27話。街の防衛力強化
「うぉおおお! すごいね、リルちゃんは!?」
「ふっふん。これくらい、お安い御用!」
リルが丸太をひとりで抱えて、城壁の上に持っていく。守備兵たちがびっくり仰天していた。
俺はエルフの攻撃に備えて、街の防衛力を強化することにした。そこで【植物王】で生み出した大木を切って加工し、リルに城壁の上に運んでもらっていた。
敵が攻め寄せてきたら、この丸太を転がして落とすのだ。雲梯などの攻城兵器もこれで壊せるハズだ。
「えらいぞ、リル。ガンガン、運んでくれ」
「うん! あるじ様の役に立ててリル、うれしい!」
リルは尻尾を振って、再び城壁の下に降りていく。
下には俺が【植物王】で生やした樹木が、林立していた。
木こりたちが木を切り倒して、せっせと丸太を作っている。
これをリルに運んでもらって、城壁の各所に配置するのだ。
「えっほ、えっほ!」
リルはまるで疲れを知らない様子で、丸太を抱えて階段を登ってくる。恐るべき体力だ。
兵たちは、それを受け取ると縄で固定した。
よし、だいぶ形になってきたな。
「ご主人様! マヒクサの毒壺ができました!」
コレットが壺を抱えて、城壁の階段を上がってきた。
「おおっ! ありがとう、助かった!」
「はい! 未来の妻として当然です!」
俺はさっそく守備兵たちを集めて、説明に入る。
「みなさん、これはコレットが作った毒壺です。これに矢じりを浸して、毒矢を作ってください」
「ど、毒矢ですか?」
兵たちが目を丸くした。
「ご主人様が【植物王】で大量に生み出してくれたマヒクサから抽出した麻痺毒です。わたくしのスキル【創薬S】で、効果を向上させています。ふたりの愛の共同作業ですわ」
頬を赤らめるコレットの戯言はスルーして、俺は解説を続ける。
「急所に矢が当たらなくても、麻痺効果で敵を行動不能に追い込むことができます。麻痺毒なので致死性は低いです。ですが、危険なので毒液を直接手で触れたりはしないでください」
「念のため解毒剤も用意してあります。万が一の時は、これを口に流しこんでください」
コレットが解毒剤を満たした瓶を守備隊長に手渡す。麻痺状態でも体内に入れられるような飲み薬だ。
毒矢は強力な武器だが、扱いを間違えると重大な事故を起こす。そのあたりの対策もしておいた。
「すげぇ、これなら敵が大軍で攻めてきても、なんとか持ちこたえられそうです!」
「アッシュ様は、まさにユースティルアの……いや、この国の救世主です!」
「エルフどもが何人来ようが、みんな返り討ちにしてやりますよ!」
兵士たちに尊敬の眼差しで見られて、俺は困ってしまった。
コレットは微妙な笑顔をしている。
戦争ではあるが、コレットとしてはなるべくエルフの同胞には死んで欲しくないのだ。
そこで毒矢も、致死性の低いモノにした。
俺の目的もエルフの殲滅などではない。キースというエルフの謀反人を倒して、この戦をさっさと終わらせることだ。それが、この街のためにもなる。
「なるべく早く戦争を終結させましょう」
「「はい!」」
兵士たちは大声で返事した。
「ひぃやぁあああ!?」
その時、遠くから悲鳴が聞こえた。
城壁から見下ろすとオオカミ型魔獣の群れに、馬に乗った行商人の一団が追われている。
行商人は街を移動する際、護衛の冒険者を雇うのだが、その護衛たちは全員、倒されてしまったらしい。
「いかん、迎撃の守備隊を出せ!」
守備隊長が指示を飛ばす。
「隊長! あれはBランクの魔獣の群れです。城壁から矢を射掛けて、弱らせてからでないと、こちらにも大きな被害が出ます!」
「ダメだ! 商人たちとの距離が近い! 下手に矢を放てば、彼らに当たるぞ!」
守備隊に緊張が走った。このままでは、犠牲が出るのは避けられない。
俺はオオカミ型魔獣のリーダーと思わしき個体を探し出す。先頭を駆ける威風堂々とした狼──多分、アレだな。
「【世界樹の剣】、『長弓』形態!」
俺はスキル【植物王】で【世界樹の剣】を射程に優れた長弓に変形させた。
弓を引き絞り、狙いをつけたリーダー狼めがけて矢を放つ。風を貫いて飛翔した矢は、狙い違わず敵の額を射抜いた。
「この距離から一撃で!?」
守備隊長が驚きの声を上げる。
リーダーを倒された魔獣たちに明らかな動揺が走った。群れの動きが乱れる。
今だ。
「リル、あいつらを威嚇してくれ!」
「うん? わかった、あるじ様! ワォオオオオン!」
城壁に上がってきたリルが、耳をつんざく咆哮を放つ。
犬型魔獣の頂点に立つ神獣フェンリルの猛り声だ。オオカミ型魔獣たちは怯えて、鳴き声を上げて逃げ散った。
「さすがはご主人様です! ひとりの犠牲も出さずにあの方たちを助けてしまうなんて!」
コレットが俺に抱きついてきた。
「うぉ!? いや、リルのおかげだ。相手が犬型魔獣だったから、効果てきめんだったな」
「あるじ様、それ違う。あるじ様が群れのリーダーを一撃で倒したから、みんな恐れをなした」
「本当にありがとうございます、アッシュ様! 我らだけでは、あの群れの相手は厳しかったです」
守備隊長が頭を下げてくる。
その目には、掛け値なしの尊敬が宿っていた。
「アッシュ殿がこの地にやってこられ、ご領主様の兄君になられたことは、まさに天佑でありましょう!」
「「ぅおおおおッ! アッシュ様、ばんざい!」」
俺をたたえる守備兵たちの叫びが響いた。
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