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022_魔物買い取り店

 


 商業ギルドで白砂糖を卸してからキリングさんに買取店について相談してみた。

 先ず必要なのは買取店の店員と用心棒だ。店員だけでは不安だから用心棒が必要だとキリングさんが言う。尤もだと思うので店員2人は商人ギルドで斡旋してもらい、用心棒の方は冒険者を雇うといいと冒険者ギルドのギルド長宛ての紹介状を書いてくれた。

 世話になったから白砂糖のほかに胡椒も卸すことにしよう。


 お城のような冒険者ギルドのギルド会館に入ると昼ということもあり依頼を受けようとしている冒険者は少ないようだ。だが、飲食スペースではそれなりに多くの冒険者が昼間から酒を飲み管を巻いている。

 空いているので暇そうにしている受付嬢の前に立つ。


「いらっしゃいませ、本日はどのような御用でしょうか?」

「ギルド長にお会いしたいのですが、これ紹介状です」


 キリングさんに頂いた紹介状を受付嬢に渡すと受付嬢は「少々お待ちください」と言って席を立って奥へ消えていった。

 暫くそのままボーっと突っ立っていたら絡まれた。


「いい女じゃねぇか! ちょっと付き合えや」


 リーシアがね。次の瞬間には冒険者が空を飛んでいた。

 リーシアの腕を掴もうとした冒険者をリーシアが投げ飛ばして壁に激突。冒険者はそのまま白目をむいて気絶してしまったようだ。

 俺が出ていく隙もない早業だった。


「なっ! ホック!」

「このアマ、やりやがったな!」

「タダで済むと思うなよっ!」


 投げ飛ばした冒険者にゴキブリでも見るかのような視線を投げるリーシア。そして投げ飛ばされた冒険者の仲間と思われる3人の冒険者が俺たちを囲む。まさかここでテンプレが起きるとは!


「これは「何をやっとるかっ!」……へ?」


 俺が3人の冒険者を収めようと仲裁しようとした時に俺の後方から怒声のような大声が発せられた。その声量に思わずたじろぐ俺だった。


「「「ぎ、ギルド長っ!」」」

「こんな所で遊どらんでダンジョンに逝ってこいっ!」


 いや、逝ってこいはイカンだろう。

 ギルド長と呼ばれた筋肉……身長は2メートル以上で二の腕が一般女性の胴体ほどもあるゴリマッチョ……それでいてスキンヘッドなんて絶対目をあわせたらイカン人だ。


「あんたがグローセ・ヘンドラーさんか?」

「あ、はい。グローセ・ヘンドラーと申します。この度は従者がお騒がせして申し訳ありません」

「構わん、奴らも力をもてあましていたのだろう」


 それで片づけるのですね。さすがはゴリマッチョ!


「付いてきてくれ」


 ゴリマッチョに付いて奥へ赴く。フロア―からは見えない場所に階段がありその階段を3階まで上る。

 部屋に通されるとギルド長にソファーに座るように促されたので座ると女性の職員が入ってきてお茶を出してくれた。グッドタイミングですね。


「それで護衛を雇いたいとこの紹介状には書いてあったが、どの程度の腕の者が欲しいのだ?」

「その前にもう一つお願いがあります」

「何だ?」

「実は魔物の買取店を開きたいと思っております」

「ほう……魔物の買取店だと?」

「はい、魔物の買取店です」

「それはこのギルドを通して買取をしたいってことか?」

「高ランクの魔物はギルドを通して購入したいと思います」

「……」


 ゴリマッチョが考え込んだ。

 俺の提案は通常は買取もしない低ランクの魔物は俺が直接、冒険者ギルドが一部の部位または全部の部位を買い取っている中高ランクの魔物はギルドを通して買い取るというものだ。


「ランク1とランク2の魔物の死体をヘンドラーさんが直接買い取るのは容認する。その代わりランク3以上の魔物はギルドを通してもらう。それで手を打とう」


 話が分かるゴリマッチョで助かったよ。そして護衛についても話をする。


「DかCランクの冒険者で素行の良い方を3人ほどご紹介いただければと思っております」

「素行の良い方、ね。良いだろう、明日のこの時間に再び来てくれるか?」

「そんなに早く? ありがとうございます。では明日のこの時間に」


 これで護衛も目途が立ったし、店で魔物を買い取りする話も済んだ。……で、何でダンジョンに連れてこられているのだろ?


「冒険者ギルドとの話も終わったし俺たちに付き合ってくれてもいいだろ?」

「ごしゅじんさまといっしょワン!」

「少しだけですから、お付き合いしてください」


 君たち、俺は冒険者ギルドとの交渉が終わったからと言って俺は暇ではないのだよ。家の受け取りもあるし、開店準備もあるから忙しいのだよ。

 俺のそんな気持ちなど関係ないとばかりに3人はドンドン赤の塔の1層を進む。

 出てきた魔物は俺が認識するより早く3人にフルボッコにされ撃沈。しかしセーラの魔法は正確に魔物の急所を捉えており魔法制御が非常に良い。

 俺なんか無駄に威力ばかり高い力押しの魔法だけど、セーラのはスナイパーのような精度で一撃必殺って感じだ。


 3人の気の済むまでダンジョンの探索をしていては切りがないので文句を言われても切り上げ家の受け取りをすます。

 そして家具などをストレージから出して設置していく。

 風呂やトイレ、キッチンに魔石を嵌め込んでお湯や水を使えるようにする。


 風呂は5人入ってもゆったりできる大きさなのでゆっくり浸かっていたらまたリーシアたちが突撃してきた。


「主、いい加減に諦めるのだ!」


 諦めたらそこで終わりじゃないか!

 俺は安全にそして怠惰に生きていきたいのだ!


 冒険者ギルドに紹介してもらった冒険者はランクCが1人とランクDが2人だ。


「ランクC冒険者のアンナです。この2人は双子の妹でカンナとイズナです」

「カンナです」

「イズナです」

「妹たちは共にランクDの冒険者です」


 粗野な感じもなく言葉遣いも丁寧だったし何よりも3人とも美少女だったので1月単位の契約をした。契約は自動更新なので俺か彼女たちのどちらかが解約を言い出さない限り解約されない。

 冒険者ギルドには手数料をしっかり払い同時にランク3以上の魔物の死体買い取りの依頼も出しておいた。


 3人とリーシアを連れて商業ギルドに行く。


「ヘンドラー様、私はルルと申します。年齢は17歳になります。【鑑定(D)】と【速算(D)】、【交渉術(E)】を持っております」

「私はデイジーと申します。年齢は16歳で【料理(C)】と【速算(E)】を持っております」


 商業ギルドで紹介してもらった店員は2人で人当たりの良い言葉遣いと計算もしっかりできるので即決した。

 衣食住の内、食と住を俺が提供し給料はランクC冒険者であるアンナには毎月100万円、ランクDの冒険者であるカンナとイズナにはそれぞれ毎月60万円、ランクCとDでは報酬に倍近い差が出るのが一般的らしい。

 そして商業ギルドに紹介してもらった店員のルルには毎月60万円、デイジーには毎月40万円を報酬として支払う。ルルの報酬がデイジーより多いのは店長を任せることにしたので役職手当とスキルの有用性を上乗せしているためだ。

 この赤の塔の街の住人は4人家族で贅沢さえしなければ大体20万円ほどあれば暮らせるらしいので、一番給料が少ないデイジーでも一般的な家庭の2倍の給料だから結構喜んでくれた。


 冒険者3人と店員2人、そしてリーシアを引き連れ家に戻る。家ではセーラとサンルーヴが掃除をして俺たちを待ってくれていた。

 部屋が7部屋しかないのでアンナたち3人姉妹には大部屋を共同で使ってもらい、ルルとデイジーには小部屋をそれぞれ使ってもらう。


「今日はアンナ、カンナ、イズナ、ルル、デイジーの歓迎会をする」

「主の作るご飯は旨いぞ!」


 主人である俺が料理を作ることに驚いていた5人だったが、俺が料理を始めると【料理】スキルを持っているデイジーが手伝うと申し入れてくれた。だが今日はお客様待遇と言って座って待ってもらう。

 フランス料理のフルコースだったり懐石料理だと俺の食べる暇がないのでメニューは簡単に『カニと海藻のサラダ』と『玉ねぎのコンソメスープ』、『バーベキュー』で〆には『フルーツ盛り合わせアイスクリーム添え』だ。

 『バーベキュー』では高級なA5級の霜降り牛肉を始めとしてカルビやロース、厚切りベーコン、豚ロースや豚バラ、魚ではアユの塩焼き、ニジマスの塩焼き、野菜では玉ねぎの輪切りやトウモロコシ、ニンジン、ピーマン、それとシイタケやエリンギなどのキノコ類をドンドン焼いていく。

 尚、飲み物は冷えたビール、赤ワイン、白ワイン、オレンジジュース、リンゴジュース、ウーロン茶などを用意した。

 先にサラダを食べてもらいスープは各自セルフでよそってもらう。肉類や魚類、そして野菜やキノコ類は大きな網の上で焼き上げて焼肉のタレや岩塩などで食べてもらう。


『う、旨いっ!』


 皆が声を揃えて旨いと言ってくれた。そう言ってくれると作った甲斐があったと俺も嬉しく思う。


「明日から開店準備を任せるから今日はたくさん食べて英気を養ってくれ」

『はい!』



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 準備に2日かけて開店した魔物の買取店。店内は至ってシンプルで買取カウンター以外は何もない。あまり何かを置くとゴチャゴチャするし邪魔になるからというのが理由だ。

 最初の3日は低ランクの冒険者がポツリポツリと来店するだけだったが、4日目からは口伝いに噂が広まり冒険者の買取希望者が列を作るまでになった。

 それを見届け俺はリーシアたちに拉致られ赤の塔に入っている。

 因みに食料は冷暗所に置いておいたのでデイジーが料理をしてくれるので俺が居なくても食事も安心だ。食料が不足しても購入した時のレシートを提出してくれればお金を渡すと言ってある。

 そして、魔物を買い取るのは現金なので俺でも入れそうな大きめの耐火の金庫を購入してそこに現金1000万円を置いてあるし、店頭のカウンターの下にも小さめの金庫を置いてそこにも100万円の現金が置いてあるので問題ないだろう。


 赤の塔の1層はランク1の魔物が単体で出てくるだけだが、2層はランク1の魔物が複数で襲ってくることもある。

 1層は中途半端に何度か探索していたが、本気で進むとなったら1層で2時間ほど、2層も4時間ほどで次の階層に到達した。エリアが広くても地図はあるし身体能力も上がっているので時間は掛からない。

 今は3層の入り口に到達している。3層はランク1の魔物にランク2の魔物が混じるので初心者はここでよく怪我をしたり命を落とすらしい。冒険者になった人たちに立ちはだかる最初の壁となっているのだ。


「ランク2の魔物も出てくるから気を付けてね」

「了解した」

「わかったワン」

「分かりました」


 しかし俺の声掛けも虚しくランク2の魔物はリーシアたち3人に瞬殺されてしまって4層、5層と順調に進んでしまっている。


『マスター、【通信販売】の取引額がとうとう1億円を超えました。おめでとうございます!』


 不意にインスが【通信販売】のランクアップを知らせてくれた。

 俺はストレージに回収した魔物の死体の販売をインスに任せていたので教えてくれたのだ。


『やっとだね、これで取り扱い商品が多くなるし改造もできるんだよね?』

『はい、早速MP7を改造しますか?』

『おう、頼むよ』

『改造は威力重視でよろしいですか?』

『そうだね、高ランクの魔物を倒せるだけのパワーが欲しいね』


 改造はインスに任せて俺はリーシアたちに遅れないように付いていく。3人は俺を放置して周囲の魔物を狩るのに夢中なのだ。

 しかしそのせいか俺たちの進行速度は異様なほど速い。5層も踏破し6層に到達したのだ。


 赤の塔の探索した内容は地図屋に売ることができる。そして地図屋が他の冒険者たちに地図と出没する魔物の種類などが記載されたガイドブックを販売するのだ。

 つまり情報も売れるというわけだ。

 赤の塔を攻略するためには魔物の情報だけではなく地図も重要なアイテムなので、最前線で戦っているパーティーやクラン以外は地図屋で地図とガイドブックを買うことが多い。俺たちもそれに倣って購入している。


 外から見ると天を突かんとするほどに高く大きい赤の塔の中が何層あるのかは誰にも分からないが、これだけ大きい塔が10層や20層だとは考えづらい。SWGの『紅蓮のダンジョン』なら30層まで解放されていたが、俺たちはいったい何層まで登らなければならないのだろうか?

 そしてこれまでの探索で分かったことはこの赤の塔と紅蓮のダンジョンは一緒だということだ。出てくる魔物も各層の地形も俺が記憶しているものと一致している。勿論、俺の記憶があやふやな所もあるけど感覚的には一致していると言えるだろう。


 6層で最初に遭遇したのは魔物ではなく冒険者パーティーだった。彼ら彼女らは皆若く15歳から18歳ほどに見える。

 そんな若者ばかりの冒険者パーティーは男5人、女4人、の合計9人のパーティーで明らかに疲弊しているのが分かった。身に着けている防具は所々破損していたり、無雑作に置かれた片手剣が折れ曲がっていたりとかなり酷い状態だった。

 俺たちはそのパーティーを警戒しながらも声を掛けた。


「どうしたのですか?」

「……見ての通りだ。ウルドラゴから命からがら逃げてきたのさ」


 代表して前衛の盾職タンクと思われる青年が答える。

 彼が言うウルドラゴとは狼の形をした魔物だが、その体は狼のように体毛に覆われているのではなくドラゴンのような鱗に覆われている魔物だ。

 しかしおかしい。この6層にランク3のウルドラゴが現れるなんて情報はこのガイドブックに記載されてないし、俺のSWGの記憶にもない。


「すまねぇが、ポーション(HP)を持っていたら売ってくれねぇか? できればポーション(MP)も売ってほしいところなんだが」


 別の斥候職と思われる青年がポーションが欲しいと頼んでくる。

 こういう時は持ちつ持たれつなんてことはなく、ポーションや食料、飲料水などは自分たちのためにとっておくのが一般的らしい。ポーション類や食料を彼らに売ってしまった結果、自分たちのポーションや食料が不足してしまったなんて洒落にならないからね。もし売るにしても相場の5倍から10倍と非常に高額となる。


「ロウポーション(HP)とロウポーション(MP)で良いのでしたら構いませんよ」

「ほ、本当に売ってくれるの?」


 魔導師系の少女が身を乗り出して喰い付いてきた。ポーションを売ってくれると思っていなかったのだろう。

 今はセーラに渡して装備させているマジックポーチにロウポーションは大量に放り込んであるから全く問題ない。ミドルポーションも大量にあるので分けてやるのは構わないがロウポーションで構わないだろう。


「い、幾らですか?」


 魔導師系の別の少女だ。彼女は寝ている少女を膝枕している。


「HPは5000円、MPは7000円でお譲りしますよ」

「そ、そんなに安くて良いのですか!?」


 ロウポーションはハジメの町でジンジャーさんの店で購入したのだけど正直使いどころがなく今では不動在庫化しているのだ。あまり使うこともないが俺たちが怪我をした場合はミドルポーションやハイポーションを使っているのでロウポーションは在庫の山になっている。

 因みにジンジャーさんの店ではHPを3000円、MPを4500円で購入しているので彼らにあの金額で売れば黒字だし不動在庫がはけて嬉しいとさえ思ってしまう。


「構いませんよ。その代わりと言ってはなんですが、ウルドラゴの情報を教えてください」

「む、情報と交換ってわけね……良いわ、それで手を打ちます!」


 俺と冒険者パーティーとの交渉が終わるや否やセーラはマジックポーチからロウポーションを取り出し冒険者たちに販売していく。前衛系はHPを2本から4本、後衛系はHPを1本とMPを3本ほど購入してくれた。それでもまだ不動在庫がマジックポーチ内に大量にあるので泣けてくる。

 情報は俺の知っているウルドラゴのものと変わりなかったが、この6層に出てくることで考えられることは限られてくる。


 

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