61話。【植物王】Lv5『植物の再生』
「いくぞ、リル!」
「うん! あるじ様!」
俺は【世界樹の剣】を連射式ボウガンに変形させる。ディアドラに矢の連射を浴びせながら、コレットを救うべく突進した。
「ゼノス殿が言っておりませんでしたか? 【炎の巨人】(スルト)の至宝【レーヴァテイン】は、【世界樹の剣】の天敵でしてよ!」
ディアドラが【レーヴァテイン】を振るうと、発生した猛火がボウガンの矢を消し炭に変える。
そんなことは、わかっているんだよ。
自分自身の放った炎で、ディアドラの視界が一瞬ふさがれた今がチャンスだ。
「行って、あるじ様!」
俺のすぐに後ろを駆けていたリルが、俺の背中を蹴り飛ばす。
俺はコレットめがけて、矢よりも速く飛んだ。
「まさかっ!? くっ、ふたり仲良く消えるといいですわ!」
意表を突かれたディアドラが、【レーヴァテイン】をコレットに振り下ろす。
そうはさせるか。
「【世界樹の大盾】!」
俺はコレットを抱きしめながら、背に【世界樹の大盾】を展開させる。
耐え難い熱が背中を焼くが、手に一本だけ残しておいた【世界樹の矢】を使って、コレットの拘束具を貫き壊した。
俺はコレットを抱きかかえ、床を蹴って離脱する。
「ご主人様!? 癒やしの光よ!」
拘束を解かれたコレットが、すぐさま俺に回復魔法をかけてくれた。
「ヤバかった、無事かコレット!?」
「大丈夫です! ご主人様こそ、ひどい怪我を!?」
俺たちはお互いの無事を喜び合った。
一歩間違えれば、今のでふたりとも死んでいたな。
我ながら冷や汗ものの賭けだった。
「【炎の巨人】の手先、リルが相手!」
ディアドラの追撃は、リルが身体を張って抑えてくれた。
「アハハハハッ! なんと愚かな! エルフの至宝【世界樹の剣】を、灰としてしまうなんて!」
ディアドラの高笑いが響く。
【レーヴァテイン】を防ぐために出現させた【世界樹の大盾】は、燃えて跡形もなくなっていた。
「ああぁっ、せ、【世界樹の剣】が……」
コレットがショックを受けて、うめき声を漏らす。
「ふふふっ、【世界樹の剣】が無ければ、あなた方に勝ち目はありませんわ! まずはコレット、あなたの愛しいアッシュ殿を目の前で殺して差し上げますわ。その後、炎で滅びるアルフヘイムをゆっくり見物させてから、父親ともども、なるべく惨たらしく処刑するとしましょう!」
「……お姉様、そんなことをして、一体何になるというのですか?」
強烈な悪意にさらされたコレットが顔を歪めた。
「姉などと呼ばないでいただきたいですわ、けがらわしい! 私の親であり、家族は【炎の巨人】だけですわ! 炎によって、この呪わしいエルフの国を浄化するのです。それが【炎の使徒】たる、私に課せられた神聖なる使命。すべては、あのお方にお喜びいただくためですわ!」
「親から捨てられたお前の気持ちもわからなくはないが……そうはさせるか」
俺はコレットを背中に庇うように前に出た。
「ご主人様!?」
「ふふふっ。これは傑作ですわ。【世界樹の剣】を失ったあなたに、今さら何ができまして? 今のあなたはただの外れスキル持ちに過ぎませんわ! どんな植物を召喚しようと、【レーヴァテイン】ですべて焼き尽くしてさしあげます」
ディアドラは己の勝利を確信していた。
「いや、ありがとうよディアドラ。おかげで【世界樹の剣】はもっと強力になって、生まれ変わることができる」
「……なんですって?」
ディアドラの表情が固まった。
「【植物王】Lv5『植物の再生』!」
『【植物の再生】は、元気が無くなった植物を復活させ、より元気にする能力です』
システムボイスの解説が響く。
俺の手元には、【世界樹の剣】から分離したボウガンの矢が残っていた。
『植物の再生』は、完全に死に絶えた植物を復活させること無理だが『元気が無くなった植物』を、よりパワーアップして復活させることができる。
これは、すでに検証済みのことだ。
そのために、俺は最初に【世界樹の剣】を連射式ボウガンに変形させ、矢を一本だけ残しておいた。
「ああ──っ!? 【世界樹の剣】が!?」
「そ、そんなバカなことが!?」
コレットとディアドラの驚きの声が響く。
「新生【世界樹の剣】!」
灰となって散らばった【世界樹の剣】が、俺の手元に集まってきて剣を形作る。
輝きが弾けると同時に、俺の手に生まれ変わった神剣ユグドラシル弐式が握られていた。
いや、この名称はもう相応しくないな。
あえて呼ぶなら【ユグドラシル参式】か。以前とは比べ物にならない強大な力を感じる。
「ああっ、灰は植物を育ててくれる存在……灰の中から蘇った神剣!」
コレットが声を感激で震わせた。
「まさにアッシュ様こそ、世界樹のマスターたる王です!」
「くぅっ……【植物王】にそんな力が。まさか、この私が手玉に取られていたというの」
「さあ、決着をつけようぜ【炎の使徒】」
俺は【ユグドラシル参式】の切っ先をディアドラに突きつけた。
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