表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

204/215

チラッと見て終わり

 怒鳴り声に近いくらい、声を張り上げた人は慌てた様子で馬車から降りてきた。

 降りてきたのは豪華な衣装を着た、少し小太り気味のおじさんだ。


「ハイデマリー王女殿下! お救い頂きありがとうございます!」


「んー? 助かって良かったね! お客様に感謝して!」


「おお! そうですな! お客様? 助けて頂きありがとうございます。いやはやこの街道は頻繁に通るのですが、まさかゴブリンの群れにかち合うとは思っても見ませんで……」


 小太りのおじさんはポケットから取り出したハンカチで額の汗を拭いながら言い訳のように零した。

 通い慣れた道とか、家のすぐ近くとか、そういう所で油断してしまう女の子というのは前世にも結構いた。私が家までちゃんと送っていくよ、なんて言ってるのに『大丈夫大丈夫、もうすぐそこだから〜』って断るのだ。

 もし、よからぬ事を考えている人が潜んでいたとしても家の近くかどうかなんて一々斟酌しないだろう。顔に住所が書いてある訳でもあるまいし、襲われる場合はどこでだって襲われる。


 このおじさんもそこら辺の認識が甘かったんだよ。キツイ言い方をすれば自業自得って感じだ。


「突然何かから逃げるように、帝都方面からゴブリンの群れが走って来ましてな。何か強大な魔物でも出現したのやもしれません。帝都へ行くついでに私から報告しておきましょう。どうか姫様達もお気を付けてくだされ」


 じ、自業自得ってのは言い過ぎかもしれないね……。騎士も連れて移動してるんだから、おじさんはおじさんなりに出来ることをやっていたよ。うんうん。


 何か言いたげな視線を影子さんから感じるが、彼女は喋らない。だから何も言わないし、言いたげな視線も気のせいだね。

 おじさん達はこのまま帝都へ向かうそうだ。私達とは向かう方向が逆だからしかたないけどお別れだね。


 おじさんの忠告に従い、私達は注意しながらまた空へと舞い戻った。ちなみにあのおじさんが誰かは姫様も知らないそうだ。


「よし! 人助けもしたし、また海へ向かうよ! 姫様は退屈してない? 具合悪くなってない?」


「うん! 全然平気だし楽しいよ!」


「影子さんも平気?」


 影子さんは小さく頷いて答えてくれる。コリーナさんには聞く必要がない。顔色悪いからね。高所恐怖症だろうからそっとしておく。


 幾つかの街を越え、体感一時間もしない内に遠くからキラキラした光が見え始めた。どうやら海が近づいて来たみたいだ。


「姫様姫様、向こう! 何か見えてきましたよ?」


「どれ!? 何があるの? またゴブリン?」


 ゴブリンは私を悪者みたいにするからいらないよ。

 姫様が手を帽子のツバみたいにしながら遠くを見ていると、一際大きな声を出した。


「海だ! お客様あれたぶん海だよ!」


 抱っこしている私の服をグングン乱暴に引っ張りながら興奮気味に海を見ている。海が好きなのか、初めて見たからテンション上がってるのかはわからないけど、プチ旅行の思い出になったならよかったよ。


 海と一緒に大きな港町のような物も見える。いくつも船が浮かべてあるが、遠洋に出るような大型の船は見当たらない。ないのかな? 大型の帆船とか。それとも出航中?


「影子さんは海見た事ある?」


「……」


 小さく頷く影子さん。見た事あるらしい。シャルロットは海を見て、少し嫌そうにアゴを鳴らした。雨も嫌いだし、水が好きじゃないのかな? 多分濡れると飛びにくくなるから嫌なんだろう。


「お客様見て! 海大っきいよ! あれ全部お水なの?」


「そうだね。お水だけど、すっごくしょっぱいんだよ? だから飲めないの」


「水なのに飲めないの? 変なのー」


 せっかく来たんだし、少しだけ港町行ってみようかな。ただ、サカモト置いて行くのもちょっとあれだし、姫様を人混みに連れ回すのもちょっとあれだよね。


「コリーナさん。港町に着くけど、流石に行かない方がいいかな?」


「へ? 港町ですか? そうですね。今回は突発的な事ですし辞めておきましょう。万が一にも何かがあった場合、対応できません」


「それもそっか」


 行先を告げずに来ちゃってるからね。私たちが誘拐されてしまった場合、捜索範囲が帝国中、或いは世界中になってしまう。


「それじゃあもう少しだけ海に近付いたら今日は帰ろうか」


「え〜、せっかく来たのに?」


「だって抜け駆けしちゃったら陛下が姫様と一緒に来たかった〜って泣いちゃうかもよ? そしたら面倒臭いよ?」


「メンドクサイ? メンドクサイ!」


 姫様は言葉の意味はわかっていないのか、メンドクサイと繰り返しながら笑っていた。変な言葉を教えてしまったみたいで、コリーナさんからも影子さんからもジトっとした目で睨まれている。


 少しだけ海の上に出てみたけど、夏じゃないから賑わってはいない。というか海って魔物いるのかな? こっちでも海水浴とかするのかな? どちらにしろ、冬の海なんて怖くて入れないよね。


 姫様は変な臭いがすると言って、私の体に鼻を押し付けるようにしてしがみついていると、次第にウトウトとし始めた。まだまだ小さい姫様は、何だかんだで眠くなりやすい。

 こうしているとエマちゃんの小さい頃を思い出す。エマちゃんも私の体に顔を埋めてお昼寝してた気がするよ。


「じゃあそろそろ帰ろうか」


 姫様の背中をトントンと叩きながらそう言うと、コリーナさんはホッとした様な顔をした。イタズラするのは好きだけど、ガチで怖がってるっぽいから今度から遊覧飛行は誘わない方が良さそうだね。


 ●


 帝都に着き、いつもの訓練場へ着陸するとウルゼルさんがやってきた。


「一体どこに行ってたんだ? 出かけるなら出かけると……おいまさかハイデマリー殿下を勝手に連れてってないよな?」


「勝手ではないよ? ちゃんと誘ったし、コリーナさんと影子さんも連れてったしね。ウルゼルさんも誘えば良かったなぁって思ったよ」


 喋らない影子さんと、ただただ時が過ぎ行くのを祈りながら待つコリーナさんだからね。もう少しまともなパーティーメンバーが欲しかった。


「そ、そうか。その、なんだ。それなら声をかけてくれれば良かったものを……。まぁ騎士団の仕事もあるからいつでも、とはいかないが……ノエルは陛下の客人でもあるからな。多少融通も効くだろう」


 モソモソと喋るウルゼルさん。いつもはハキハキ喋るというのに、何だか歯切れが悪いね。


「あぁ、そうだ。王子妃(おうじひ)のアンナレーナ様からの招待状だ」


「アンナレーナ様?」


 アンナレーナ様も知らないけど王子妃ってのもイマイチわからない。抱っこしたままの姫様をコリーナさんに渡してから手紙を受け取った。

 封蝋をペリっと剥がして中を見る。要約すると、『ハイデマリーと遊んでくれてありがとう、明日お茶でもどう?』ってところだね。


「姫様のお母さんってこと?」


「まぁざっくりと言えばそうなるな」


「無礼でも怒られないなら参加しようかな?」


「無礼なら誰でも怒るのでは? 姫様も参加したいと仰ると思いますよ」


 姫様を一定のリズムで揺らしながらコリーナさんがそんなことを言う。ここ最近の姫様の様子を見てると確かに参加しそうではある。


「しょうがない。なんかお土産作って参加するよ」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ