第40話 証拠(3)——side勇者アクファ
少し時を遡る。
騎士エリゼが、デーモの取り調べをしていた時のこと——。
☆☆☆☆☆☆
デーモに魔導爆弾を渡したのは一体誰なのかを知るために、騎士エリゼは調査を行っていた。
騎士の仲間や、王国民を何人も殺してきた凶悪な兵器。
これ以上野放しにはできない。
その途中で、ある人物が浮かび上がる。
——勇者アクファが怪しい。
デーモと勇者アクファが、なにやら怪しい共同事業を行っていたことを突き止めていた。
武器の加工転売をはじめ、様々な悪いことを。
いずれ勇者アクファを告発し、王国に調査を求めるつもりだ。
もっと詳しく調べれば、手がかりをつかめるかもしれない。
しかし、腐っても勇者だ。騎士と同等の地位がある勇者アクファを追い詰めるにはもう少し証拠が必要だ。
「な、何? 元ギルマス・デーモが死んだ?」
事態が予想以上に早く動き、騎士エリゼは不安を覚えた。
死因は分からない。看守が発見した時は、何か黒いモヤのようなものが死体の周囲に漂っていたようだが、その正体も不明だ。
焦りを覚えるが、ぐっと堪える。
……フィーグさんは今どうしているのだろう?
同じ勇者パーティに所属していたフィーグさんなら、何かを知っているのかも。
騎士エリゼは、イアーグの街にいるフィーグに通信魔道具を使って、冒険者ギルド経由で連絡を取った。
「フィーグさん、お久しぶりです。お体の調子はどうですか?」
「エリゼ様、お気づかいありがとうございます。はい、みなさんのおかげで完全復活です!」
「元気そうで安心しました。それで、少しお尋ねしたいことがあるのですが……」
騎士エリゼは、デーモの死亡事件について伝えた。死体の状況、そして犯人が見つかっていないこと。
勇者アクファと親しくしていたこと。
「それで、元ギルマス・デーモと親しくしていた勇者アクファについて、何か、気になったことなどありませんか?」
フィーグは、ここで勇者アクファの名前が出ることを不思議に思っていた。
騎士エリゼが、勇者アクファを疑っていることを告げていないからだ。
「うーん、そうですね。ひょっとしたら、彼はスキルが暴走しているかもしれません」
「暴走……ですか? フィーグさんが整備されていたのでは?」
「いえ、それが……勇者アクファはスキルが暴走するなんて、考えていないようでして。いくら説明しても、分かっていただけなくて」
「な、ん、で、す、って?」
騎士エリゼの語気が荒くなる。騎士エリゼはフィーグの意見を聞かない人間に腹を立てた。
その様子では、きっと扱いも良くなかっただろうと騎士エリゼは怒りを覚えたのだ。
「失礼しました。なるほど、暴走していると」
「本来のスキルと逆の効果が発生する可能性もあります。俺がいたときはあまり気にならなかったのですが……今はどうなのか分かりません」
「なるほど……もし、暴走していることを確かめるにはどうしたらいいですか?」
「俺が診断するのが一番ですが……そうでなければ、スキルを使ってもらうのが良いかもしれません」
「スキルを使ってもらい、効果を確かめると。フィーグさん、ありがとうございます。ちなみに、それ以外で暴走を判断する方法はありますか?」
「スキルが暴走してしばらくすると、精神に影響を及ぼすみたいで……オレの幼馴染みの話なのですが」
「幼馴染み」
「え、はい……その幼馴染みのじいさんがスキルの暴走を起こしたとき——」
フィーグは、レベッカの装備屋で起きたことを説明した。
レベッカの祖父の性格が怒りっぽくなってしまったことを。
「そんなことが……」
「はい。じいさんの場合は、怒りっぽくなる程度でしたが、酷いときは突然叫んだり、幻覚を見ることもあるみたいです。もしかして勇者アクファに会うのですか?」
「そうかもしれません」
「でしたら、気をつけてください。勇者としての力はあるので。騎士エリゼ様は【祝福】のスキルを持っていらっしゃったと思います。そのスキルを使って、精神力など高めておくと良いと思います」
「ありがとうございます。分かりました。大変に参考になりました」
☆☆☆☆☆☆
フィーグの助言のとおり、騎士エリゼは勇者アクファと話をする前に、自らに【祝福】をかけていた。
彼女が強気で勇者アクファと話せたのは、フィーグの助言があったからだ。
——さすがですわ。フィーグさん。
そう心の中でフィーグに感謝をしつつ、【祝福】を解除する騎士エリゼ。
——ここまでは順調です。ここからが私の戦いです。
「ええ。構いません。ですので、どうぞ、私に【祝福】を」
騎士エリゼは、静かに勇者アクファに言った。
——勇者アクファが罠にかかった。
内心で、そう思いながら。
☆☆☆☆☆☆
「【勇者:祝福】スキル、起動!」
勇者アクファは声も高らかに叫ぶ。
すると、彼の周りから黒いモヤのようなものが沸いて騎士エリゼに向かっていく。
どう見ても、祝福という名のスキルから発生するものではない。
「くそっ! なぜだっ!?」
勇者アクファは叫んだ。
——俺様はスキルの反転などしていない。なのに、なぜ……?
——まさか……反転などではなく……? 本当に……暴走なのか?
勇者アクファの背筋に、つーっと冷たい汗が流れる。
黒いモヤは完全に騎士エリゼを包んだ。
「ぐっ……なるほど……これか……はぁっ、はぁっ……はぁッ……」
騎士エリゼは膝をつく。
強力な身体へのデバフがかかり、身動きができない。
査察官は顔色一つ変えず、騎士エリゼを凝視している。
——息をするのが苦しい。確かにこのままでは死ぬだろう。
騎士エリゼは思う。しかし、彼女の表情はむしろ喜んでいるようだ。
意を決して叫ぶ。
「勝負だっ! 【聖騎士:祝福】、起動!!」
相対する二つのスキルが、エリゼの周囲でぶつかり合う。
——フィーグさんは自分の力を信じろと言ってくださった。だから、躊躇なく勝負をかけられる。勇者スキルが何だというのだ。私はずっと……。
くわえて、私のスキルは、フィーグさんにメンテしてもらった時の【絶好調】ボーナスが、まだ残っている!
フィーグさんの力と私の力が合わされば、絶対に負けない!
騎士エリゼの周囲を光のオーラが包む。
黒いモヤと光のオーラが混ざり合い、お互いを消そうと渦を巻き始める。
「はっ、はっ、はっ……」
騎士エリゼは息を吸えなくなっていた。しばらくすれば窒息してしまうだろう。
彼女は意識が遠くなっていくのを感じていた。
その一方……。
——こいつ、何をした? この俺様と同じ【祝福】を使ったのか? 俺様のスキルに勝てるはずがないだろう? でも、もしこの女騎士が死にでもしたら?
勇者アクファの焦りは増すばかりだ。
だからといって、他の人間の目もある。迂闊に動くことはできない。
一方騎士エリゼは、必死に苦しさと戦い、意識を失わないように神経を集中させる。
——あと、もう少し……。
そして……。
パン! という音が部屋に響く。
スキルの勝敗が決したのだ。
「はぁ……はぁ……ふう」
騎士エリゼが、光のオーラを纏って立ち上がる。
彼女は勝利したのだ。
騎士エリゼは、息を整えると、口元を緩め勇者アクファに言う。
「これはこれは……勇者アクファ殿、あなたが夢で見た、元ギルマス・デーモを殺したものにそっくりなスキルでしたねぇ」
「い、いや……それは……」
勇者アクファは焦っていた。額に大量の汗を浮かべている。
——どうしてこうなった? 罠に嵌められていたのは俺様だった? ……バカなのは俺様の方だったのか?
そう勇者アクファは思うのだが、全て後の祭りだ。
完全に騎士エリゼを舐めていたことを後悔し始める勇者アクファ。
「残念ながら、勇者アクファ、あなたの帰りは遅くなりそうですねぇ」
騎士エリゼは嬉しさを隠せない。
そして、内心でにっこりと微笑む。
——フィーグさん、あなたのおかげで、勇者アクファを追い詰めることができます……!
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