12話。究極の霊薬エリクサーの調合
ふう、なんとか休戦に持ち込めたぞ。これで、ようやく食事が楽しめるな。
コレットとミリアの怒りのボルテージが下るのを確認して、俺はパンに手を伸ばす。チーズを挟んで食べると、絶品だった。
「あるじ様、い、一緒に寝る……」
リルが俺の膝の上で、ウトウトしだした。
食べて眠くなったら、すぐに夢に直行とは、まるで子供みたいだな。問題児だけど、寝顔はかわいい。
「ミリア様、折り入ってお願いがあるのですが……」
コレットが襟を正して、ミリアに語りかけた。
「何かしら?」
「この街に使われていない創薬室は、ございませんか? わたくしはエリクサーを作りたいと思います」
その一言に、俺とミリアは驚愕した。
エリクサーは怪我だけでなく、いかなる病気や状態異常も治すと言われている究極の霊薬だ。
その調合方法は大昔に失われており、入手難易度Sランクに指定されている。ごく稀にダンジョンや遺跡で発見されると、金持ちや王侯貴族がオークションで大金を叩いて買い求めた。
俺も実物を拝んだことは数える程しかない。
「エルフ王家にはエリクサーの調合方法が伝わっているのです。せめてもの罪滅ぼしに、エリクサーを提供させてください」
「エリクサーを売れば、すさまじい大金になるぞ……」
コレットが提案したいこととは、このことだったのか。
街はグリフォンの襲撃で、火災が起きてひどい有り様になっていた。その復興に大いに役立つだろう。
「はい。エリクサーの材料は、ご主人様が召喚できるエリクサー草をはじめとする各種薬草です。経費ゼロで、作ることができます」
「そ、そんなことができれば、この街は一気に潤うわ!」
ミリアは身体を震わせた。
「ミリア様のお父様は、ご病気だとお聞きしました。わたくしのエリクサーで癒やして差し上げることができます」
「ホント!?」
万能薬であるエリクサーなら、どんな病気でも治すことができる。
俺の副隊長だったサーシャの妹も救えるかも知れないな。降って湧いた幸運に、俺も興奮気味になった。
「わたくしは薬師のスキル【創薬S】を持っています。本来ならエリクサーの調合には長い工程がかかる上に、失敗することもあるのですが。一週間でひとつ、確実に完成させることができます」
それはすごい。
「コレット。良かったら、俺にもエリクサーをひとつくれないか?」
「もちろんです、ご主人様! いくらでもご主人様のためにお作りいたします。わたくしのすべては、ご主人様のモノですから!」
コレットはパッと笑顔になる。
「ご主人様の【植物王】とわたくしの【創薬S】は、相性抜群です! まさに、わたくしたちは夫婦となるために生まれてきたのだと思います!」
「いや、それは多分、偶然だと思うが……」
「でも、エリクサーの調合方法は秘中の秘です。できれば、作業中の創薬室には誰も近づけないでいただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
コレットがミリアに尋ねた。
なるほどな。このために人々が大勢集まっていた場では、罪滅ぼしの具体的な方法について言葉を濁していたのか。
エリクサーの調合方法は、エリクサーそのものより価値が高い。
コレットを捕えて拷問してでも聞き出したい人間がいるだろう。
「わかったわ。そんな技術を盗んだりしたら、それこそエルフを完全に敵に回すかも知れないものね。あなたがエリクサーを作れることは秘密にします。
作業中は信頼できる騎士たちに護衛させるわね」
「ありがとうございます!」
「エルフの捕虜たちの身柄についても危険が及ばないように、努めさせていただくわ。安心してちょうだい」
ミリアが胸を叩いた。
◇
その夜──俺は寝室のベッドで、ふたりの美少女に身体を密着されて、目がギンギンに冴えてしまっていた。
「ミリアさん、少し遠慮してください。ご主人様が困っているじゃないですか!?」
「あなたこそ、慎みってものがないの!?」
コレットとミリアが、俺を挟んで口論している。
両手に花の状態だが、胃に穴が空きそうで、ちっともうれしくなかった。
宴の時は、仲良くなれそうな感じだったのにな……
「あるじ様!」
リルが俺の上に飛び込んできて、ボディプレスを食らわせてきた。
「ごはっ! ゲホッ!?」
すさまじい衝撃を胸に食らって、息が詰まった。
リルはさっき眠ったおかげか、元気いっぱいだ。
「ああっ! そんな抜け駆けを!?」
「リルさん、ご主人様の上から、離れてください!」
「嫌だ!」
リルを俺から引き離そうと、コレットとミリアが奮闘する。しかし、パワーでは圧倒的にリルが上であり、リルは俺にしがみついて離れない。
そして、パワーでかなわないのは俺も同じだった。
「リル、痛いって! マジで! ギブ、ギブッ!」
「ご主様が!? いけません、わたくしが回復魔法で癒します! 服を脱いでください!」
「コレット王女、どさくさに紛れて、何をしようとしているのよ!?」
「ちょっとぉおお! かんべんしてくれぇ! 俺は休みたいんだよ!」
そんなこんなで、夜はふけていった。
「マジで疲れた……やっと眠ってくれたか」
やがて3人娘たちは、クークー寝息を立て始めた。
俺はスキル【植物王】で、睡眠薬の材料となる植物ネムネム草をベッドの下に召喚していた。
この花の香りを嗅ぐと、人は眠くなる。
コレットたちには、これでダウンしてもらった。
同時に俺は【植物王】Lv3の能力『植物の効果無効化』を発動させていた。
故にネムネム草の効果は、俺には及ばない。
俺は3人娘たちを起こさないように、そっと立ち上がる。ソファに身を横たえると、毛布を被った。
悪いが結婚もしてない女の子と一緒に寝るなんてことはできない。もし間違いがあったら困るからな。
『植物の効果無効化』の能力をカットする。すぐに睡魔が襲ってきた。
これから毎日こんなことが続くと、思うとたまらないな。俺は暗鬱な気分になりながら、夢の中に落ちていった。
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