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話始めるタイミングは中々難しかったりする

 何はともあれ私の功績によって、マグデハウゼン帝国とモンテルジナ王国との友情にヒビが入ることは避けられた。きっと今日の事は歴史の一ページとなって後世に語り継がれるだろう。うん。


 王都に入り、先ずはスイーツショップに向かう。そろそろお昼時だから皆さんお腹も空いてるだろうし、スイーツショップに押し込んでおきたい。そうすれば私は「好きなだけ食べてね」と伝えてその間に何食わぬ顔でベランジェール様に速報を伝えられる。速報・何か王族来ちゃったよどうするって。


 久しぶりの王都の人々は、出発前より幾分厚着になっているくらいで変わらず元気そうにしている。ストリートチルドレンの連絡網も健在のようで、物陰で子供達が情報のやり取りをしている。私の帰還や、突如現れたマグデハウゼン帝国の客人の話も王都中を駆け巡ってる事だろう。


 スイーツショップの前は今日もたくさんの人が列を成していた。自分たちで並ぶ人もいれば、ストリートチルドレンが並んでいる様子も見られる。皆私に気が付くと頭を下げている。常連さんが多いのかな?


「ノエル、ここでいいのか? 何だか異様な雰囲気が漂っているが……」


「大丈夫ですよ。名義上は私のお店ですから」


「名義上って何か引っかかる言い方だなぁ」


 泣きボクロに憂い顔のウルゼルさんは、私とお喋りしてても気を抜いていないらしく、辺りに気を配っているのが見て取れた。

 姫様達には馬車を降りてもらい、店内のさらに奥へと向かう。店内で食べているお客さん達は、私の事を見るやいなや使っていたアダマンタイトスプーンやしまっていたアダマンタイトスプーンを取り出して掲げる。私はそろそろその挨拶の返しを教えて欲しいと願いながらも、訳知り顔で頷いた。それと、お行儀悪いと思うよ、普通にさ。


 個室に入るなり目に付くのはアデライト嬢に貰った私の絵だ。『まるで魔王』と言われるこのインパクトバッチリの絵を見て姫様はおお喜びだ。


「すごーい! お客様の絵が飾ってあるよ! 何かじいじみたいだね」


「……それは失礼じゃない? 私だってうら若き乙女なのにおじいちゃん扱いは傷付くよ。さ、姫様は席に着いてくださいね。ここは私が持つので好きな物何でも頼んでくださいね」


「フフッ。でも確かにハイデマリーの言う通り、王としての風格がありますね」


「そんなものありませんよ。あるとしたら画家の人が描いた想像の産物です。あんな絵よりもスイーツです。私は所用で出かけますんで、その間どうかスイーツを心ゆくまでお楽しみくださいませ」


 カッコつけて胸に手を当てながら頭を下げる。私の言葉を聞いていたかのようなタイミングでお店の子がクロカンブッシュを持ってきてくれた。

 二人も知っているシュークリームが積み上げられたその姿は十分すぎるほどに二人の注意を逸らしてくれた。私は今の内に一時撤退するとしよう。

 ウルゼルさんにここは任せたとアイコンタクトを送り、私は店を後にした。


 ●


 逸る気持ちを抑えながら、急げ落ち着け落ち着け急げと学園のリリの部屋へと向かう。


「リリー! ただいまー!」


「あら、ようやく来ましたのね。王都に着いてから随分遅かったではありませんの」


 何処か素っ気ない態度を取りながらも、指先は落ち着きなくソワソワしているのが見えた。リリも思春期、素直になれないお年頃だ。それならば私から行こうではないか。


 ソファに座っているリリの膝の上に跨るように座って首元に顔を近付けた。


「ちょっ……くすぐったいですわよ!」


「ん。リリの匂いだ。ただいま」


「もう。ノエルがそうするならわたくしだってお返しですわよ」


 リリは私の背中に手を回してギュッと抱き着きながら私の首元に顔を埋める。ここに美少女二人が絡み合うウロボロスが誕生したぞ! いつものメイドさんにこうかはばつぐんだ!


「リリも皆も元気してた?」


「そう……ですわね。ノエルが居ない間に色々と動きがありましたわ。その色々を抜きにして考えると皆元気にしておりましたわよ。ノエルはどうでしたの?」


「私? 私が元気してなかった事ある?」


 私はニシシと笑いながら隣に座り直すと、リリも少し呆れを含みながら笑い返してくれた。

 帝国に不満があった訳じゃない。だけどやっぱ皆が居ないと違うなぁとは思ったよ。


「そう言えば皆は?」


「そろそろ来ると思いますわよ。ノエルが帰ってきたのは鐘の音でわかっておりますし、それなら最初に来るのはわたくしの部屋だと予想出来ますから」


 おっと残念。スイーツショップに先行ったんだなぁ。そうだ、遊んでる場合じゃなかったんだっけ。


「実は――」


「ノエルも久し振りにミレイユの入れる紅茶飲みますわよね?」


 会話が重なってしまった。とりあえず話すのに紅茶があると話しやすいし貰っておこうかな。


「貰えるなる貰いたいけど……平気? 鼻血出てるけど」


「だいどぶでございます。どうぞ続きを」


「じゃあお願いね」


 続きってのは話の続きだよね……? まぁいい。


「それで――」


 ――コンコン


「来ましたわね」


 リリのお部屋にノックが響いて、またお話は中断だ。最初に来るのは誰かな?

 部屋に入ってきたのは我らが美少女エマちゃん。急いで準備してから走ってきたのか、頬を紅潮させて息を切らし気味に部屋に入ってきた。


「ノエルちゃん!」


「エマちゃん久しぶり! おいで!」


 手を広げる私に飛び付くようにエマちゃんは抱き着き、そのまま私の膝の上に跨って座る。リリの時とは上下が逆だね。

 エマちゃんも私の首元に顔を埋めて深呼吸を繰り返している。


「そんなに急いで来たの? 慌てなくたっていいのに」


「急がないと私の時間が少なくなっちゃいますから。ノエルちゃんの周りにはどんどん可愛い子が集まって来ますし」


「可愛い子筆頭が何言ってんだか」


 私はギュッと抱きしめながらあやす様に体をゆっくりと揺らす。エマちゃんは次第に首元から肩、胸元と徐々に顔の位置を下げていく。


「…………ノエルちゃんから知らない子の匂いがします」


 エマちゃんはヒンヤリとした刺すような空気を醸し出しながら、ボソリと呟いた。その声音はまるで古井戸の奥底から這い上がってきているような、低くくぐもった声。色で言えば赤黒いおどろおどろしい色だね。なんか怖いから落ち着いて欲しい。


「そうそう、それで話があって――」


 ――コンコン


 まただ。また私が話をしようとすると、それを合図にして一人ずつやってくる。

 次にやってきたのはベランジェール様とイルドガルド。ベランジェール様は私とエマちゃんのウロボロスを見て苦笑いを浮かべている。


「久しぶりね、ノエル。帰ってきて早々で悪いんだけど、貴方の新居がちょっと面倒な事になってるわ」


「え、なにそれ」


 さっきリリが言ってた色々と動きがーって奴かな? というか何故私の新居? あそこは今無人のゴーレムハウスだよ?


「ノエルの信者達が畑を作り始めたのよ。その場所がノエルの新居の何も無い広い場所ね」


「あぁ。あの職人さん達が畑作ろうってノリで始めたところね。まぁ元々畑作るって話で用意された土地だし別にいいっちゃいいけど……」


 そもそも私の信者が誰かわからないし、私の新居で勝手に作るのもわからない。分からない事尽くしだよ。


「でも一体何がどうな――」


 ――コンコン


 やっぱり。私が何か話そうとする度に今日は人が来る。この流れでいけば、次に来るのはアデライト嬢だろう。


「失礼します」


 そう言って礼儀正しく入ってきたのはメイドさんを連れたヴォルテーヌ公爵夫人だった。

 ここは学園の寮だよ? 流石に学生って歳ではないと思うなぁ……。

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