49話 極上ローストビーフ? いえ、ローストドラゴンです
「おい、校門前に可愛い子が来てるらしいぜ」
「まじか。ちょっと見てみようかな」
「中学生っぽくね?」
「中学生であのレベルはやばいだろ」
放課後。
夕暮れに混じって男子たちのざわめきが耳をかすめる。
可愛い子。可愛い子かー。
……俺も見に行っちゃおうかな!?
いや、でもこれから【にじらいぶ】のミーティングが図書室であるしなー……。
「ちょっと地雷って感じだったけど、めっちゃ好みだったわ」
「わかる。髪にメッシュ入れてたから校則が緩い学校なんかな?」
「あの制服って聖蘭学院だったと思う。小中高大学まである女子校だよ」
「なんでキリスト系の学校って制服が可愛いんだろうな?」
「いいなー彼氏待ちとか?」
ほう。
女子校か。
よし!
ダッシュで引き返せばミーテイングに間に合うから見に行っちゃお!
すると、そんな俺の決意を見透かすようにポケットのスマホが振動する。
『案内、任せたわよ』
紅からのメッセージだ。
ちらりと彼女の方を見ると、スマホを口元に寄せながら颯爽と教室から出てゆくところだった。
なんのこっちゃ。
俺は紅からのメッセージを深く考えずに校門へと向かう。
おーおー、男子共がちらほら遠巻きに噂の美少女を見に来てるな。
話しかけるまでとはいかずとも、さりげなくチラチラ見てる。そして肝心の女子中学生は、ふーむ。瑞々しい黒髪ハーフツインテールに、ほどよく白いメッシュを入れておられる。
うわ、確かにあどけない顔立ちの中にも美人要素がつまってるなあ。
目なんか猫みたいに大きいし、研磨された黒曜石みたいに煌めいている。純粋さを感じられる白い肌に、形の整った薄桃色の唇がなんとも可愛らしい。
そんな美少女が校門横の壁にもたれかかりながら、退屈そうにしているのだ。
なんだろう。
放課後のワンシーンとしてとても映えるぞ。
ん?
映える?
自分が自然と撮影思考に入ってからハッと気付く。
んんんー、なんだかあの子……誰かに似てるな?
そう、つい最近【にじらいぶ】に加入した——————
「あっ、白先輩っちゃ。今日はミーティングって聞いたけん、こん学校にきたばい」
はーい、はいはいはーい。
やっぱりそうですか。
【闇々よる】こと黒宮夜宵でしたか。
はいはい、ざわめくよなあ男子諸君。
【おじ】と呼ばれる疲れ切った俺が謎の他校生に話しかけられるとか、そりゃ俺だってビックリするさ。しかも超がつくほどの美少女ならなおさらだ。
「ん? どげんしたと? 夕姫先輩から案内役たのまれたんやろ? 職員室で来賓用のプレートもらなあかんって聞いたで?」
なるほど。さっきのメッセージはそういうことですか、紅社長。
「はいっす。ご、ご案内いたします」
「んんー、そうだ白先輩。うちの今日の髪色、どうっちゃ?」
「ん? 前は青メッシュだったのに、今日は白メッシュなんだな?」
「えへへ、うちの今日の推し色は白だっちゃ」
「ほーん……とりあえず夜宵。周囲の視線が痛いから腕を放そうか。それとさっさと職員室に行こう。ミーティングに遅れると紅が怒る」
「白先輩って意外にうぶなん?」
「いや、まじで紅は怒ると怖いんだよ」
「ふーん」
こうして紆余曲折あり、周囲の視線を痛いほど集めながらようやく人目が皆無の図書室へと到着。
「今日のミーティングに黒宮さんを招集したのは、暴露情報を共有してもらうためなのよ」
「全部やなか、ばってん大事そうな裏情報はまとめてきたばい」
そう言って、夜宵がまとめたデータが俺たちのスマホに送信される。
同時にプリントアウトしてくれたレジュメまで用意しているあたり、夜宵って仕事ができるんだなーとか感心する。
実は【にじらいぶ】のミーティングはビデオ通話などでしたりもあるが、重要な方針を決める際はこうやって直接顔を合わせて話し合おうというのが紅の方針なのだ。
理由は実際の肌感、空気感、各ライバーの感情をより汲み取りやすいからだそうだ。
さてさて、夜宵が提供してくれた暴露情報に目を通すと————
うわ……エグいなあ……あの有名イケメンYouTuberが未成年と淫行してるのか……。うわ、こっちの女性VTuberはホストに1000万注ぎ込んで……『リスナーは奴隷! 私のATM!』とか酔っぱらいながら叫んでる証拠動画まであるのかよ……。
ん?
【枯れた歌姫】が【星々が沈まない街】にいるっていうのは……パンドラ情報か?
「なあ、この【星々が沈まない街】ってステラのことか? ほら吟遊詩人が集うーって街があったろ?」
ゲーム時代にもあった街名を口にすれば、紅が大きく頷く。
「【星々が沈まない街ステラ】は最近、【千獄の鍛冶姫】が解放した黄金領域よ」
「鍛冶姫……ああ、魔王ちゃんか」
確かタロさんが『白銀の天使』ちゃんで、マオって子が『銀閃の魔王』だっけ。
「それで、その【星々が沈まない街ステラ】にいる【枯れた歌姫】っていうのは?」
「たぶん……有名な歌い手VTuberの【紫音ウタ】です」
「【紫音ウタ】。オリコンヒットチャート1位に輝き、アニソンから映画、ドラマの主題歌まで大活躍していた歌姫VTuberよ」
「白くんは『新異世界』って曲名、きいたことないかな?」
「あっ。マンピース映画の主題歌!」
「ウタちゃんな、ばり頑張っとって、うちにリークされてくる情報も全部きれかもんばっかりやった。それなんに……」
おお、夜宵にしては珍しく【紫音ウタ】とやらを推してるような喋りだな。
「声、出なくなったらしくて活動休止中なのよね。声が枯れてしまった歌姫。だから【枯れた歌姫】なんて呼ばれているわ」
「そ、そんな有名人がどうして異世界にある【星々が沈まない街ステラ】に?」
「謎よね」
「うちはウタちゃんの……抱えとー、闇ば暴きたか! やけん『にじらいぶ』のみんなで【星々が沈まん街】に行きたか! どうやろう?」
なるほど。
今回のミーティングは歌姫の闇を追うか否かを決定するためのものか。
『にじらいぶ』全体の週末コラボに向けて、企画案を夜宵が持って来たってわけだ。
「みんなの意見を聞きたいわ」
「僕は……紫音ウタさんの暴露は、生配信でなければ賛成です。相手の事情もあるです」
「んーそうだなあ……本人が触れてほしくない事情もあるだろうし、いきなり生配信で突撃するのは違うかなあ」
「べ、べつにっ、うちはウタちゃんの弱みば握りたいとかじゃなくて……なして声が出らんくなってしもうたんか……また活動は続けらるーとか、とか……」
「ようは【紫音ウタ】が心配なのよね?」
「……うっ、そうばい」
「じゃあこうしましょう。一応、録画はしておくけれど【紫音ウタ】と接触できた場合、相手の許可が取れれば、後日しっかりと編集した動画をアップしましょう」
『にじらいぶ』の方針が決まったところで、今日の放課後はどうするかという話題に変わる。
「これから【星々が沈まない街ステラ】に行きたか、どうやろ?」
「そうね。軽く調査を始めましょうか。でも、その前に————」
紅はにっこり笑顔で俺にのたまう。
「冒険の前の腹ごしらえというのはいかがかしら?」
「賛成です!」
「さすがきるるん、一生ついてゆくよ!」
「しっ、白先輩のごはん……!」
あははは。
これは料理確定ルートのようだな。
「承知いたしました。で、また図書室の資料室で調理すればいいのか?」
「屋上を使う許可を取ってあるの。あと料理もね?」
「紅さん、仕事早くてさすがっす」
どうやら最初から俺に料理させるつもりだったらしい。
そうと決まれば、俺の瞳に記録魔法を授けられる。配信ではなく録画スタートだ。
「「「「【魔法礼装!】」」」」
煌びやかな光の中から、現れたのは制服姿の推したちだ。彼女たちはそのまま元気に階段を駆け上がってゆく。
うん。
まるで推したちとの学園生活を夢想させられるシチュエーションだな。まさに『推しと放課後を一緒に過ごす』といったテーマのプロモーション撮影みたいだ。
ちょっとテンション高めの彼女たちは————おっと、画角的に俺が追いかける形になっているから、どうしても階段下段にいるわけで————スカートから伸びるあられもないおみ足が、眩しいぞおおおおおっと、絶対にパンツが見えないように、ギリギリに調整しつつ、よい! よい、よいぞおおおお!
そして開放的な屋上へと推したちはたどり着く。
「んんー風が気持ちいわね」
「うわー校庭の生徒さんが小さいです! 丸見えです!」
「空が澄んでて綺麗だね」
「夕日が眩しいっちゃね」
夕焼けを背景に推したちが思い思いの自然なポーズを取っている。
伸びをしたり、眼下に広がる生徒たちをはしゃぎながら観察したり、遠くの方を眺めていたり、端っこにちょこんと体育座りしたり。
うん。
これはなんてMVですかね!?
ここになんかそれっぽい楽曲をつけたら、ほんとにそれっぽくなるのぞ!?
おっと、彼女たちの可愛さに目を奪われている場合じゃない。
仕事、仕事っと。
俺は急いで【宝物殿の守護者】から、調理道具や食材を出してゆく。
まずは先日ゲットした竜の肉だ。
その中でも特に美味しそうな赤身の強い種類をチョイス。
「ナナシちゃん、それは何のお肉かしら?」
きるるんお得意のクッキング合いの手トークを入れてくる。
「【呪いの古竜】の肉塊です」
「なっ、なかなかに仰々しい名前のドラゴンね?」
「食べて大丈夫です?」
「執事くんが大丈夫って言うなら問題ないんじゃないかな」
「執事先輩しか勝たんばい」
さてさて。
この竜肉にフォークをぷすぷすと刺して、穴をいくつか開けてゆく。
おっ、意外にやわいな。
次ににんにくをすり潰して、耐熱の保存袋に投入。
そこへ竜肉も入れて、塩こしょうとオリーブオイルを混ぜてゆく。
各調味料がしっかりと竜肉に沁み込むように、もむもむもむ。
もみもみもむもむ。
わりと普通に美味しそうな赤身肉ができあがる。
保存袋の空気を抜いて口を閉じる。それから俺は食材の時間を操る技術を発動。
「————【時を駆ける黄金食材】」
だいたい15分後から20分前後か?
うん、ちょうどいい塩梅だ。
それから俺は炭焼きセットに鍋を置いてお湯を沸かす。
沸騰した時点で、ゆっくりと竜肉が入った保存袋を落とす。それからフタをして竜肉がうっすらと白みを帯びるまで、じっくりとゆでるのだが————
再び【時を駆ける黄金食材】で時とばし。
おお、茹でた保存袋の口を開くと、にんにくの香ばしいにおいが胃を刺激してくる。
俺はすかさずフライパンに火を通し、保存袋からペースト状になったニンニク部分のみを垂らしてゆく。さらにオリーブオイルを追加して弱火で温めれば————
「にんにくの香りが際立つわね」
「んんー、あっ、竜肉をついに投下です!?」
「ころころと転がってゆく肉厚お肉……焼き色がほんのりつき始めてるね!?」
「執事先輩の飯テロターン見よーときに思うとった。やっぱりこれって拷問ばいね?」
ふふふ。
外野がなんやかんやとはしゃいでおられるが、俺はこの竜肉をローストするのに全力集中!
ここでの焼き加減に上質な味わいが懸かっているのだ!
よし、よし!
おおらかな朱玉色に染まった瞬間を期に、竜肉を取り出す。
そこから粗熱を取りラップで優しく包む。
「————【手の中の氷獄】————【時を駆ける黄金食材】」
普通は冷蔵庫で1時間ほど冷ます必要があるが、俺は技術によりその工程を一瞬で完遂する。
さあ、あとは竜肉を食べやすいようにスライスして、絶品ソースをかけるだけだ。
「芳ばしい匂いを漂わせながら、ゆったりとカットしてゆくなんて……罪深いわよ」
「あっ、ソースです! 和風です?」
「はい。保存袋にあった肉汁をたっぷりと使用しながらも、みりんと本つゆ、そしておろしにんにくを融合! ————【嵐神の暴風】!」
これらをひと煮立ちさせ、あとは好みでわさびをつけるがよろし!
「とっても赤身の色が鮮やかね……そこへ芳醇な旨味が滴るソースを、かけ、ちゃうのよね……?」
「綺麗です。ビロードみたいに広がっていて、うすいです?」
「がっしりとした肉塊も好きだけど、こっちは優しい印象があるよね」
「ゴクリ……食べて、よか?」
「【ローストドラゴン】の完成です!」
「いただくわ!」
「いただくです!」
「いただきます!」
「いただくばい!」
もきゅっ、もきゅっ、もきゅっ……。
推したちは竜肉を食べた後、ゆったりと余韻を楽しむ。
それから瞬く間に二切れ目に突入。
「んっ、んっ……ふんわりと華やぐ肉の旨味、まるでお口の中がそっと包み込まれているようだわ」
「はぐっ、んっ……お肉の包容力です!」
「んくっ、もぐっ……強者のお肉が紡いだ逸品に、死角なし!」
「もきゅもきゅもきゅ……うまかぁ……」
「ぴょこっ?」
「お? ピヨも食べるか?」
胸ポケットから出てきたのは幼竜……というか雛のピヨだ。
もちろん命名は俺。
実はきゅーの魔法? のおかげでピヨのサイズも自在に変化できるらしい。だからピヨときゅーは今まで俺の胸ポケットですやすや眠っていたのだ。
二匹でもぐっているとあったかくて気持ちいらしい。
俺も混ざりたい。
「えっ、え!? ナナシちゃん、その究極に可愛いひよこちゃんは何かしら?」
「あっ、お伝えしてませんでしたか。【無限つなぎの白竜】のひよこ……じゃなくて、幼竜です」
「聞いてないわよ!? なんなのよ……この可愛いの権化は……! また私にひもじい思いをさせる気!?」
あーきるるんっていっつも、もふもふとかふわふわとかに敬遠されてるもんなあ。
ピヨは大丈夫かなあ。
「ほら、ピヨ? お嬢様にご挨拶しましょう」
「ぴっぴっぴっぴっぷっぴっぴっ」
俺の胸ポケットから飛び立ち、きるるんの頭にぽふっとおさまる。
しかもオナラをさりげなくかましている。
「おお、ピヨはいつの間にか飛べるようになったのですね」
「はわぁぁぁぁぁぁぁぁ……うそ、初見で私に懐いているわ!? 見てる!? みんな見てるかしら!?」
そして我らがきるるんはもふもふたちに避けられ続ける日々から、衝撃の出会いに感涙していた。
やったなきるるん。
まんまるのひよこが頭に乗っかって嬉し泣きする推しなんて、きっときるるんぐらいしかいないと思う。
ばっちりとそのシュールな絵面は録画しておくぞ。
「ナナシちゃん! この子は私がもらいうけるわ!」
「ぴっ!」
それは嫌なのかピヨはきるるんの頭を口ばしで一突き、二つ突きしてゆく。さらにそっぽを向いて羽ばたいてしまった。
そんなピヨが俺の肩にとまるのを無言でじーっと見つめていたきるるんは——
現実を知って膝から崩れ落ちた。
もはやお約束だな。
「そうよね……さすがに……いきなりは……でも、あれ、なんでこんなに臭いのかしら? 私が嫌すぎてフンでも垂らされたのかしら……? そんなに私のことが嫌いになってしまったの……? さっきの運命的な出会いは何だったのかしら……?」
「ぴっぴっ?」
「ん? ピヨもローストドラゴンが食べたい? よしよし、ちょっとだけあげましょう」
「ぴっぴっぴっぴぴぴぴぴぴぴ、けぷっ」
「ちょっとナナシちゃん!? ピヨちゃんはドラゴンなのでしょう!? 同族のお肉を食べさせるなんて、なに残酷なことをしているのよ!? 呪われるわ!?」
「ぴっぴぴ、ぷぷぷぷぷぷぷっぷっぷー…………ぴよっ?」
ピヨに呪われるどころか、きるるんに連発でおならを放っただけだった。
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【ローストドラゴン(竜呪)】★★★
太古の呪いを駆使する『呪いの古竜』の肉を使ったローストドラゴン。シンプルでありながら、じんわりと素材の魅力が引き立てられた逸品。
竜肉の美味しさとフレッシュさが、神々の舌に『やみつき』という名の呪いを残すこともしばしば。
あらゆる呪いが込められた肉だが、腕利きの料理人の手にかかれば呪いへの耐性が非常に上昇する。また、強すぎる呪力が既存の呪いを喰らい尽くすこともある。
基本効果……あらゆる呪いを解呪できる。
★……永久にステータス色力+3を得る
★★……永久にステータス力+3を得る
★★★……永久に裏ステータス対呪+30を得る
【必要な調理力:300以上】
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