32話。サーシャとリズが仲間になる
「サーシャさん、あなた、どういうつもりですの……? あなたの行いは【神喰らう蛇】への裏切りですのよ!? 」
「そうです、裏切りです!」
サーシャは輝く雷球を連続で、ディアドラに投げつける。ディアドラは軽やかなステップで、それらを回避した。
「アッシュ隊長! 私はアッシュ隊長を撃ったこと、ずっと後悔してきました……。もうこれ以上、自分に嘘をつき続けるのは限界なんです!」
サーシャは俺に向き直って叫ぶ。その目には涙が浮かんでいた。
「アッシュ隊長を討つのに加担するくらいなら、私は【神喰らう蛇】を辞めます!」
「くっ……まさか、この土壇場でこんな重大な契約違反を犯すなんて。あなた、闘神ガインより制裁を受けることになりましてよ? かわいそうに病気の妹さんも、助かりませんわね?」
サーシャの表情から血の気が引く。
その隙きを狙って、ディアドラが連続でサーシャに向かってファイヤーボールを放った。
俺は飛び込んで行って、神剣ユグドラシルで、ファイヤーボールをすべて弾き返す。
「アッシュ隊長……!?」
「それについてなら大丈夫だ。ゼノスの狂戦化を解いたのはコレットが作った試作品エリクサーなんだ。これを使えば、サーシャの妹も救えるハズだ」
「エ、エリクサー!? ホントですか、アッシュ隊長!?」
「はい! 本当です。わたくしとご主人様の『愛の共同作業』で生まれた究極の霊薬なんですよ」
コレットが話に割って入ってくる。なぜか、彼女は怖い顔をしていた。
「私のために、そんな貴重な品を! や、やっぱり、アッシュ隊長は、私のことを……!? 私たちは運命の赤い糸で結ばれているんですね!?」
サーシャの全身が輝きに包まれた。彼女のスキル【エレメンタルバースト】が発動したのだ。
この状態になったサーシャは属性魔法の威力が格段に上昇し、世界屈指の攻撃魔法の使い手となる。
「来た来たぁ! みなぎってきましたよぉ!」
サーシャは絶好調でガッツポーズを取った。
運命の赤い糸とかなんとか、言っていることは良くわからないが……。彼女が味方になってくたのはありがたい。
「コレット王女……まさか、エルフ王家の秘中の秘たる霊薬を、人間のために提供するなんて」
ディアドラが唇を噛んだ。
「ディアドラ、人間とエルフは理解し合えます。相手から奪おうとするのではなく、お互いに歩み寄る努力をするのが大切ではありませんか? 私はご主人様と結婚することで、両種族の架け橋になりたいと思っています。ハーフエルフに対する不当な扱いも、きっと無くしてみせます!」
「……戯れ言を。人間とエルフが結婚ですって? それは不幸しか生みませんわ」
コレットの真摯に訴えを、ディアドラは一蹴した。
コレットを見つめるディアドラの瞳には、強烈な憎悪の炎が揺らめいている。
「サーシャ、神獣フェンリルへの攻撃を今すぐ中止させてくれ! リルは敵じゃない、俺の仲間だ!」
「はい、アッシュ隊長! 【神喰らう蛇】一番隊、総員撤退! ゼノス隊長が倒れ、これ以上の戦闘継続は困難であると判断します!」
サーシャが通信魔導端末を取り出して、命令を発する。
即座に神獣フェンリルへの集中砲火が停止された。
「ふぅ~っ!」
リルが安堵の息を吐く。
「お待ちなさい! 副隊長サーシャ殿は隊長ゼノス殿を裏切り、【神喰らう蛇】を辞めると宣言されていますわ! 攻撃を続けなさい!」
ディアドラが通信魔導端末に向かって叫ぶ。
その端末が飛来した矢に貫かれて砕け散った。
「サーシャだけじゃなくて、あたしも降りさせてもらうよ!」
物陰から姿を見せた少女は、俺の元部下である【狩女神】のリズだった。
リズは弓に、次の矢をつがえている。
「リズか!?」
「アッシュ隊長、久しぶりだね。ここから、一部始終を見聞きさせてもらったよ。まさか、神獣フェンリルが一切反撃して来ないなんてね……アンタ、本当にこの化け物を支配下に入れちまったんだね!」
「化け物、違う。リルはリル……!」
リルが抗議の声を上げる。
リルは多少ダメージを受けたようだが、まだ余力が有りそうだった。
「ここからは、あたしもアッシュ隊長に加勢させてもらうよ。元々【神喰らう蛇】の方針にはうんざりしてたけど。エルフの侵略戦争に加担させようなんざ、いい加減、愛想が尽きたね!」
リズが弓矢を上空に放つと、目を正確に射抜かれた飛竜が墜落してきた。
「あなた、アルフヘイムの兵を!?」
「はんっ! あたしは元々、人間を襲うクソ魔物をぶち殺したくて【神喰らう蛇】に入ったんだ。クソ魔物は撃ち落とす。それだけだよ。文句あるかい?」
「助かるぞ、リズ、サーシャ! ここは任せて良いか!?」
義妹ミリアの身に危険が迫っているようだ。レイナだけでは心配だ。一刻も早く、向かわねばならなかった。
「もちろんです、アッシュ隊長!」
「この女を足止めすれば、いいんだね? 任せときな!」
サーシャとリズが自信満々で請け負う。
ディアドラは得体の知れないヤツだが、【神喰らう蛇】でも実力トップクラスのふたりに任せておけば安心だ。
「くぅ……こんな失態、屈辱ですわ。なら、せめてコレット王女の命だけでも!」
ディアドラが召喚呪具をコレットの周囲に投げつけた。
雄叫びと共に巨大なドラゴンが2体出現する。
「ぁあああ……ッ!?」
その威容にコレットが悲鳴を上げた。ドラゴンを見て恐怖しない者などいない。
「リル、ぶちのめすぞ!」
「うん!」
俺とリルは同時に地面を蹴った。
次の瞬間、2体のドラゴンは断末魔の叫びを上げて崩れ落ちる。
俺の神剣ユグドラシルと、リルの爪がそれぞれ敵の喉元を抉っていた。
「ああっ、ありがとうございます。ご主人様!」
「ひゅーっ! ドラゴンを歯牙にもかけないとは、さすがだねアッシュ隊長! それでこそ、あたしたちの頭だよ!」
コレットが感激し、リズが感嘆の叫びを上げた。
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