いので一回の【癒しの風】では倒せないのは分かっている。


「セーラ、最大出力で魔法を!」

「は、はい!」


 セーラが詠唱を始める。

 俺でも魔力の膨れ上がりが分かる。

 そんなセーラをマナスピリチアルが放っておくわけがない。

 フヨフヨと浮かびながらセーラに近づくマナスピリチアル。

 こいつの動きは速くないのだが、靄のような不定形の体は体積を増やせるのだ。

 ドンドン広がっていくマナスピリチアルに再びルビーの【癒しの風】が包み込む。

 苦しそうな声をあげるが、体積はドンドン増えていき止まることはない。

 しかし【癒しの風】によってダメージがあるので、体積の増える速度はやや緩やかになった。


「消滅しろ! フレアアクティヴィリティ!」


 音はない。しかし物凄い光がマナスピリチアルを包み込む。


「リーシア!」


 あまりの威力に俺やセーラが吹き飛ばされそうになったので、リーシアが間に入りその衝撃波を受け止めてくれる。

 リーシアはその大盾を前面に押し出し、フレアアクティヴィリティの衝撃波を受け止めるが、セーラの最大出力だけあってリーシアでさえ押し込まれるほどの衝撃波だ。


 破壊という言葉がピッタリのフレアアクティヴィリティの猛威が収まる。

 爆心地ともいえる場所は地面が大きく抉られクレーターができている。

 そしてその中心には瓶と石が転がっていた。

 これがマナスピリチアルのドロップアイテムだ。

 マナスピリチアルは靄のような体なので、倒すとエリクサーと大きな魔石を残して姿を消す。

 SWGで何度も見てきた光景なので俺は不思議には思わないが、セーラたちはそうではない。


「え、エリクサーっ!?」

「こっちは魔石か?」


 セーラとリーシアがアイテムを拾い上げ俺のところまで持ってくる。

 セーラが持っている鑑定系のスキルは【魔物鑑定】なのでアイテムは鑑定できない。

 だから俺が瓶の中身がエリクサーだと教えてあげると声を上ずらせ驚く。

 リーシアは特に驚くことなく俺の拳よりも一回り大きな魔石をポンポンと弄ぶ。


 しかし思わぬところでマナスピリチアルの魔石が手に入った。

 SWGでは魔石のドロップ率は低く五パーセント未満だと言われていたが、初回で入手できたのは僥倖だと思う。

 これも俺の幸運値が100のおかげだろうと自分で思っておこう。


 マナスピリチアルの魔石はいずれ入手する予定だったがこんなに早く手に入れるとは思ってもいなかった。

 これでMPの上限値を引き上げる薬の材料が一つ手に入った。

 他に必要な材料はこの魔石に比べれば比較的簡単に手に入るのでまだ手にも入れていない。

 一番入手が面倒な物が一番最初に手に入って良かったよ。


 

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