アイス作り
次の日、リリとシャルロットとゴレムスくんを連れて厨房にやってきた。お嬢様を厨房に連れてくるという暴挙に、料理人さん達は戦々恐々としている。料理長以外の人はリリを直接見ることすら初めてって人もいるんじゃないかな? 居心地が悪いかもしれないけど、ちょっとだけ我慢しておくれ。
「それで、わざわざわたくしまで連れてきて何をするんですの?」
厨房を物珍しそうにしながら歩き回っていたリリが、咳払い一つしてから聞いてきた。リリが近くを歩く度に大袈裟にぶつからない様に離れる料理人を見ても特になんとも思ってなさそうな感じが最高に貴族だね。私だったら嫌われてたりするのかと不安になるとこだよ。
「今日はリリにも協力してもらってスイーツ作りをするよ!」
私の発言に料理人はギョッとした顔をし、料理長だけは期待に満ち溢れた表情を浮かべる。
「わたくし、お料理なんてした事ありませんわよ?」
「それはそうだろうなと思ってたよ。でも今日はすごく簡単だから大丈夫! 今回使う特別な道具はこちら!」
デン、と心の中で効果音を鳴らしながら出したのはブルーメタリックの小さなボトルと、大きなボトルがざっと十本ずつ入ったバスケットだ。
昨晩、浴室に置き去りにされていじけているのか、ただボーっとしてるだけなのかわからないゴレムスくんにお願いして作ってもらったのだ。作ってと言って作ってくれれば苦労もないけど、ゴレムスくんはそんなに素直じゃないから交換条件に悲運のインゴット一個を差し出した。今後はゴレムスくんが役に立ったらお駄賃として悲運のインゴットを差し出して、何かやらかしたら腕をもぎ取ると決めた。少しずつ大きくなっていくのか、はたまた小さくなっていくのか見物だ。
「先ずは下ごしらえからしていくよー! リリ早くこっちおいで」
「わたくしを呼びつけるなんて……。仕方のない人よね、ノエルは」
リリはいつもはつかない悪態を付きながらちょこちょこと歩いてきた。料理人さん達の手前、体裁を整える必要があるのかな? よくわからないけど、私も少し丁寧に接しておこう。
「ではリリアーヌ様、これから卵を割るのでしっかりできているか見ててくださいね」
「いいでしょう」
リリによくわからん任務を与えて私は卵を割っていく。今回使うのは卵黄だけだから卵白は別にして料理長にでも渡しておこう。
「いい感じにできているわ。さすがはノエルね」
何をどう判断してるのかわからないけどさすがは私らしいぞ! 卵黄の入ったボウルに砂糖を入れてからリリに渡す。
「さぁリリアーヌ様、これを掻き混ぜて下さい」
「任せなさい! これを掻き混ぜるのね? 掻き混ぜるわよ? これ潰れるけどかまわないのよね? いきますわよ?」
「はよ行け。……でございます」
妙に心配性なリリは黄身を潰す事を躊躇っていたが私の指示に従ってかき混ぜ始めた。黄身を潰した瞬間「あーあ」って言ったら睨まれてしまった。
初めての作業だから当然ぎこち無いけど、それだって思い出だよ。
「リリ、ちょっとごめんね。こんな感じで空気を含ませる様によく掻き混ぜてくれる?」
「ふぇ? わ、わかったわ」
私は後ろからリリの手を取ってシャカシャカと掻き混ぜる。空気を含ませることで滑らかな仕上がりになる。
リリの動きが鈍くなり始めた頃、私が交代してかき混ぜ仕上げをしていく。白っぽくなったら牛乳も足して掻き混ぜた。
「リリアーヌ様、これはリリアーヌ様にしかできない事です。どうかこのボウルに沢山の氷をお恵みください」
「ふ、ふん。わたくしにしかできないのなら、わたくしがやりましょう」
リリは小鼻をピクピクさせながら、受け取ったボウルに氷をボロボロと入れていく。
魔法を初めて見たのか、料理人達はソワソワしている。今のリリはさぞかし気持ちが良いだろうね。別のボウルに氷を少し移して、水も加える。
「さて、ここからは少しだけ火を使うので美しきご令嬢たるリリアーヌ様は少し離れていてください」
だんだんこの話し方めんどうになってきたぞ。さっき混ぜてた奴を弱火にかけながら混ぜる。少しとろみが出てきたら氷水にお鍋ごと突っ込んで冷まし、生クリームを追加して混ぜればアイスクリーム液の完成だ!
「さて、これで下ごしらえは良いかな? ではゴレムスくん先生、お願いします!」
ゴレムスくんにお願いしてボトルのフタをあけてもらう。キャップの構造を伝えるのが難しかったから、もうゴレムスくんに直接変形させて開閉してもらう事にしたんだよね。
穴を開けてもらった小さいボトル全てに、アイスクリーム液を注いでいった。
「ゴレムスくん先生、お願いします!」
小さいボトルにフタをして貰おうとゴレムスくんを持ち上げて台に乗せるが、ゴレムスくんは一向にフタをしてくれない。
私が首を傾げていると、ゴレムスくんはやれやれと肩を竦めた後に自分の肩をトントン叩いている。そんな簡単に頼まれたって困るんだよとでもいいたいのかな? トントンじゃなくてカンカン言ってるけどね。
「ゴレムスくん、昨日約束してインゴットも渡したよね? もしかして調子乗っちゃった感じかな? 私がゴレムスくん先生なんて言ったから勘違いしちゃったかな? フタなんてやろうと思えば私もできるんだよ? こんなふうにね」
ゴレムスくんの頭をもぎ取ってボトルの上に置く。頭をもぎ取られたゴレムスくんは両手をゾンビのように伸ばしてアタフタしている。ちょっと面白いけど頭が飾りなの知ってるからね? 君は本体核じゃん。
「や、野蛮ですわよ! 頭引きちぎるなんてなんて事をなさいますの!」
「ゴレムスくんの頭は飾りだから平気だよ。さて、フタも出来たからこんな感じでドンドンフタをしていこう!」
私の言葉に慌てたゴレムスくんはドンドンボトルをフタしていった。最初からやりなさい! ほら頭返してあげるよ。
「それじゃあリリ、また化学のお時間だよ」
大きいボトルに少し氷を入れてから塩をかける。小さいボトルも大きいボトルの中に入れて氷と塩を更に交互に入れていく。
「ほら、リリも同じようにやってみて? 素手で触らないようにね」
リリは用意した氷じゃなくてボロボロ自分で出しながら同じように入れていく。私はそれを見ながら他のやつもドンドン用意していった。
「さて、ゴレムスくん。わかるね?」
ヘッドバンギングしてから大きいボトルもフタをしてくれたので頭を撫でる。ツルツルだね。
「それじゃあこのボトルに布を巻いてっと。それじゃあリリもこれ転がしてね。シャルロットもゴレムスくんもよろしく! あとアンズと、まるで参加しているかのようにずっとくっ付いてた料理長もね」
私が台の上で勢いよく左右にコロコロと転がすのを見て、皆も転がしていく。シャルロットとゴレムスくんは1個ずつ、他の人は2個ずつの計10個だ。
シャルロットは飛びながら上手に転がして、ゴレムスくんはのっそりと転がしている。ゴレムスくんはゆっくり過ぎて上手く凍らない気がするね……。
「ほら、ゴレムスくんいくよー」
私はゴレムスくんにパスする様に転がしてあげることで移動の手間を省いてあげる。私とゴレムスくんで3個作ろう。
なんか増えてない? 3個転がしてたのに4個ある。シャルロットがガチガチとアゴを鳴らして合図をしてきた。
「これシャルロットのやつか。いくよーそれっ!」
1個をシャルロットの方に転がして、3個をゴレムスくんに転がして、もう2個を……もう2個?
「ノエル、こっちですわよ! 早く早く!」
「師匠! 私のもお願いします!」
「そ、それなら私のも一応……」
なんで皆してこっちに転がすんだよ! 転がすの面倒なのか!




