22話。【植物王】で盗賊団を倒す
「ひゃぁあああ! 怖いワン、怖いワン! アッシュさん、よろしくお願いします、ワン!」
イヌイヌ族たちは馬車の客室で、震え声を上げる。
「悪いが、俺たちは護衛に雇われた冒険者なんだ。はいそうですかと、積み荷を渡す訳にはいかないな」
俺は御者台から飛び降りて、盗賊団のリーダーと思わしき少女の前に歩み出た。
「ぷっ! カッコつけちゃって、あんたFランク冒険者じゃないの?」
少女は俺が首から下げたプレートを見て、吹き出した。これは死亡した場合に、身元がすぐにわかるようにするため冒険者ギルドが発行している認識票だ。
そこには冒険者ランクを示す『F』の文字があった。
「ブハハハハッ! 田舎ギルドの底辺冒険者風情が、俺たち『ベオウルフの盗賊団』に逆らおうたぁ、笑わせる!」
野盗たちは一斉に爆笑しだした。
多分、これは俺たちを威圧するためだな。気が小さい者なら、これだけでブルって逃げ出してしまうに違いない。
「あるじ様。この人たち、どうして笑っているの?」
リルが馬車から降りてきて、小首を傾げる。彼女の首からもFランク冒険者のプレートが下がっており、野盗たちの笑いはさらに高まった。
「おいおい、こんなちっこい小娘まで、護衛の冒険者ってか?」
「ひゅー! こっちのエルフ娘は、かなりの上玉じゃねぇか!」
「まさか護衛はこれだけか? 3人ともFランクたあ、舐めすぎだぜ」
「私たちも鬼じゃないわ。荷物を置いて立ち去るなら、怪我はさせないけど?」
コレットを見て下卑た顔つきになった男もいたが、リーダーの少女が手で制した。
「怪我? ……リルたちに怪我? うーん
らリル、わからない」
リルは彼らの態度の意味がわからず、腕組みして本気で悩む。リルに怪我をさせられる者など世界広しと言えど、そうはいないだろう。
「おい、この小娘、頭も弱ぇみてぇだな」
「世の中の厳しさってヤツを教えてやるか?」
盗賊団の連中は、俺たちを完全にあなどった様子で武器を構えた。
「リル、コレットと一緒にイヌイヌ族の護衛を頼む。ふたりはディフェンス担当だ」
「うん。わかった、あるじ様」
「お任せください!」
リルとコレットは、馬車を守るために下がった。
俺は【世界樹の剣】を抜く。
この手の連中には、100の言葉よりも1つ暴力で語った方が通じるからな。
「なに? アンタやる気なの? はぁ〜、無益な殺生はしないのが私の流儀だけど、腕の一本くらい覚悟してもらうわよ」
リーダーのハーフエルフ少女が、指を鳴らした。
「おぉおおおおっ!」
騎乗した野盗のひとりが槍を構えて、俺に突っ込んで来た。
人馬の力とスピードを槍の穂先の一点に集中させる騎兵最大の攻撃、ランスチャージだ。こいつ、騎士崩れか何かか?
訓練された正規軍並みの動き。真正面から受けるのは危険だな。
「いでよ、大木!」
俺はスキル【植物王】で、野盗の進路を完全に塞ぐように大木を数本、召喚した。回避不可能なタイミング。即席の馬防柵だ。
「なにっ……!?」
野盗は突如出現した大木に激突して、派手に落馬した。
「今のは、魔法じゃない。スキル攻撃!? いや、防御系のスキルか!?」
「おい、まさか騎馬突撃が通用しないなんてこたぁ……!」
野盗たちに緊張が走った。
障害物を自由に出現させられるとなれば、騎兵最大の利点である機動力が封じられる。
【植物王】は戦闘系スキルではないが、応用力は抜群だな。
「俺のスキルは【騎兵殺し】だ。騎乗した状態では絶対に勝てないからな」
ハッタリをかます。
ぶっちゃけ騎兵は街道のような開けた地形では強いので、降りてもらえるとありがたい。
集団でランスチャージなどされたら、ヤバい。
「くっ……! 強スキルを持っているのが自慢って訳? おもしろいわ。下馬して一斉にかかりなさい!」
リーダーの少女が叫ぶ。馬から降りた荒くれ者たちが、俺に襲いかかってきた。
俺は正面から向かってきた男に、こちらから踏み込んでいって、蹴り倒す。
男は背後の数人を巻き込んで、盛大に倒れた。
「どぁああああッ!?」
「さすがはご主人様です!」
コレットが歓声を上げる。
俺は【植物王】のマイナス効果で、筋力が80%も落ちているが、体重を乗せた蹴りなら不利を補える。
側面から突進してきた男をかわし、相手の頭に剣を叩き込む。
同時に【世界樹の剣】を【植物王】の植物武器化で、打撃に特化した戦鎚形態に変化させた。兜を通して衝撃が伝わり、相手は昏倒する。
「形が変わった? なんだ、あの剣は!?」
どよめきが上がる。
次々に男たちが向かってくるが、包囲されないように動きながら、沈めていく。
「な、なによ、あんた……こんな凄腕の戦士がどうしてFランクなの!?」
リーダーの少女が絶叫した。
「お嬢! 後ろの小娘もえらい強さでぇさあ!」
コレットとリルの元にも野盗たちが突進していったが、すべて返り討ちにされていた。
リルに殴り飛ばされた男たちが、悲鳴を上げて宙を舞っている。
「うん。楽しい、もっと遊ぼう!」
リルはこれを遊びか何かだと感じているようだ。
「【爆裂】!」
コレットが魔法を唱えると、爆発が起きて、数人が吹っ飛んだ。
彼女は攻撃魔法の心得もあるようだ。さすがはエルフの王女だ。
「くっ! もう、いいわ下がりなさい! このあたしが相手をするわ!」
リーダーの少女が俺に向かってきた。
「【ベオウルフの盗賊団】の二代目、レイナ・ベオウルフよ! 父さんから受け継いだ魔法剣を見せてやるわ!」
「【銀翼の鷲】のFランク冒険者アッシュだ。相手になる!」
相手が戦士として名乗りを上げてきたので、俺も礼儀として名乗り返す。
しかし、名乗りの段階で自分の手の内を晒してしまうとは、野盗にしては正直すぎるな。よほど、その魔法剣に自信と誇りを持っているのだろう。
あるいは強力な力を持っていることを伝えて、俺をビビらせるのが狙いか?
「はぁあああ! 雷神閃!」
レイナは剣に雷の魔法を付与した。紫電をまとった神速の斬撃が、襲いかかる。
「おっと!」
俺はバックステップで距離を取って、空振りさせた。
雷の魔法剣のやっかいなところは、剣で受けると感電してダメージを食らうところだ。
特性を知っていなければ、初手で負けることもあり得る。
「【魔法の矢】!」
間合いが開いたと見るや、レイナは光の矢を放つ。敵を片時も休ませない連続攻撃だ。
強い。剣の腕前もさることながら、強大な魔力も備えている。
正攻法で崩すのは、骨が折れそうな相手だ。
なら、ちょっと意表を突いてみるか。
俺は回避すると同時に、【世界樹の剣】をレイナに向かって投げた。
「武器を手放すなんてバカじゃないの!?」
レイナはしゃがんで攻撃をかわすと、勝利を確信して突っ込んできた。
よし、かかったな。
俺はすぐさま【世界樹の剣】を手元に召喚。さらに【植物王】の武器化能力で、槍に変形させた。
「はぁっ!?」
レイナは目を剥いた。
丸腰であったハズの相手が予想もしていなかった武器を手にしたのだから、当然だ。
「ぎゃあ!?」
俺はレイナの右手を石突で打ち据えた。レイナは痛みから、剣を取り落とす。
俺はレイナの首筋に、剣に変形させた【世界樹の剣】の切っ先を突きつけた。
「剣になった!? な、なによ、その武器は……!?」
「これが俺のスキル効果だ。武術とスキルを組み合わせた、俺独自の戦い方を模索中なんだ」
本当は剣術が最も得意だが、戦い方の幅を広げるために、戦鎚や槍も使ってみた。
「【騎兵殺し】がスキルというのは嘘だったのね!?」
「自分のスキルの詳細を敵にしゃべるなんて、あり得ないだろう?」
敵に誤った情報を伝えて撹乱する戦い方は、【神喰らう蛇】4番隊隊長ギルバートから教わった。
戦闘とは力比べではなく、知恵比べなのだ。
「くっ……こんな、こんな……私が、父さんの魔法剣がこんなヤツに!?」
レイナは歯ぎしりして悔しがる。
「お前たち、全員武器を捨てろ!」
俺は野盗たちに投降を呼びかけた。リーダーを人質に取られて、彼らは明らかに動揺している。
「さすがは元【神喰らう蛇】一番隊隊長のご主人様です!」
コレットが無邪気に手を叩く。
その発言に、野盗たちは口をあんぐりと開けた。
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