57話。剣聖ゼノス、再び敗れる
「ちょっと見ない間、ずいぶん変わったなゼノス。元気そうだが、ちょっと元気が良すぎはしないか?」
何があったかは知らないが、ゼノスは人間ではなくなってしまったらしい。
「ヒャハハハッ! ああっ、そうだよ。この万能感、最高にゴキゲンだぜ! 今なら、何でもできそうな気がしてくらぁ!」
剣聖のスキルを得た時と同様に、ゼノスは人ならざる力に酔っているようだった。
「……そうか。だが初対面の女の子に、いきなり奴隷にしてやる発言は、ドン引きだぞ。すぐ謝るなら許してやるが、どうする?」
「謝る? 俺が兄貴にぃ? 笑えない冗談だぜ!」
ゼノスは天を仰いで大爆笑した。
「兄貴ぃいいい、一騎打ちだ! もし、フェンリルや王女ちゃんの手を借りたら、後ろの王様の命はねぇぜ? 俺様の方がはるかに上だってことを証明してやらぁ!」
「ひ、卑怯ですよ! 人質を取っての一騎打ちだなんてっ! お父様を返してください!」
コレットが痛烈な叫びを上げる。
「ひゃあっ! 気丈な王女ちゃんじゃねえか、ますます気に入ったぜ! 兄貴をぶち殺したら大好きなパパの目の前で、思いきり昇天させてやるよ、ギャハハハッ!」
ゼノスが腕をかざすと、その手に炎で形作られた剣が出現した。太陽が地上に降りてきたかのような眩さだ。
「そいつは、なんだ?」
「驚いたかぁ! コイツは炎の魔剣【レーヴァテイン】! ディアドラが俺様のために用意してくれた神域の武器だ! ヒャハハハッ! さすがに、わかるよなぁ。こいつが【世界樹の剣】の天敵ってことが! 植物の剣なぞ、消し炭にしてやんよぉおおお!」
ゼノスは得意の絶頂だった。
もう勝った気も同然のようだが……不思議と脅威には感じられなかった。
親父と比べると、ゼノスはひどく薄っぺらい感じがする。それよりも気がかりなのは。
「炎の魔剣だと? おい、まさか……アルフヘイムに火を放ったのは、お前じゃないだろうな?」
「へっ! 察しがイイな。試し斬りってヤツだ! 【レーヴァテイン】が、どのくらいの威力か見てみたくてな。こいつをチョイと振ったら、森が火の海になってよ! ギャハハハッ! 馬鹿なエルフどもが、慌てふためいて逃げ出す様は、見ものだったぜぇ!」
「ひ、ひどぃ……!」
コレットが唇を強く噛んで、ゼノスを睨みつける。
「……そうか。どうやら落ちるところまで落ちたみてぇだな。もう情けはかけねぇぞ!」
俺は【世界樹の剣】をユグドラシル弐式に変化させた。
前回は、兄弟の情もあって命までは奪わなかった。だが、今のコイツはもはや人に仇なすタダの魔物だ。
「ヒャアッ、すげぇ! 神剣をさらに進化させたってか!? それで俺様の【レーヴァテイン】にどこまで対抗できるかな? 剣聖の俺様が、最強の魔剣を手にしたんだ。ハハハハッ、もはや無敵だぜぇ!」
ゼノスは余裕の笑みだ。
『あるじ様、後ろのヤツら……!』
俺と精神で繋がっているリルが、心の中に話しかけてくる。
『ゼノスと同じ、人型の魔物だな。リル、やれそうか?』
一騎打ちなどと抜かしているが、ゼノスは劣勢になったら、確実にエルフ王の命を盾に使ってくるだろう。
隙を見て、リルにエルフ王を救出してもらう必要がある。
『うん。一気に全員は難しいけど。あるじ様、あのゼノスってヤツの動き止めて。あの炎の魔剣は厄介……!』
『わかった。頼んだぞリル』
『任せて、あるじ様。コレットを泣かすヤツ、リル許せない!』
リルが力強く請け負ってくれる。リルは最高の相棒だ。
それにコレットを泣かすヤツは許せないというのは、俺も完全に同意だった。
「兄貴、て、てめぇ……なに、よそ見してやがる! 舐めやがって! 俺様を見やがれぇええええ!」
激高したゼノスが疾風となって突進して来た。
炎の魔剣なんぞと、まともに打ち合うつもりはない。速攻でカタをつけてやる。
「【天羽々斬】(あめのはばきり)!」
俺は初手から最大最強の技を放った。
「なっ!?」
ゼノスは驚愕に目を見張った。
「ま、前より速ぇええだと!?」
大地に亀裂が走りると同時に、ヤツの身体も真っ二つになった。
あ、あれ……もしかして、勝ってしまったのか?
いや、ゼノスは何かまだ奥の手を隠しているハズだ。油断はできない。
俺は息を整えて、ヤツの反撃に備える。
「さすがはご主人様です! 闘神ガイン様に勝利したことで、さらに強くなられたのですね!」
コレットが大歓声をあげた。
「がぁ、バカな……!? 親父に勝っただとぉ!?」
地面に倒れたゼノスは、血反吐を吐きながら苦悶する。
うん? 演技にしては、大げさ過ぎないか?
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